民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)/塩川 伸明

¥798
Amazon.co.jp

ブックオフで購入。
タイトル買いです。

民族やネイションというと私はどうしても「文明の衝突」サミュエル・ハンチントンを思い出す。
私の中でもトップ3には入る、名著中の名著。
大学時代に読んで本当に感銘を受けた。
そういう経緯があり、この本もタイトルで買ってしまった。

目次
第1章 概念と用語法
第2章 「国民国家」の登場
第3章 民族自決論とその帰結
第4章 冷戦後の世界
第5章 難問としてのナショナリズム

所感としては「よくまとまっている」本という感じだろうか。
特に「エスニシティ」「民族」「ネイション」「国民」といった、ざっくりした枠組みの概念を第1章から説明し、そこからこれらの概念を引き連れて、「パトリオティズム」「ナショナリズム」「近代主義」と発展させていく。

こういうざっくりした概念というのは歴史の道筋の中で生成され、そしてその区分というのがはっきりしない。
例えば血筋と言えばそれは紛れもない事実が分かることだが、はたして民族は本当に一つの塊なのか、文化圏といった場合、どこまでの範囲が組み込まれるのか、そしてネイションと言った瞬間、そこには国家の枠組みでしかなくなる。

当然こういった枠組みの中には様々な不安因子が組み込まれる。
この本では特にソ連や旧ユーゴ、バルカン諸国などを取り上げ、これまでの様々な問題とその原因を描く。

私がこの本を読んで楽しめたのは、特に概念を整理できたというところだ。
それこそ先ほど書いたように「エスニシティ」から「近代主義」まで様々な概念がこういう民族問題や歴史問題、国際関係を考える上で出てくる。
こういった概念はそれひとつを理解するのも困難であるのに、これらの概念がこう沢山出てくると訳が分からなくなるものだ。
それを一つずつ丁寧に紐解き、解説するという意味では、amazonの書評にもあったが「入門書」のたぐいとしては非常に良い。

逆に良くないポイントとしては、深堀ができなかったこと。
そのため概念を分かっている人間としてどうしても物足りない。
そういう私も学生の頃「文化学」を学んできただけあり、基本的に知っていることをおさらいしたようなところが多い。
そういう意味では、物足りない。

また終始これらの概念の考え方を説明し、そしてこれまでの事実関係を述べているのとどまっているため、作者としての意見というものがあまり見られなかったように思える。
そのため新しい視点を掴むという読み方ではない。

総論としては、これらの概念について詳しくない、これから学びたいという人にとっては、きちんとこれらの概念を整理できることがお勧めできる。


私はどうして販売外交に成功したか (Life & business series)/フランク・ベトガー

¥1,223
Amazon.co.jp

営業、特に販売外交員を対象とした本。
元々有名ではあったが、今回初めて読んだ。

目次
1.自分の仕事に情熱を持て
2.商売はやり方一つ
3.すぐれた話術から自信が生まれる
4.自分で自分を監督せよ
5.自己を動機付けよ
6.十五分間で二十五万ドル
7.こうすれば成功する
8.質問の効果
9.狙うなら一発必中のタマを打て
10.案外知らない販売の魔術
11.人から好かれるコツ
12.直接の証拠を示せ
13.服装も大切な商売道具
14.顧客から快く迎えられるには
15.名前と顔の覚え方
16.セールスマンが失敗する原因
17.恐怖心を克服するには・・・
18.販売の前にも販売
19.上手に面会するコツ
20.顧客の部下を味方にするには?
21.スポーツから学んだ教訓
22.新しい顧客を得るには
23.紹介状の活用法
24.販売に成功する七つの原則
25.先輩から学んだ販売の技術
26.失敗は成功の元
27.フランクリンの教訓


まず率直な感想としては「確かに」と思えること、なるほどと思えることが多々あり、勉強になる。
余り「成功」ばかりを歌う作品は好きではないが、内容は優れている。
自分に置き換えた時、自分に欠けているものが多く見えるし、こうすれば正解だったんだろうなと思わせるところが随所にみられた。

