「・・・俺さ。
来週からミラノなんだ・・・」
「そうなんだ」
やっぱり翔くんは忙しい人。
今のおれとは一緒に居ることはできないだろう。だから・・・
「潤のことを想う気持ちはあるんだ。
・・・でも、すぐに返事はできない。
いい加減な気持ちで話をしちゃいけないだろうし。
ミラノでじっくり考えてくる。
帰国したら会いに来るから、それまで待っててくれないか?」
「もちろん、いいよ」
俺の返事に、翔くんはほっとしたような顔をした。
夜遅く、翔くんは自分のマンションに帰るといった。
泊まって行ってもいいよといったが、りんちゃんにまだ正式に挨拶もしていないのに泊まるわけにもいかないといった。
「それに、やっぱり潤がそばにいたら、俺、ナニしでかすかわかんないよ?」
ニヤリと笑った顔に、真っ赤になりながら「もうっ!」としか言えないおれ。
「・・・抱きしめてもいい?」
「いいよ」
玄関先で二人できつく抱きしめあった。
「・・・気を付けて、行ってきてね」
「ありがと。
潤も元気でいて」
その日、翔くんはそれ以上触れることもなく帰っていった。
「じゃ、また」
小さく手を挙げて扉を閉めて後も、俺のどこかから彼の香りがしているようで、
懐かしいような、くすぐったいような、ふいに涙がこぼれそうな気持ちが離れない・・・