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わたしには、
一つやりたいことがあった。
以前、山下清さんのお母さんは
生きていく手段として清さんに
他所様のお宅に行き、おむすびを下さいと、
頼みなさいと教えられたと
なにかに書いてあった。
それを読んだ時、
わたしには
そういうことは
頭に浮かんでもこないなと
思った。
それをヒントにわたしは
1つのアイデアを
思いついていた。
そうだ、今度日本に帰ったら、
タケルと2人、タケルのたくさん描いた
ポストカード大の絵を額に入れ、
それを持って
大阪城公園にいこう。
大阪城公園には、色んな人がいる。
朝体操する人。
ご飯持ってお話しながら食べる人達。
のら猫たちに餌を持って
電車で遠くからやってくる人。
紙芝居をしてる人。
ジョギングしてる人。
詩を語っている人。
詩吟をやってる人。
ヨガをやってる人。
カラスと話している人。
花を愛でてる人。
通勤している人。
楽器を奏でている人。
恋人達。
おのぼりさん。
外国の方。
色んな方々が、楽しんでいる。
それが大阪城公園。
そこの木の下や、木立を借りて
タケルの絵を飾ろう。
そして、二人で沢山の人に
声をかけよう。
ぎこちないかもしれないけど。
立ち止まってくれる人には
話もしよう。
絵を買ってくれて、
お金がもらえたなら、
どこかの食堂で食事をしよう。
好きな飲み物を買おう。
慣れてきたら、タケル一人で
色んなイベントに行ける。
その手始めに大阪城公園で練習しよう。
いつの日か、
先に逝くわたしのいなくなった世界で
タケルが生きていくために
大阪城公園で絵を売ろう。
そう、いいアイデアだった。
今はもう叶わぬ夢と
なってしまったけど。


雨の中蜘蛛の糸を
眺めるでもなく眺めてた。
蜘蛛の糸が雨粒の重みで
横糸が下にたわむ。
雨粒はその糸のたわみがバネになり
上に跳ね上がる。
糸はバウンド後、上や下の横糸に
くっついて
そこに穴が生じる。
そんなこんなで雨上がりは
蜘蛛の糸は大きな穴が
アチコチできてしまった。
さあ、修復!とばかりに
クモが動き始める。
お尻から糸を出しながら、
放射状の縦糸に
押さえながらくっつけて行く。
よく見てると戻りの時
体が横揺れする。
片方の後ろ足がないから、
他の足を使ってお尻から出た糸を
押さえている。
だから、妙に体が揺れる。
しかし、なんとも速い動き。
その日のうちにクモの巢復活。
今日の自分の姿は、
まるでタケルだな。
タケルは、何故か
クモに興味は示さない。
あれだけ虫は興味を示すのに。
乗り物を描き始めた時
「虫や動物の絵はもう書かないの?」
と聞いてみた。
すると、
「虫は気持ち悪いからな」
タケルの口から
思いもよらない言葉が出てきた。
タケルが自分を人間と自覚した
瞬間、
かもしれない?
謎は謎のまま
解き明かすまい。
クモが
フウは高校生になり、
私の友人の
そのまた友人の酒屋さんで
アルバイト。
学校が終わって、平日、
夕方から、夜遅くまで。
土日もイベントなども出勤した。
高校には、家計を助ける名目で
許可証を貰っての
アルバイト。
たくさんの高校生バイトを
これまでも受け入れてきた
酒屋さんの旦那曰く、
「学校から許可を貰ったバイト生は
フウが初めてだぞ!」と
面白がられた。
3年間頑張った。
フウの父親は一人実家の町に
居を移した。
タケルは、グループホームで
一人暮らしの練習。
土日祭日のみ帰宅。
ペエは東京。
山暮らしは実質、私とフウ二人。
夏、毎年白い花を
咲かせてくれた夕顔。
夕方、蕾が開きそうなので
慌てて椅子を外に出し
開きそうな花の目の前に
でん!と陣取った。
開く瞬間を見逃さないように
目を凝らしながら、
フウに、花が開きかけたから、
「。。。出てきて見においで〜」と
誘った。
「あ、そう。。、 」
と軽蔑の響き漂う、お返事。
そして、外出してしまった。
にべもないとはこういうときに
使うのか。
しかし、
目を凝らして逸らさず
見てたのに、
きづいたら良い香りとともに
着物の帯が自身の重みで
ほどけるように
花びらはゆっくり、
音もなく開いてしまっていた。
夕方、タケルが
山の麓の川べりで、
いつもの長い休憩後
「ただいま〜」と帰ってきた。
山の下に自転車を置かせて貰い
そこから歩いて、
登ってくる。
やがてフウも帰り、
タケルが座ってるのに
気づくと
「にいちゃんおかえり〜
帰っとったん」
となんとも優し気に
後ろから顔を覗き込んだ。
タケルも
「フウ、おかえり!」
と、返事を返す。
母と、偉い待遇違うやないか。
よ~し、いつの日か、
フウに、あの夕顔の花びらの
ほどける瞬間に
付き合わせるぞ~。