そういう意味ではこの本の評価は高く、ノウハウ本としては実践しやすいということもあり、非常に有効な書籍に思える。
どういう人が読むかにもよるが、特に個人を対象に営業活動をされる方には必読のように思える。
とは言え、当然個人向けだけかと言うとそうではなく、法人向けでも活用できるところは多々ある。

作者であるベドガーはこの本の中で、自らが大切にしている13の項目を挙げている。

1.情熱
2.秩序 -自分自身行動を組織的に行うこと
3.他人の利害関係を考える
4.質問
5.中心問題
6.沈黙 -相手の話をよく聞くこと
7.誠実 -信用を得るに値することをする
8.自分の事業に関する知識
9.正しい知識と感謝
10.微笑 -幸福感
11.人の名前と顔を記憶すること
12.サービスと将来の見込みに対する予想
13.販売を取りきめる -購買行動を起こさせる

特に私が感銘を受けたのは1の情熱、2の秩序、4の質問及び6の沈黙である。

私もかつて営業を行っていたので良く分かるのだが、営業という仕事はまさに情熱のためにあるようなものである。
情熱は勢いを呼び、笑顔を出させ、声を張らせ、自信を持たせ、学びの意識を燃焼させる。
そして顧客に最大のサービスを提供したいと思わせる。
世の中には色々なノウハウやツールがあるが、結局情熱に勝てる営業力はない。
これは最も重要なことであり、だからこそこの本でも最初に取り上げられているのではと思う。

続いて「秩序」は、この本では「仕事のこなし方」のような形で書かれていた。
その中でも最も印象深いのは、結局数がものを言うという考え方である。
要は場数である。
これも激しく同意するところであり、これは販売だけでなく、練習も講演も買い物も全て同様。
どれだけその場に出たか、それがきちんとした自分の経験であり、土台である。
私も前職の営業では良い成績を出していたが、それは訪問の数が同僚に比べ2倍近く多かったからだと思っている。

4.6はコミュニケーションに関わってくるのだが、恐らく私だけでなく多くの人がこの病というかこの失敗を踏んでいるのだろうと想像する。
大切なのは人の話を聞くこと。
営業するうえで主役は買い手である。販売する者は主役ではない。
どれだけ気をつけてもなかなか治らない話し過ぎという病気、これは何としても改善しなければならない。
しかし難しいのは改善しようと思って話しても、それでもまだ話し過ぎということ。
無口な人と思わせるぐらいを意識しないとなかなか改善しないだろう。

全体的な感想になるのだが、確かにこの本の評価は高い。
しかし一方で強引と思わせる手法もある。
このあたりは非常に難しく、結局その人に人間性や真摯さに左右される。
そのため当然この本に書かれている全ての手法を試す必要はなく、自分ができる、少し無理すればできることを着実に行っていくことが重要であろう。


ドラッカー名著集14 マネジメント[中]―課題、責任、実践/P.F.ドラッカー

¥2,520
Amazon.co.jp

上巻に続いて中巻、相変わらず読むのに骨が折れます。

目次
 ・マネジメントの必要性
 ・マネジメントとは何か
 ・マネジメントの仕事
 ・マネジメントの仕事の設計
 ・マネジメント教育
 ・自己目標管理
 ・ミドルマネジメント
 ・成果中心の精神
 ・意思決定
 ・コミュニケーション
 ・管理手段
 ・マネジメント・サイエンス
 ・組織についての新しいニーズ
 ・組織の基本単位
 ・組織の基本単位の位置づけ
 ・組織の設計原理と組織の仕様
 ・仕事中心の組織/職能別組織とチーム型組織
 ・成果中心の組織/連邦分権組織と疑似分権組織
 ・関係中心の組織/システム型組織
 ・組織構造についての結論


所感

特に面白いなと思った箇所は2か所ある。
本来はもっと重要な個所をチョイスしたいところだが、これまでのドラッカーの本で出てきたこともあるので、中巻で初めて読んで面白いと思ったところだけをチョイスした。

