映画鑑賞~「冷たい熱帯魚」、「ミザリー」、「オーディション」、「ジョニーは戦場へ行った」~ | FXで有り金全部溶かした友達の顔を見てみたい。
「冷たい熱帯魚」と「ミザリー」、あと「オーディション」
 久しぶりにホラー映画を観ました。
といより実写映画が久しぶりです。





 「冷たい熱帯魚」のあらすじ
死別した前妻の娘と現在の妻。その折り合いの悪い二人に挟まれながらも、主人公の社本信行は小さな熱帯魚店を営んでいた。波風の立たないよう静かに暮らす小市民的気質の社本。だが、家族の確執に向き合わない彼の態度は、ついに娘の万引きを招く。スーパーでの万引き発覚で窮地に陥る社本だったが、そんな彼を救ったのはスーパー店長と懇意のある村田だった。村田の懇願により店長は万引きを許す。さらに大型熱帯魚店を経営する村田は、娘をバイトとして雇い入れる。その親切さと人の良さそうな男に誘われて、社本と村田夫婦との交流が始まる。しばらくして、利益の大きい高級魚の取引を持ちかけられる社本。それが、村田の悪逆非道な「ビジネス」を知り、同時に引き返せなくなる顛末への引き金となった。


 この作品はホラー要素は少ないですね。
どちらかといえば人間ドラマを丁寧に描いた映画だったように思います。
埼玉愛犬家殺人事件をベースにした物語ですが、実際事件の概要を読んでみましたが、あくまでベースにしているだけでオリジナル要素が多いためフィクションと言ってもおかしくないですね。

 この作品の魅力は何といってもキャラクターだと思います。
村田夫妻と社本、ラストだと社本の娘も本性が現れ非常に楽しませてもらった。
前半は村田夫が特に印象的でした。
外見からはとても友好的な人間で悪い人間には見えませんが、隠れたところでは猟奇的で気の狂った人物であり、この両面が切り替わる瞬間の演技には役者に感心してしまうほど、素晴らしいです。
対照的な性格を使い分けるというのも面白いところで、個人的にホラー映画でお気に入りの「エスター」とそういった点では非常に類似した作品でした。

 村田夫がそういった猟奇的な行動をとるのかは幼少のころに親から虐待を受けていたことと関連しているという描写があり、わりと現実的なものでしたが、村田妻はそれとはまったく違う感じでしたね。
彼女の場合は過去が明かされることは作中にはありませんでしたけど、猟奇的な思考は村田夫を超えており、自分の欲求を満たすためなら、他人はどうでもいいという考えの人物だったように思います。
また、その欲求を満たすためなら自分の一部を犠牲にしてさえ良いと思わせるキャラだった。

 社本は内気で積極性に欠ける人物で、それゆえに村田夫妻に付け込まれ、引き返せない事件へと巻き込まれます。
村田夫が社本を自分の後釜として育てようとする場面(こういった発想も十分恐ろしい)で、村田夫に社本の存在を全否定され、自分の家族まで奪われ、精神的に参りだす社本。
この人格が崩壊していく様はとてもよかった。
視聴者からすれば、社本が味わった経験は想像を超えており、なぜ人格が崩壊したのか考えようとしても視聴者にはそういった経験が皆無なので制作側のシナリオを自然と受け入れることができたし、社本の象徴であるメガネを村田夫に捨てられることで、今までの社本と違う社本を表現する演出はわかりやすかった。

 社本は豹変し、今まで逆らえなかった村田夫をボールペンで何か所も刺し殺そうとする。
無我夢中で身体にボールペンを突き刺す。
それを観た村田妻は爆笑w
ここのSEが単調すぎて、イラっとしたな・・・ボールペンで刺すたびにドン!ドン!ってどれも同じ音なんだもんw
社本は村田夫を殺害し、村田妻にそれを解体させ、自分の家族を取り戻そうとするが、家族の関係は崩壊しており、強引に家族と一緒に食事をとりますが、修復不可能。
最終的には社本の妻を殺害した後、自害する。
社本の死体を見た娘は今まで抱いていた憎悪を露わにし、高らかに笑う。



