政治塾いわての政策提言その2
【文字数制限があるので盛岡地区抜粋版】
公共スポーツ施設の活用に関する政策提言
1.提言の要旨
・ 公共スポーツ施設は、通常の利用収入だけで維持・管理・改修を続けることは困難である。
・ 公共スポーツ施設の運営については、なるべく初期の段階から事業収入による収益化を意識し、内外の先進事例も参考にしつつ、当該施設に「聖地」、「テーマパーク」、「社交場」などの付加価値を加えていくべきである。
・ こうしたスポーツツーリズムやスポーツビジネスの視点に立った運営を行うことで、公共スポーツ施設が持続可能となるだけでなく、交流人口の増加に伴う経済活性化、住民の交流拠点形成による社会的価値の創出、スポーツに親しむ人口の増加による健康長寿の促進にも資すると考えられる。
・ 新たな発想に立った公共スポーツ施設の運営を実現するために、国の各省庁が実施しているハード、ソフト両面の支援制度を積極的に活用すべきである。
2.提言の前提となった課題・背景
岩手県内においては、周辺人口が多く交通の利便性にも優れ、今後大規模な野球場が建設される予定がある盛岡市と、人口・交通の面でハンデがあるその他の地域では、公共スポーツ施設の活用をめぐる環境が異なる。そこで、それぞれにつき「課題・背景」を整理した。なお、後者の地域の例として、岩手県南部を取り上げている。
【盛岡市】
岩手県営球場は老朽化が進み、両翼91.5メートルは現代の野球場としては狭くプロ野球の試合も開催されにくい。一方、盛岡市営球場はさらに老朽化が進み、市民レベルの試合以外は行われていない。
こうした中、県と市は老朽化する二つの球場を合同で整備することを決め、2万人規模の野球場を新設する方向で検討中だが、モデルとなる野球場は秋田県の「こまちスタジアム」としており、ごく一般的な地方球場の建設が想定されている。建設予定地は、現在J3「いわてグルージャ盛岡」が本拠地とするサッカー場もある「南公園」内である。
同公園は、盛岡市としては公共交通の便が悪く、他の大規模な公共スポーツ施設(みたけ運動公園、本宮アリーナ)とも離れている。新球場では、プロ野球や夏の高校野球予選など集客が見込める試合も行われることになろうが、現状の開催頻度と一般の利用者収入では、大規模施設の維持・管理・改修の費用を賄うことは困難であり、財政負担が増加していくと見られる。
3.課題解決のための政策手段
以上のとおり、岩手県内に共通の問題意識として、地域内でスポーツをする人口や、それを支える指導者、家族、応援団などの人口も減少することが予想される中、公共スポーツ施設の利用者収入や年に数回の大会等に頼る運営では、維持・管理・改修の費用をまかなえず、自治体の財政負担が増加していくということがある。
これを解決するには、公共スポーツ施設を、スポーツのためだけの施設ではなく、地域内外から多くの人が集まる魅力ある施設にしなければならない。その方策として、メジャーリーグの本拠地となっていない米国の中小都市の野球場では、少年野球の世界大会を毎年開催し、リトルリーグの「聖地」として集客力を高めている例がある。
また、マイナーリーグや独立リーグの本拠地として試合は開催するものの、野球よりも球場に付帯するプールや遊戯施設を家族連れで「テーマパーク」として楽しんでもらったり、大人のグループが球場で売られる様々な飲食物を味わいながら過ごす「社交場」として利用してもらったりすることで集客力を高めている例もある。
こうしたスポーツツーリズムやスポーツビジネスの視点に立った運営を行うことで、公共スポーツ施設が持続可能となるだけでなく、交流人口の増加に伴う経済活性化、住民の交流拠点形成による社会的価値の創出、スポーツ関係人口の増加による健康長寿の促進にも資すると考える。
以上を政策の基本的方向性とした上で、前記と同様、盛岡市とその他の地域に分けて課題解決のための政策手段を挙げる。
【盛岡市】