1.日本企業の意思決定

何が面白いかと言うと意思決定の考え方が欧米と異なることだ。
欧米では意思決定の力点は問題に対する答えに置く。対して日本の意思決定は、問題を明らかにすることに力点を置くということ。

要するに欧米では問題を解決するために様々な情報を入手し、そして最終的に意思決定が行われる。
ここで行われる意思決定は問題の解決策である。
つまりここから実際に各部署への調整、誰がするか、どのようにするかが検討される。
対して日本の意思決定は全ての調整が完了し、誰もが文句を言わない状態を作った上での意思決定である。
そのため物事が決まった後は早い。
なぜなら全ての調整は完了しているからだ。

だからこそ日本の意思決定スピード自体は遅い。
各部署への調整、部材の調達ルートの検討や運用の検討がされてからの意思決定だからだ。

この意思決定の差異については少々驚いた。
そもそも日本と欧米にこのような意思決定の差異が生じていたとは思いもよらなかった。
ただいつもこういう国家間差異を見ると、これもやはり文化差異なのかと思ってしまう。

欧米はいつもまず結論から入る。
それは言語もそうだし、物事の進め方も同様である。結論ありきである。
国難があればまずリーダーによるコンセプトとなるメッセージがある。
そしてそのメッセージの元、物事が進んでいく。


2.コミュニケーション

ここでドラッカーはコミュニケーションについて4つのことを記載している。
・コミュニケーションとは知覚である
・コミュニケーションとは期待である
・コミュニケーションとは要求である
・コミュニケーションと情報とは相反するが、両者は依存関係にある

何が面白いのかと言うと、すごく哲学の話をしていることが面白い。
四つのコミュニケーションの説明は、要は下へのコミュニケーションがいかに難しいかというのを言いたいがための前提であるが、なかなか面白い。
特に4つ目のコミュニケーションと情報は相反するところは物事を考える上で非常に興味深い。


と、2点ほど書いたが、この2点はこの本の中心ではなく一部である。
他にもこの本には興味深いところ、たまらないエッセンスが詰め込まれている。
当然「真摯さ」も含めて。

この本は前半部分は全て必読に思える。
カモメになったペンギン/ジョン・P・コッター

¥1,260
Amazon.co.jp

再読。
家にあると思ったのだが、どうやら実家に送ってしまっていたようで、再購入した。

ジョン・P・コッターの「企業変革力」を読むと理解力が増すと思うのだが、そんなの読んでいない私にはざっくりコッターの理論が分かる読みやすい寓話だ。
そう、この本は寓話なのです。
かわいい挿絵さえある。

ストーリーはペンギン達が長年住む氷山に危機が迫っていると1匹のペンギンが気づく。
ペンギンは仲間を集い、これをどのように全ペンギンに知らしめ、危機感を共有し、危機を回避することができるのかを考え、進めていく。
多々発生する問題をチームで解決し、成功へと導くためのストーリー。

ページ数は100Pに満たない量で、1時間程度で読めてしまう。
イメージとしては「チーズはどこに消えた」や「もしドラ」「夢をかなえるゾウ」のような感じかな。
推敲な理論を分かりやすく寓話にしてある。
当然本当に理解を深めたいならば「企業変革力」を読むのが必須となるだろう。

読感としては企業が機会を実行に移す仕組みをどう作り上げていくかを、本当にざっくりだが表面上“感じる”ことができたという感覚。
しかしこの本は本当に理論を分かっている人にとっては、様々なパターンを検証できるフレームワークのようなものになるのではと思った。

全世界の様々な企業が日々戦略を立て、物事を進めている。
この本では危機を感じることからスタートしたが、それは危機でなくともチャンスを感じることからでも良い。どうやって物事を進めていくか、成功に辿り着くかがのストーリーが分かりやすい。
また仕事をしている人ならば誰しも頷くシーンが沢山出てくる。
確かにこういう場面あるな、こういう人いるな、こういう感覚あるな・・・と。

私など特にそうだが、仕事の進め方が下手な人は、この本を参考にするのが良いだろう。
どういう時に何が必要で、どういった調整事があるか、あるいは理論で行くのか感情で攻めるのか、それぞれタイミングというのがあるため、このあたりは非常に参考になる。