 
 社本は後半変わり果てた姿になってしまったけど、どこが清々しげで、観ていて爽快だった。
ただ、完全に変わってしまったのではなく、キャラを使い分けているようだった。
村田妻に命令した後、返り血を浴びた身体を洗う慌ただしい行動とか、自分の娘に暴力を振って強引に店から連れ出し、自宅に帰ろうとしない娘を蹴り飛ばした後、泣きながらハンドルに頭をぶつけているから、彼は結局のところ良心はしっかり残っているようだ。

 じゃないと、実の娘に「人生ってのはな、痛いんだよ」なんて助言を残さないでしょ。
彼が短期間ながら巻き込まれた事件で彼自身の人生を振り返りそれを痛感したんだと思われます。

 しかし、自分の人生にもう未来はないからか、村田夫妻と関わり殺人を行った罪に責任を持って自害したのかもしれないけど、何故社本の妻を殺害する必要はあったのだろうか?
彼女はやり直したいと強く願っていたのを聞いているのに、それを認めようとはしなかった。
ただ娘の生きたいという願いだけは聞き入れたんですよね。




 でもホラー映画でよくある誰も助からないENDよりは幾分良かったような気がする。
監督はもしこの作品を違う終わらせ方をするなら、社本が村田夫を殺害し、それを見た村田妻が笑う場面でエンドロールを流したいらしい。
それは確かにキレイにまとまってはいるけど、在り来たりな感じがする。
そのキャラのこれからのエピソードが描かれないエンドはたくさんあるから、今回の結末が用意されたエンドは新鮮で面白かったと思いますよ。

 若干の失速感はあるけど、それでも新しいし、洋画にはない構成だったと思う。
彼にとって救いようのない物語だったというのが良かったです。
彼が自害して、娘がそれを悲しむとなると、日本映画によくあるお涙ちょうだいなラストになってしまうけど、そうしなかった事で最後までブレない内容だった。





 残念な点を挙げると。
・社本妻が村田夫に犯される時に、それを喜んでいる、調教されている描写があるけど、理解できない。
・骨を燃やす際に醤油を入れていたけど、入れる意味は何かあるのか描かれない。
・社本妻は何故殺されたのか?
個人的な見解としては社本は最初から殺そうとは考えなかったと思うんです。
恐らく、彼女が社本に駆け寄ってきたら(愛がまだあると分かれば)、殺そうと考えていたのではないか。
でも、それって我儘ですよね、自分が死のうと決めているから、愛してくれている人を残すのは可哀想で、一緒に死のうなんて。
・社本妻を演じた女優の演技が下手(グラドルから女優になったから仕方ないけど)




 この映画はやけにグロ描写の方を気にする人が多く見受けらられるけど、本筋はそこにはないので、あまり不快な気持ちにはさせないと思う。
バラバラ殺人というのも現実で実際に起きるケースが多いし、そもそもそういう行為は全てを隠ぺいするためにしているもの。
ただの殺人には逆に色々な想像をしてしまうけど、バラバラ殺人は何故バラバラにしたのか想像は絞れてしまう。
殺人自体残虐な行為だけど、彼らの殺人にはまだ人間的な考えが見られるので、僕はこの映画を観て残酷とか怖いとか、そういう風には感じなかった。

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点数:85点








「ミザリー」
 スティーブン・キング原作の小説を映画化したもの。
ジャンルはサイコスリラー。


 あらすじ:女性主人公の人生を描く『ミザリー』シリーズで有名なベストセラー作家ポール・シェルダンは、『ミザリー』シリーズにピリオドを打ち、新たな小説『高速自動車』の原稿を手に、西を目指し車を走らせていた。途中雪嵐に見舞われ、誤って崖から転落し重傷を負った彼は、通りがかった元看護師のアニーに救出され、人里離れた彼女の家で治療を受ける。

『ミザリー』の熱狂的ファンであるアニーは、発売されたばかりのミザリーシリーズの最終巻『ミザリーの子供』の結末に納得せず、新作小説を破棄した上で続編を書き下ろすことを彼に強要する。大雪で半ば隔離され、怪我で身動きの取れない閉鎖的な状況の中、アニーの異常性が徐々に露わになる。




