前回記事のとおり、エンジン周りについては燃料噴射量を増やすことで一応は解決しました。

 

車両全体にわたって細かく改善する点はまだありますが、タイヤに動力を接続し、道路を走行するための施策という点においてはほぼすべてが達成されました。

 

最後にどうにかしなければならないのが、チェーンラインです。

一般的な観点において、チェーンラインが正常であるとは以下のことを指すことが多いと感じられます。

①ドライブ/ドリブン両スプロケットの中心にチェーンが掛かっていること

②両スプロケットにチェーンをかけたときに一直線になるということ 

 

②についてはレーザーレベラーで直線性を確認している光景をよく見ます。

 

このスワップにおいては両方の事項についてあっさりクリアできました。

エンジンマウント製作の段階では、スペーサーを長さ別で大量に用意してエンジンの車幅方向の位置を調整する必要があるかと思われました。

仮にエンジンのマウント穴の端面と従来のマウントプレートの端面を突き合わせて、製作したマウントプレートで合わせてみると、一発で上記のチェーンラインは出ました。驚きでした。同メーカー産であり、年式やクラスなどの観点において近縁車種なので、設計における共通部分があるのかと推測します。

 

 

 

先に製作していたドリブンスプロケットのアダプタプレートについても、純正とPCDをそろえて設計したところ、あらゆるクリアランスがクリアされたということがありました。

 

一般的な意味でのチェーンラインはクリアできたのですが、エンジンの角度や高さの都合で、カウンターシャフト軸(=ドライブスプロケット中心)がスイングアームのピボットシャフトの中心より下にきてしまいました。

こうなるとチェーンがスイングアームに干渉します。

 

 
干渉分のチェーンを浮かせておくために、アイドラー機構が必要になります。
この機構は動力のロスにしかならないものであり、車体設計においてはアイドラーがいらないようなチェーンラインの設計をするはずです。
このため、バイク用として市販されているアイドラースプロケットは存在しません。
対象をバイク用に限らず工業用途のアイドラースプロケットを探してみると、存在はしていました。しかし工業用であるためバイク用とサイズのラインナップが異なります。CBR250Rのチェーンサイズは520です。ピッチは区分5です。それに対して工業用でピッチが区分5であるのは50サイズです。これはバイク用で言うところの530です。工業用の5ピッチはこのサイズしかありませんでした。厚みが余計にあります。
 
工業用アイドラースプロケットを520の厚みまで削れば520チェーンに合いますが、焼きが入った金属を削るのは現実的ではありません。
 
まず代用によって対処することを考えました。
運搬用のナイロンキャスターを用いるとチェーンラインは解決されました。ただし、あまりにも回転の音がデカい 公道走行はできないレベルでした。 

 

 

 

 

 

 

 

コォーーーーという高い音が聞こえると思います。タイヤを接地して発進させるとこれがさらに大きくなります。

 

軸を観察してみると金属の軸とナイロンローラーが単純に接触しているだけで、ベアリングはありませんでした。ナイロンの自己潤滑性のみによって軸とナイロンの滑りを生み出しているようでした。これが騒音の一因と思われます。
また、チェーンの速度と荷重も問題と思われます。この使い方でのナイロンキャスターは想定より遥かに速く回ることになり、また回転力が荷重となって加わっているはずです。これらの逸脱が摩擦を大きくし、走行に耐えないほどの騒音を発生させたと考えられます。
 
したがって、アイドラースプロケットを自作する必要があります。
スイングアーム上に軸を設け、そこにアイドラースプロケットを設置してチェーンを持ち上げるというかたちになるため、センターが出たスプロケットと任意の軸が必要になります。
 
純正ドライブスプロケットがサイズ(歯数)としてはちょうどよく、これを用いるとすれば、このスプロケットに嵌合するスプラインが切削された軸があればちょうどいいのですが、そこまで大仰に制作するつもりはありません。
スプロケットのセンターが出せれば任意の軸を通して、ベアリングを追加することで目的が達成できるはずです。
これは回転部品なので、センターの精度は妥協が効きません。
 
スプロケットと同径の円をアルミ板に罫書いて簡易的な治具としてセンターを出し、以下に掲載するベアリングが収まるようパイプを溶接してアイドラースプロケットを再現しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この案については失敗しました。
ベアリングの外径が28.0mmで、ストックしていた外径31.8mmのパイプの内径が28.6mmだったので、これをスプロケット本体に溶接してベアリングのハウジングとし、イモネジで固定する方式を採りましたが、イモネジで軸を蹴り出すとき、0.6mmの差が軸のブレとなってしまいました。回転させてもラジアル方向、アキシアル方向のどちらについてもブレブレでした。
 
ハウジングの接着手段として溶接を採ったこともよくない気がします。精度が必要で比較的小さめの部品なので溶接は歪みによって精度を下げてしまう気がします。
また、スプロケット本体にパイプを溶接してしまったことも失敗でした。次の案にこのスプロケットを使えなくなってしまいました。
スプロケットは新調することになりました。
 
既製のスプロケットのセンター出しにおいて難しいのが、中心がすでに穴であるということです。先にあげたアルミ板の治具でセンター自体は出せるのですが、この治具を外したあとに中心周辺が中空なので、先の失敗例のように軸側に力を加えて固定しようとすると軸がブレます。
センター出しについても、罫書いた円とスプロケットの刃先を合わせる際の精度がが手による調整次第になってしまい、根本的に精度が上がりません。この点も問題です。
 
これを踏まえ、精度が手による調整に依存せず、かつ、スプロケット中心付近が中実となるように治具を製作しました。
フィキシングプレート用のボルトが都合よく使えそうです。

PCDを測って鋼板上に再現し穴を開け、軸を通す部分には用いる軸径12mmを呼び径とするM12のタップを切り、ボルトを通しました。フィキシングプレート取り付け穴でスプロケットと治具を固定することで一切軸がずれさせないという計算です。

フィキシングプレートの固定ボルトはM6です。一般的にM6ボルト用の通し穴には6.5mm程度の穴を開けますが、今回は厳密な精度のため6.0mmの穴にしました。穴あけの際のズレが許されません。ボール盤でできる限りの精度を出すよう集中しました。

 

治具を取り付けたら疑似軸のM12ボルトの周りに細かく切ったハンダを入れます。これをトーチで加熱して鋳造を行います。

 

 

 

 

 
目論見通りのセンターが出ました。鋳造されたM12メネジを、ズレがないように12.0mmドリルでさらいます。これで、12.0mmの軸が通るようになりました。
 
ベアリングとスプロケットの固定方法、軸を固定するのか回すのかなど、センターが出たあとも試行錯誤は必要でしたが、下記の通り形になりました。
ベアリングの外輪をスプロケットに押し付ける形をとりました。ここでもフィキシングプレート用のボルト穴が有効に利用できました。焼きが入った金属に新規のボルト穴を開ける気はしないので、アマチュアとしてはこの穴があって本当に助かりました。
軸については固定で使うことにしました。

 

 

 

 
あとは動画に映っている自作のベアリングユニットに軸を固定し、スイングアームに実装するだけです。
 
記事に掲載した以外にも、軸にスプロケットを固定するためのスペーサーなどいろいろ買ったものがありますが、結局完成品仕様においてはほぼ使いませんでした。スペーサーは精度が出ておらず使うとブレが出ました。
 
もったいないような気もしますが、シンプルな設計を堅持できたと捉えます。
 
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