またこれは寓話だが、現実の世界に落とし込みやすいストーリーとなっている。
2度目からは自分の現状にあてはめながら止むと、なお面白いのかもしれない。

ところでやはり気になったのだが、作者はアメリカの人かな?
ストーリーがいかにもアメリカンだった。
日本に当てはめると、ちょっとストーリーは変わるんだろうなと思う。
日本復興計画 Japan;The Road to Recovery/大前 研一

¥1,200
Amazon.co.jp

126ページの非常に薄い本なので、ものの3時間ほどで読めてしまう。
内容は原子力のノウハウを持つ大前氏が、特に原子力について状況と今後について言及する。
また後半ではいつもの大前節による日本復興計画が大々的に語られる。

もくじ
 第1章 これで原子力の時代は終わった
 第2章 三分の二に縮小する生活
 第3章 日本復興計画

読感

今回の地震により大きな二次被害を生みだした原子力発電について、自分はなるべく世間一般の流れに流されないよう注意していた。
こういう事件が発生すると当然原子力反対派の意見が活発となり、これにマスコミが便乗する。
そうなると皆が皆、原子力反対と騒ぎ立て、もう議論にならない。
そういう単なる時流に乗るだけの意見は発したくないし、そんな発言は真摯ではないと思っていた。
色々と原発についてはきちんと整理したいと思っていた最中に、この本が刊行された。

そういう心境の中で読んだ特に1章の「これで原子力の時代は終わった」は響いた。
そもそも私自身は当時からそこまで原子力反対派ではなかった。
原子力発電がエコで夢のあるパワーとまでは思えなかったが、マクロから見た日本の現状(特に燃料問題や輸出ノウハウ)を加味すると選択肢としては悪くなかった。

しかし大前氏が言うように、原子力の時代は終わった。
薄々は感じていたが、間違いなく日本はこれから原子力を推進することはできないだろう。
つまり日本は一つの得意分野を放棄することになる。

ただ考えていく中で、もしかするとこれはこれで良かったのかもとも思える。
当然弊害はあるものの本来論としては、最もエコで最も環境に優しい発電が世界に広がることが最も望ましい。
それは地熱や風力、太陽光、海洋温度差等、様々な発電方法がある。
(水力はダム反対派の私には許容できないが)
ただそれに着手するには多大な資金と人材が必要で、また効率も悪く、何年も、下手をすれば永続的に赤を垂れ流す事業となりえるかもしれない。
しかし、それは本来あるべきことである。
こうなった以上、日本は良い意味で覚悟を決めなければならないと思う。

大前氏は今回の福島第一原発の惨状を、悪いことが重なり続けたと言った。
確かに本書を読むとなるほどと思わせる。
しかし私がこの福島の一報を見聞きした時、これは素人としては当然の考えだが、なんと皮肉なことだと思った。
なぜなら「原発を復旧するための電力がない」ということが大々的にニュースに流れたからだ。
電力を作る、最も電気を持っているところに電力がないとは、何という皮肉か。

今更、福島第一原発についてどうこう言うつもりはないが、電力がないからお手上げというのは、いくらなんでも恥ずかしすぎる。
地産地消と言っておきながら、地産品がないようなものだ。

大前氏の日本復興論については、正直分からない。
道州制の効果がはたしてどれくらい効果があるものなのか、消費税の短期的2%アップ論がどういった効果や弊害を伴うものなのか。
道州制は全く意見はないが、消費税はもう永続的に5%上げたほうが良いような気もする。
短期的な増税は短期的な消費減少をもたらす。
永続的にしてしまえば、結局いつ購入しても同じことだから、消費減少にはつながらない。
(当然、家計を圧迫する分、消費が減少されるのは止むないとして)

長々と書いてきたが、この本を読んで改めて確信したのは、やはり今は最大のチャンスであることということである。
物事が変わるのは革命が起きた時である。
しかし日本で革命は起こり得ないので、こういう国難があって初めて変わることができる。
この機会、つまり大きな犠牲の上に成り立っているこの機会は、本当に大切にしないといけない。
競争の作法 いかに働き、投資するか (ちくま新書)/齊藤 誠