 ファンって怖いね、ってなる映画。
実際に似たような事件や未遂になったケースがあると思うけど、この映画に登場する彼女を越えるキチガイなファンはいないだろう。


 このアニ―というキャラは情緒不安定というか、自分が納得がいかないものは認めないようで、それは大好きな小説家のポールの行動・発言でさえ例外はない。
彼女は自分中心に物事を考えているため、彼女の家に隔離されている以上、彼女がルール。

 だからといって、彼女を怒らせないように気遣っても、普通の人とは感性が異なるので、地雷を踏んでしまう場合が多々あるという・・・。



 内容はほとんどあらすじの通りなので、あらすじの先の内容を書いてきます。
ポールはアニ―に言われるがまま、アニ―の望む「ミザリー」を書きあげていくが、彼女が外出したら家中を詮索し、逃亡手段を模索したり、物資の調達を図る。

 彼女と長い間暮らしているせいか、ポールはすっかり彼女を喜ばせる方法を知り、酷い目に合う事は減った。
最初に「ミザリー」を書きあげていた時はアニ―から何度もダメだしを喰らっていたが、終盤は彼女が望む「ミザリー」を気づかれずに聞き出すなど、さすがキャラクターに感情を吹き込む事ができる小説家なだけはある。

 「ミザリー」が終わりに近づくというのにアニ―はどこか悲しげで。
ポールはその理由を聞き出し、絶望する。
アニ―はポールが「ミザリー」を書きあげ、段々と身体が完治しているため、自分の元を去っていくのではないかと考えており、それを阻止するためにあなたを殺そうと思うから、今から弾丸買ってくるね、とか冷淡な口調で言いだす。

 それを聞いたポールは慌てて、アニ―が外出した後に家にあるものから凶器になる包丁を手に入れ、自分の部屋に戻ろうとするが、戻る途中彼女の“想い出のアルバム”を見つけ、それを読んでいく。
そのアルバムにはアニ―の写真や複数の人物が死んだという記事が貼られているもので、そこからポールはアニ―の事を殺人鬼だと悟り、部屋へ戻る。

 しかし、一向にアニ―が自分の部屋に入ってくる気配はなく、殺す気が変わったのかと考え、眠りについてしまう。
その眠りから覚めると背後にアニ―がポールの腕に向け注射を刺し(たぶん麻薬)、アニ―はポールが部屋を出ていたことは前から知っていたと告げる。
最初ポールが抜け出した時に落としそうになった置物の向きが違うという事で分かったらしい。
アニ―はポールを殺すよりも、もっといい方法を考えたと言いだし、私がいなければ生活できない身体にすればいいとハンマーをポールの足目がけて振う。

 それ以来、ポールはアニ―に対して、敵対心を露わにするようになりながらも、「ミザリー」のラストを書きあげる。
結局ラスト書きあげたら、ポールを殺してアニ―も自殺するという事になった・・・ポールの足w
3度目に部屋から出た時に手に入れたオイルと「ミザリー」が完成した祝いとしてたばこを吸う事を許可されたので、火をつけ原稿を燃やす。
アニ―がその火を消すのに夢中になっている隙に彼女を殺害。

 数か月後、ポールは編集者と食事に出かけていた。
編集者はポールが味わった経験を小説にしないかと持ちだす。
ポールは今でもあの出来事に悩まされていると言った直後、彼の前にケーキを持ったウェイターが現れ、かつてアニ―がポールにかけた言葉「あなたの一番のファンなんです」と吐露する場面で映画は終了。




 この作品はサイコスリラーでありながら、コミカルな描写が目立ちました。
アニ―が歓喜してポールに投げキッスをし、仕方なくポールはそれを受け止めるけど、顔が思いきっり引きつっていたりw
ポールが包丁を持ち出した後、包帯に隠した包丁を速く取り出す練習したり。
身体が鈍らないようタイプライターで筋トレしたり。
コミカルとシリアスのバランスが良かった。