新球場は、岩手県・盛岡市の自治体同士による全国初のスポーツ施設共同整備となるため、全国の注目を集めやすいことから、周辺も含めて特色あるハード整備をするべきである。例えば、隣接するサッカー場だけでなく、費用負担が少ない他のスポーツ施設も極力併設し、「スポーツパーク」の形成を図る。なお、屋内練習場は天候に左右されずに利用できるため、近隣の幼稚園、保育園、こども園等の運動会や各種催しを開催できる施設にするべきである。
新球場の建設に際しては、森林面積が北海道に次いで岩手県が全国2位であることを生かし、県産材・市産材を全面的に活用しつつ周囲の景観と調和した快適な空間を創造することを目指すべきである。そのような施設が持つ大都市周辺にはない魅力を国内外にアピールすることで、国の代表クラスの合宿や大規模な大会の招致を推進すると共に、必ずしも野球に興味のない子供から高齢者まで幅広く集客することに役立てる。
また、プロ野球の二軍や独立リーグの本拠地として使用してもらうことで、施設利用料の増加を図ると共に、球団の持つノウハウを生かしてスポーツツーリズムやスポーツビジネスを発展させ、地域活性化につなげていくべきである。
例えば、現在は宮城県と山形県にある「東北楽天ゴールデンイーグルス」の二軍の本拠地ないし準本拠地を盛岡に設けられれば、新球場の稼働率と収益力の向上に資するのみならず、楽天球団としても東北全体にファン層を拡大する足場ができ、双方にとってメリットが大きいと思われる。
さらに、より多くの人に新球場を含む「スポーツパーク」を利用してもらうためには、交通手段を充実させなくてはならない。現在、「盛岡南道路」の着工に向けて検討が進んでいるが、ルートとしては、盛岡西バイパスを南に延伸して新球場と岩手医大付属病院付近を通って国道4号線につながる方法が望ましい。新球場へのアクセスが、北の盛岡駅からも南の花巻空港からも迅速かつ容易になるからである。
その上で、将来的にはこの区間にBRT(バス高速輸送システム)を開通させ、スポーツのみならず、医療、観光などにも貢献する新たな公共交通手段とするべきである。これにより、高齢化の進展や地球環境問題も踏まえた街づくりの先進事例が岩手県の中央部に生まれることとなる。
4.おわりに
2019年は、ラグビーW杯が日本で開催された。フィジー対ウルグアイの試合が行われた釜石市の「鵜住居復興スタジアム」は三陸の景観と調和した美しさで、大漁旗を振って応援する観客の姿が印象的であった。東日本大震災からの復興に対する内外の関心を呼び覚まし、復興完遂に向けたエネルギーを高めてくれた。
人々を「日常」から「非日常」の世界にいざない、歓喜、感動、活力を与える公共スポーツ施設の力を実感した。この経験を糧にしつつ、「非日常」の世界を日常的に味わえるよう、公共スポーツ施設の運営を進化させていかなければならない。
例えば、盛岡市のように大規模なスポーツ施設を新設する場合には、民間の資金や専門的なノウハウを活用するため、公民連携(PPP)の手法を積極的に活用すべきである。その中でも、施設の所有権を自治体が持ち、運営権を民間事業者に適正な対価で譲渡する「コンセッション方式のPFI」は注目に値する。これは、自治体の維持・管理・改修の財政負担を減らしつつ、利用者や観客のニーズに合わせた柔軟な運営を可能とする方法であり、公共スポーツ施設による多面的な価値の実現に資するであろう。
こうした公共スポーツ施設の運営を進化させる取り組みに対し、国もハード面、ソフト面での支援メニューを充実させてきた(令和2年3月 スポーツ庁・経済産業省「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ選定要綱について」「スタジアム・アリーナ改革の実現に活用可能な施策一覧」https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop02/ list/detail/1411943_00001.htmを参照のこと)。支援メニューは複数の省庁にまたがることから、各自治体としてもスポーツ関係の部局だけでなく、部局横断的に支援メニューの活用を検討するべきである。
岩手県と県内各自治体が、国や民間と協力し、公共スポーツ施設の運営に関するモデルケースを創造できるよう、私たちも協力を惜しまない所存である。
以上