¥777
Amazon.co.jp

こういった本は何という分野になるのだろうか。
経済学と言えば少し違うし、経済ジャーナリズム的な話とも少し違う、経済論説のような話だ。
特に「失われた10年」もしくは20年について語られている。

この本を読んで色々と意見はあるが、まず「いかに働き、いかに投資するか」という副タイトル
については、特段大きなトピックではなかった。
結論部分には確かに今後の指針のようなものがあったが、大きなトピックではなかった。

個人的な意見として、まず着眼点は面白い。
多くの人がこの10年、もしくは20年について、何だったんだろうという疑問があり、それはマスコミが騒ぐような短期的な経済危機ではなく、長期的な停滞と言うか調整であった。
第1章では経済停滞によって世間一般に騒がれる物事を、まずは冷静に見てみようと呼びかけ、それを数字として確認している。

第2章に入るとちょっと論説が極端に走る。
特にメーカへの批判や円安についての言及が極端で、少し閉口する。
この10,20年で民間企業がいかに無駄なことをしてきたかということを描いているが、ちょっとこの部分については私にはついていけない。

3章、4章は将来的な視点で何をどうすべきかについて描く。
この部分はなかなかに面白い、というか、自分の考えていた部分にかぶるので興味深い。
この10年、20年で何が失われ、何をどうすればよいのか、あるいはそもそも失われているんだっけ?というような話だ。

これは私もマスコミに責任があると思うのだが、世間に大きなインパクトはないが常に何かしらの弱含みがありますよ的なストーリーが作られたせいで、本当に何がどうなっているのかが議論されていない。
そのため全てが「失われた」という言葉でまくられてしまう。
そういう意味ではこの10年、もしくは20年はもっと噛み砕いて考えれば良かった。
ただ20年も経ってしまうと、もうひとくくりでは語りきれないような気もするが。

さてこの20年って何だったんだろう。
そもそも1990年代に我々が描いていた2010年ってどういうものだったんでしょうね。
ドラッカー名著集13 マネジメント[上]―課題、責任、実践/P.F.ドラッカー

¥2,520
Amazon.co.jp

ドラッカーの「マネジメント」の上巻。
「マネジメント」は上、中、下とあるが、それぞれ400ページほどもある厚い本だ。
この三巻では大きく上巻で「マネジメントの役割」、中巻で「マネジメントの方法」、下巻で「マネジメントの戦略」を書いている。
上巻では「マネジメントの役割」をさらに細かく28章まで分けている。

このドラッカーの本の感想を書くということは非常に大変な作業である。
それはこれまでも苦労してきた。
そのため感想を書くのを諦めた巻も多々ある。

書くのが難しい理由は、一般的に言う本のポイントと言うのが多すぎるからである。
考えるべき項目は多岐にわたり、とても取捨選択できるレベルではない。
それでか感想もどうしてもぼやけたものになってしまう。
粗筋でさえ書ける自信がない。
と、そんなことを言っても仕方ないので、ピンポイントでここが気になったから書くというスタンスで書こうと思う。

「われわれの事業は何か」
ドラッカーが提唱するひとつの提起である。

これは一般的な業種とは異なる。
例えば保険会社の保険を売ること事業ではなく、「かゆいところに手が届く事業」なのか「安心を届ける事業」なのか、あるいは「コミュニティ事業」なのか。
どちらかというと会社の存在価値に近いニュアンスである。

この提起を回答するにはいくつかのステップが必要とドラッカーは言う。
それは「顧客はだれか」、「顧客にとっての価値は何か」である。

この本ではカーペット産業の例が記載されていた。
アメリカのカーペット産業はユーザーを顧客と捉えていたが、ある時、住宅施工社も顧客と言うことに気付いた。
そして住宅施工社にとって、カーペットの価値は何か、求められているものは何かを追求した。
こうして新規物件にカーペットが付いているという一つのセグメントを生んだ。