 あと、この作品の原作者と僕は相性がいいみたいで。
同じ原作者の「ショーシャンクの空に」や「ミスト」も大好きで、この現実で起こりそうな絶妙な内容をよく扱うのが良いと思う。
 それに「ミザリー」や「ミスト」みたいなハッピーエンドでもバッドエンドでもない、モヤモヤした終わらせ方をするのもインパクトを与えるものになっていますね。




 この映画を観て、この作品をオマージュしていた作品が分かりました。
数年前に放送していたアニメ「ダンタリアンの書架」、当時観ていた時は全く知らなかったけど。
「ダンタリアンの書架」、原作ラノベでアニメ化されたダークミステリー。
作家が監禁され、小説を書かされるという点がまったく一緒で「ミザリー」を連想させるような作りになっている。
アニメではそういう演出一切なくてがっかりですが・・・それに加えてこの「ダンタリアンの書架」の要素であるファンタジーが吹き込まれ、「ミザリー」とは一風違う形になっていました。

ミザリー [Blu-ray]/20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
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点数:86点









「オーディション」
 有名な米誌「TIME」でホラー映画のランキングにおいて、1位を獲得した作品らしい。
ただそんなに面白いとは思わない。
少し痛々しいくらいだろうか・・・。
あとは恐怖を繰り広げる女性キャラクターが典型的なヤンデレというw
いやデレてないから、病んでいるだけかもしれないけど。
キャッチコピーは「キリキリキリ・・・恐いでしょう?」「キリキリキリ・・・痛いでしょう?」


 おおまかな内容は主人公が女性ヒロインに好意を抱かれ、最初は二人で良い関係を続けていたけど、彼女の周りに起きていた事件があまりにも不気味で彼女から距離を置こうとする主人公。
彼女はその異変に気付き、彼を束縛しようとラストシーンに突入します。
彼女の考えは「ミザリー」と似ていて、主人公の足を切り落とせば、動けない身体になる→私がいないといけない生活になるみたいな感じだと思います。
最終的には主人公の息子が来て、死闘の末彼女は死んで終わります。

彼女が放った名言としては
「言葉なんか嘘だけど、痛みだけは信じられるの」
「君だけを愛すなんて嘘ばかり言って」
「あなたは色んなものを持っているのね」
「私はその中の一部になるなんて嫌です」


 この作品は主人公視点に描かれていたけど、たまに彼が知らないはずのヒロインの過去が描写されるのですが、それがどうも違和感ありありでした。
 あと、主人公のリアクションも微妙。
ホステスで女性が殺害された際、舌と指が切断されていたのをわざわざ妄想し、しかもその妄想で舌をビタビタと動かしていて、そんな自分で妄想した内容にビビるんですよw
たぶんこの描写を入れたかったんだろうけど、彼がそれを想像する事は無理があるし、舌を動かす意味は皆無でしょう。
彼が残酷趣味のある人なら納得いくけど、常人だし、さすがにないな。

 彼女が音楽家を監禁して、完全に支配していた過去を全て主人公が理解した描写もあったけど、あれは彼女の記憶であり、彼がそこに辿りつくことはできないはず・・・。
 ただ、音楽家が変わり果てた姿になっても、彼が彼女を必要と考えるまで調教したんだろうな・・・見事に調教は完了しており、彼女のおう吐物を有難く頂く、鬼畜っぷりw
彼はそれを喜びながら食し、その横で彼女は彼の身体をさすっているんですが、主人公からは彼女は幼女として描かれていて、恐らく純粋に彼を愛しているというのを子供の純粋で描きたかったんだろう。

 このシーンは非常に強烈的だし、素晴らしい。
このシーンくらいのクオリティが前編描かれれば、究極に恐ろしい作品になったと思う。
彼女が何故おう吐物を彼に与えたのかはわりと容易に考えられ、恐らくただ食べ物を彼に与えるよりも、彼女が一度食べたものを食すことに意味があり、彼女という固有名詞が入る事が重要なんだと思う。
キャラが完成されていて、彼女らしい考え方だった。

