前回書いた 『呉式推手の「倚」』の記事の最後に、『遠回りしない最短距離はあるが、必須経路まで省略する近道はありえない。』と述べたが、「必須経路」とは何か。筆者教室の現状を踏まえ、もう少し説明を加えたい。
呉式太極拳は他の伝統武術同様、豊富な内容からなっている。無論、最も基本とされているのは「慢架」の套路だ。つまり 本気で呉式太極拳を習う場合は先ず「慢架」の套路から修行すべきだ。但し、同じ套路の修行でも教わる段階が異なると、求める内容も異なる。
分け方にもよるが、解説の便宜上、三段階で分けてみる。第一段階、即ち習い始めの時は無論順番や各式の輪郭を覚えるのが先だ。この段階では、後述の心法などを求めても無駄というか弊害だと考える。小学生に大学のカリキュラムを履修させるのと同じことだ。
第二段階は呉式身法の形成だ。 身法は相互に影響しあう各要領の結晶なのでその形成はそう簡単ではない。第二段階は第一段階と比べ日数を要する。呉式は他の流儀と力学原理も明らかに異なるので身法も当然ながら異なるのだ。当段階になると、順番や各式の輪郭を体で覚えているので 注意力を動きの精度向上に注ぎ すべての動作・姿勢において呉式身法の整合性を求めることができる。他流儀も並行修行を試みる方は特に要注意だ。 同様に見えているものが根本的に異なる呉式独特のものがあるのだ。 この身法整合性の追求は当然ながら 関節の「鬆」や肢体各部への制御力の修行にもなるし、第三段階のソフト的な部分におけるハード的な準備にもあたる。当段階で心法を急いでも 効果が期待できなかろう。 又、 第二段階までは、外部から負荷がかからない状況下で各動作・姿勢ごとに均衡・安定が取れるよう修行するのが主眼で、推手など外部から負荷がかかると身法整合性や中定勁の形成が難しくなるので、そういったトレーニングは勧めない。
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