このわれわれの事業は何かについて、電子マネーを運営する会社の事業とは何だろうかということを考えていた。
それは「業種に○をつけてください」の欄で、金融とするか悩むことにも繋がる。
しかし顧客はだれか、顧客にとっての価値を考えた時、金融ではないということに気づく。
ユーザは便利さ、お得さ、ブランド、楽しみを価値と捉えているはずである。
また加盟店は決済のスピード、集客性、付加価値等を価値と捉えているだろう。
そこに金融の価値は入ってこない。

こう考えた時、元来私は電子マネー事業はユーザーを中心に添えたエンターテイメント企業だと思っていたが、そうでもないことに気づく。
我々の事業はユーザーと加盟店を電子マネーという媒体によって、両者を仲介することが事業ではないだろうか。
そこに電子マネー自体の価値はあってはならない。
電子マネーは両者繋ぐこと自体が価値であり、電子マネー自体に価値があってはならない。ただの媒体でなければならない。

つまりサービス仲介業者?
なんだろう結婚斡旋仲介業に近いのか?
ただ結婚斡旋と違うのは、結婚斡旋は結婚させてしまえばそれで終了だが、我々の事業は結婚後もずっと両者がうまくいっているか見守り続ける必要がある。
ユーザーと加盟店がどうしたら密接に繋がるか、ただそれだけを考え続ける、それが我々の事業か。

なんてことを考えていた、有給取った水曜日。
日本辺境論

¥777
楽天

この作品は評価に困る。
ある視点からは目の付けどころとして非常に面白いが、その説明が見事に破綻している。
そのため作品としてどうも説得力がない。
おまけに最初から長々と作品に対する弁護の論調が垣間見えるため、なおさら説得力がない。

と、作品の批判文を書いてもつまらないので、作品について考えたことを書く。

日本文化論は様々あるが、どれも間違いとは言えない。
文化は様々な要素の複合によりできるものであり、例えば気候、国の位置、鉱物の有無、生産植物の種別、他国の侵入など、様々な要素が考えられる。
その中にこの本の主題である「辺境」という要素も含まれる。
もちろん「辺境」という一つの要素だけでは日本は語れず、あくまで要素の中の一つにすぎない。

例えば日本が辺境国で、かつ「寒冷地」の国であれば、日本は今の姿と異なっている。
また日本に石油が取れていれば、またそれは違った世界を見せてくれる。
当然日本が辺境国でなければ、日本の文化はこれほど深くやさしい文化にはなりえなかっただろう。
全ての要素が現在の日本の姿に繋がっている。

この「辺境論」を読んだ時、私はやはりここに「島国」という概念が欲しかった。
「辺境の島国」、これが私の思うこの本の少なくとも前提になる。
辺境の陸続きと、辺境の島国では全く意味合いが違う。
それは「逃げることができない」という恐怖感と「守られている」という安心感という二つの概念を持たせた。

常に我々はこの島国から逃げることができないという意識は、卑弥呼時代の船の派遣から第二次大戦まで、常に周りの世界に対してどう舵を切っていくのかという危機意識として常に認識されていた。
時には大国に媚を売り、時には寝食を我慢して国力を増大させた。
その必死さは、国を放棄できない島国の定めである。

同時に海に囲われている安心感というのは、独自の文化を育ませた。
時代によっては外国を意識し、国を見直す。
またある時は外国から距離を置き、自ら国を育む。
このバランス感は臨機応変に、時代に置いていかれず、追いつかずという非常に面白い活動を見せた。

しかし明治以降の日本は海を支配する西洋を見て、島国であることが国を守らないと知ってから、特に「逃げることができない」という恐怖感を前面に出させた。
だからこそ日本人は国を崩壊させる恐怖感から必至なる覚悟で近代化を進め、また戦争に挑んだ。
「礎となって国を守る」精神は、日本国土に根を張った我々の覚悟である。
また「玉砕」は当然に軍部の暴走もあったが、暴走を生んだのは逃げることができない島国の宿命であった。