 ラストは何故か彼女が良いように描かれていたけど、あれはいらないと思う。
彼女の罪を少しでも和らごうとしたら、それはホラーじゃなくなるし、盛り上がりに欠ける。
彼女は恐ろしいままの姿で亡くなり、視聴者を不快な気持ちにさせればいい。
主人公が片足を奪われた状態でも、彼女を許してしまうようなセリフが流れてしまうのは納得がいかないです。


 TIME誌が1位に選んだ作品だったけど、さすがに過大評価。
日本のホラーにしては珍しく痛々しい映画だったけど、スプラッター的な意味では洋映画に到底及ばないし、彼女のおぞましいキャラクターも「エスター」や「ミザリー」に似たりよったりで新鮮ではないし、この二人より数段怖いというわけではない。

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点数:72点







「ジョニーは戦場へ行った」
 1971年に公開された映画。
もしかしたら僕が観た中で一番古い映画かもしれない。
前に「羅生門」を講義中に観たけど、途中で寝てしまったので・・・。

あらすじ
第一章「死者」
ジョニーは、徴兵によって最愛の恋人カリーンに別れを告げて第一次世界大戦へと出征する。
しかし、異国の戦場で迫り来る敵の砲弾を避けようと塹壕に飛び込むが、目(視覚)、鼻(嗅覚)、口(言葉)、耳(聴覚)を失い、また壊疽をおこした両腕、両脚も切断されてしまう。
第二章「生者」
ほとんど身体を動かすこともできず、ジョニーの意識は「現在」と「過去の記憶」とを何度も行き交いながら、孤独と暗黒と沈黙の中へと落ち込んでいき、ついには自らを望むようになる。
ジョニーは自分が生きていることを実感するために、さまざまな思考をめぐらす。
そして、ついに自らの意思を伝える手段として、モールス信号を使うことに辿り着く。
僅かに動く首を使って、必死にモールス信号を送り続けるジョニー。
モールス信号を理解できない、またジョニーに意識があることを信じない看護婦医師は、それを痙攣発作と勘違いし、麻酔を投与して押さえ込んでしまう。
しかし、あるクリスマスの日、新しくやってきた看護婦はジョニーの胸に、指で「MERRY CHRISTMAS」と書いた。
一文字書かれるごとに頷くジョニーをみて、看護婦はジョニーに意識があることを知り、彼の首の動きが何らかを求めるサインではないかと試行錯誤し、ついにはそれ自体がなにかの信号であることに気付く。
そして、ほどなく現れた別の者の指が、ジョニーの額にモールス信号を叩く。
「何が望みか?」と。
それに対して、ジョニーは答える…。

 このジョニーの望みはまた外に出て、変わり果てた姿でも生きがいを感じること。
自分の人からかけ離れた姿をサーカスで披露し、観覧者に楽しんでもらい働く意味を、生きる意味を見出したいと望んだ。

 しかし、その望みは軍のお偉いさんは叶えられないと否定し、それ以外の望みを叶えようとする。

 ジョニーは外で生きる事を許可されなかったので、望みを変更する。
「殺してくれ」と何度も何度も繰り返し、信号を送り続ける。

 軍にとって彼は貴重な実験体だから、この望みすら承諾するわけにはいかず、一人また一人と退室していき、ジョニーは絶望する。
しかし、このやりとりを聞いていた看護婦は彼に同情し、呼吸するための首に刺さっている管を縛って、窒息死させよと試みる。
 その時、ジョニーは心から喜び、自分を殺めようとしている彼女を神に祈り祝福する。
しかし、軍の一人が病室に戻ってきてしまい、暗殺は未遂に終わる。

 彼は死ぬことも許されず、この暗い空間でただ死ぬことを待つ事しかできない人間になってしまった。
それでも彼は考え続ける。
考えるのを辞めてしまったら、それは生きる事を放棄してしまう事になる。
死ぬことができない彼はこの数年で生きることの意味を知った。
例え、口、目、鼻、耳、腕、足を失っても、彼はその状況を受け入れ、意識もあるし感情だけは自由に動かす事が出来たから、何か考える事で生を実感しなければならなかった。