この意識は当然に今の人々の深層意識にまで浸透し、文化となっている。
「辺境」であることはつまり大国との距離感があることを示す。
当然そこには島国だからこそ置けた距離感というのがある訳だが、これがある意味ではこの本で語っている内容を育んでいると言えるのかもしれない。
ながい坂 (上巻) (新潮文庫)/山本 周五郎

¥780
Amazon.co.jp

ながい坂 (下巻) (新潮文庫)/山本 周五郎

¥780
Amazon.co.jp

あらすじ

徒歩組という下級武士の子に生まれた小三郎は、八歳の時に偶然経験した屈辱的な事件に深く憤り、人間として目覚める。学問と武芸に励むことでその屈辱を跳ね返そうとした小三郎は、成長して名を三浦主水正と改め、藩中でも異例の抜擢を受ける。若き君主、飛騨守昌治が計画した大堰堤工事の責任者として、主水正は、さまざまな妨害にもめげず、工事の完成を目指す。


万人にもそうであるかは分からないが、人にはその人生を形付ける核があり、その多くは遅くても20代前半までには形成される。

この作品の主人公である小三郎の八歳の経験は、父と池に釣りに行く際、毎日使っていた池への山道にある小川の橋が一介の身分が上の武士により壊され、今後は通るなと言われることだ。小三郎にとってショッキングだったのは、まさに子供にとって不動のものと思われていた橋がこんなにも容易く取り壊され、普段の道がたった一介の武士によって破壊されたことであった。

この経験と言うのは大人では感じられない、子供が持つ世界観の破壊である。
大人であれば身分というものを理解し、それ相応の心の準備であったり、用意というものがある。
それが理不尽なものであっても、経験からうまく対応できることもある。

しかし子供にとって不動のもの、つまり世界を形成していたものが、余りにも容易く破壊されると、準備のない子供にとってはそれは天変地異を揺るがす衝撃を受ける。

恐らく誰しもこのような経験はあるのではないかと思う。
学校で最も喧嘩の強かったものが他校の生徒にいとも簡単に負けてしまう。
自慢の父が周りにとても軽んじられているところを見る。
自分が自負していたものが一歩外に出た時に、全く自負に値しないことに気付く。

これは一般的に大小の差はあれ、アイデンティティの崩壊と呼ばれるものである。
ただしこれは成長に最も重要で、その殻を破られることで一般的に一皮むける。

しかしこのアイデンティティの崩壊というのは非常に難しい。
この崩壊は衝撃的だからこそ、受け手によってはどう出るか分からないところがある。
例えばこの作品の小三郎のように、他を寄せ付けない揺るぎない志になる場合もある。
同時にそれは人生どうしようもない時があるんだという諦めを生む時もある。

またこのアイデンティティの崩壊は程度の影響も大きい。
一度の非常に衝撃的な出来事と、小さな衝撃を数多く受けるでは人生の在り方が変わる。それがどちらが良いというのは何とも言えないが、例えば今回の東北大震災で、それこそ10代の子供たちが受ける衝撃は計り知れない。
不動の家どころか、町全てが洗い流され、親、親戚、友人を一気に失う衝撃は計り知れない。

話がアイデンティティに偏り過ぎたが、この作品はそれを核としてストーリーを進めていた江戸時代の一介の侍の話である。
その揺るぎない精神と行動が魅力的な作品である。

評価3
★★★☆☆
国家債務危機 ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか? (単行本・ムック) / ジャック・...

¥2,310
楽天

以前に知り合った男性と日本の借金について話し合った時、日本の借金はやばくないと聞いた。
しかしこれがどうも納得いかないこともあり、この本に助けを請うた。

この本の目次は以下の通り
 1.公的債務の誕生
 2.公的債務が、戦争、革命、そして歴史をつくってきた
 3.20世紀、≪国民主権≫と債務主義の時代
 4.世界史の分岐点となった2008年
 5.債務危機の歴史から学ぶ12の教訓
 6.想定される「最後のシナリオ」
 7.「健全な債務」とそのレベルとは?
 8.フランスの過剰債務を例にとって考えてみると
 9.債務危機に脅かされるヨーロッパ
 10.いま世界は、何をなすべきか

私が特にこの本の中で興味を持った箇所がふたつある。
「ソブリンリスク」と「健全な債務と不健全な債務」である。

ソブリンリスクについては、前述で記載した通り知り合った男性が話していた日本の
借金はやばくないということろに起因する。
そもそも彼の言う「やばくない」とは何を持ってやばくないのだろいう。
そこにはいくつかの要素がある。

1.日本の債務(約900兆円)がが国内でまかなわれていること
2.日本国民の総資産が1400兆円(実質は1000兆円?)あるということ
3.日本の金利がほぼ0に近いこと

ここから言えることは、海外からの債務ではないため債務コストを大幅に変化させる為替の問題が発生しないこと。
日本の総資産内で債務を抱えている形になっていること。
そして金利がほとんどないため、支払額が大幅にぶれることはないことである。
そういう意味でやばくないというのは、あながち間違ってはない。

ただしそれは今現代ではということであり、今後はそうとは言えない。
今後債務が日本の総資産を超えることは目に見えているし、そうなった場合、日本は海外に対し債権を売る必要性が出てくる。
その時に0金利では売りだせない。
また債務の返済額が大きくなると、本来の目的である投資に回すお金がなくなる。
まさに切羽詰まった状態に見える。


もう一点気になったのが「健全な債務と不健全な債務」である。
この本に記載されている健全な債務の定義は、長期的に収益性の高いインフラ投資であったり、非物質的な投資である。
つまり公共のインフラ整備(教育、医療、運輸、社会設備)や科学技術研究、治安、国防等がそれに当たる。

逆に不健全な債務の定義は、借金が政府の経常費や、浪費の元凶である無駄な投資に費やされるもの、あるいは現世代のために必要な費用を借金で賄うことである。

そう考えた時、今まさに日本の債務は極端なほど悪い方向に進んでいるように思える。
日本の歳入は約95兆円だが、その中で債務は45兆円となっている。
その予算の中で現在日本の歳出で最も大きく、また今後も増え続けるのは社会保障費である。
当然ながら45兆円の債務全てのこの費用に充てているわけではないため、全てが悪いとは言い切れないが、当然ながら債務の多くがこの費用に費やされる。
そして将来を見据えた投資は、近年の緊縮財政や事業仕訳けによりバッサリと削られている。
無駄を削ることには何も問題はないが、削ることが余りにも美化され、将来への投資について本当の意味で検討がなされていないところが非常に問題のような気がする。
その声は国民の中にもあり、事業仕分け後、おかしいのではないかという声から見直し後の再見直しで予算が付けられた事業もある。

本来債務とは将来への投資、あるいは悪くても緊急の特別予算(今回の東北地震の保障等)で当てるものである。
つまり少なくとも社会保障費及び現在の支出となるものへの予算は税金で徴収する必要がある。
そう考えた場合、個人的に消費税15%論は結構的を得たパーセンテージのように思える。

消費税を15%にした場合どうなるかについて、すごーくざっくりだが、ちょっと考えてみた。

■歳出
現在の支出 : 社会保障+地方交付税交付金+国債支払い=65兆円
投資の支出 : 公共事業+文教、科学振興+防衛+その他=25兆円
■歳入
現在の収入 : 税金+消費税増額分(10%増で約20兆円)=68兆円
投資の収入 : 公債(45兆円⇒25兆円に20兆円減額)  =25兆円

参考 : 国税庁HP
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/gakushu/hatten/page03.html?non

すごくざっくりだけどこのような予算にすると、現在及び投資としての収入、支出の筋が通る。
公債の25兆円はつまり投資の支出のために組まれる予算となる。


この本でこのソブリンリスクを解決するための手段として8つの方法が記載されていた。
「増税」「歳出削減」「経済成長」「低金利」「インフレ」「戦争」「外資導入」「デフォルト」である。
この中で日本にはすでに難しいものも入っている。
逆に最も簡単と言えば語弊になるが、この中で少なくとも一定の効果が上がりやすいのは「増税」である。

これから震災でまた大きな予算が必要になる。
これを機会にでも良いので、一気に増税に踏み切ってほしいものだ。