 一人になってしまった病室で彼は延々と心の中で繰り返し、こう言い続ける。
「SOS」


 エンドロールでは、「1914年以降、戦死者8000万以上 戦傷者1億5000万以上 ”祖国のための死は栄誉で甘美なり”」とテロップが流れます。
これは直接的にそう伝えたいのではなく、皮肉です。
そもそもこの映画は反戦的なメッセージ性があり、反政府文学として何度も閲覧禁止とされたものです。
「グリム童話」もそうでしたし、名前はイマイチ思い出せないけど「煙突屋~」というアニメ―ションも反政府文学として登録されたことがありました。


 いかに戦争が残酷なものかを伝えています。
面白いのは戦争の戦場をメインに描いているのではなく、病室が舞台なのに、ここまで戦争というものを強烈的に非難できたのは凄いですね。

 そのメッセージ性はあまりにも大きく、当時のアメリカはこの映画の監督をした原作者を逮捕し禁固刑に処しました。
禁固刑を終えても、彼は社会的な抹殺を受け、命の危機を感じてなのかメキシコに逃亡しています。

そんな過酷な生活を送る中で書きあげたのが、かの有名な「ローマの休日」です。




 「ジョニーは戦場へ行った」のメッセージは計り知れないもので、この映画の事を考えていると、憂鬱になってしまうので、あまり考えたくないな・・・。
この映画は精神的に観ていて辛いものがある。

 
 彼が現実に生きていても、考えること以外は何もできず、その考えを実証する事もできない。
ひたすら自問自答するしかない。

 眠れば、夢の中で想像し、現実では得られない映像を見る事ができる。
夢の中では五体満足の自分がそこにいる。
ただ、全てが幸せな夢なわけではない。
彼女が夢に登場しても、すでに彼女は結婚しており、彼女の親からは認められない。
自分がサーカスで見世物になる夢を見ても、実の父親と母親、彼女が自分を売り物に金儲けをする姿。


夢か現実かの区別も分からず、苦しむジョニー。
夢の中に登場する彼が描いた神は「辛い夢を見て目が覚めたら、叫んで夢と現実の区別をしろ。それができないなら、自分に言い聞かせろ。」と言ったが、ジョニーにはそれができない。
 夢は支配されるもので、現実は支配するもの。
夢にネズミが現れ対応できなくても、現実なら追い払う事ができる。
と、神が助言したが、ジョニーには腕がなく、夢と現実の違いが分からないまま。


 そんな不安や恐怖を現実では伝える口がない。
人の相談に乗ってあげる耳がない。
現実の自分の姿も見るための目がない。
どれだけ現実が辛くても、逃げることができる脚がない。
どれだけ現実が苦しくても、自殺するための腕がない。


 そういった状況でも、夢と現実を区別するために考え続ける彼の精神はとても勇ましく、尊敬してしまうが、それ以上に同情してしまい、目をそむけたくなる。
昼は温かい。
夜は冷たい。
そう考える事でこれは現実で自分が生きている事が分かるのだと、喜ぶジョニー。
 
 一日を数え、七日経ったら、1週間とし、それを365日間続ける。
それを繰り返す事で、今までの無から生を感じる事ができ、幸せそうに喜ぶ彼の姿は痛々しく切なかった。




 この作品も一つの漫画に影響を与えていたと思います、たぶん。
この映画では何度も”考えなければならない”というようなセリフが多様されていましたが、この映画の主人公と似たような境遇に立った漫画キャラクターは”そのうち考えるのをやめた”

 このセリフはアニメでも放送されたし有名ですから、分かる人はすでにいると思うけど、「ジョジョの奇妙な冒険 第2部」のカーズの最後です。
彼は宇宙に飛ばされ、自分の力では地球に戻れなくなり、死ぬこともできない状況で考えるのをやめました。
生への諦めを意味していると思われます。
ただネットで調べるとあまり話題になっていないようですけど、ジョジョの原作者の荒木さんは映画観賞が大好きで以前「ジョニーは戦場へ行った」を紹介していたので、この映画を意識して書かれた可能性はあると思うんだけど・・・自信はありません。


 ただ、この映画は淡々と自問自答が続くので、もっと面白い見せ方をしないと映画としては盛り上がりがない。
メッセージ性は強烈なんだけど・・・1度見れば満足する映画。

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点数:85点