“it's a fine mess” なるローレル&ハーディ得意のフレーズに
出会ったので、こんなハナシを。
----きょうのモトネタ-------------------------------
レイ・ブラッドベリ短編集「二人がここにいる不思議」
(The Toynbee Convector、伊藤典夫訳/新潮文庫)
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男はスタンと彼女を呼び、女はオリーと相手を呼んだ。
これが始まり、これが結末だったから、名づければ、
さしずめローレル&ハーディ恋愛騒動というところか。
退屈なパーティで、20半ばの女と、30少し過ぎた男が出会う。
混雑の中、たまたま目が合う。男は何の気なしに
オリー(太っちょハーデル)の真似をして、ネクタイをひらひらさせた。
女はピンと察し、同じくスタン(痩せのローレル)を真似て、
自分の髪を房にして頭のてっぺんにつまみ上げた。
男が「スタン!」と大声を出すと、女は「オリー!」と答える。
そして、腕を取り合って笑い、親しく話し出す。
女が「ね、知ってる?1930年にローレル&ハーディがピアノをかついで
150段を上がり降りした階段、あれね、ここからスグなのよ」と言えば、
男は「じゃ、スグここから出よう」と、夕陽のロサンジェルスを車で走る。
ふたりは、ゲームに興じる子供のように、見えないピアノを抱えて、
階段を昇っていく。陽の落ちた丘のてっぺんで、ふたりは恋に落ちる。
朝から晩まで、ことばと身振手振のほとんどはジョークめいて、
古いローレル&ハーディの映画を観ては、名場面を語り合う。
月に一度、件の階段で夜のシャンパン・ピクニックを楽しみ、
かくして一年は、瞬く間に過ぎ去った…。
旅行代理店に勤める女は、フランスに新しい仕事を見つけ、
「いっしょにパリへ行って。貯金であなたを養えるから、小説を書いて」
と頼むが、男はやはり否と答える。そして、別離する。
初めて階段に行った10月4日を男は忘れず、
同じ夕陽の時刻に、丘の階段を訪ねるが、何もない。
3年続け、あと2年忘れていたが、6年目の秋、階段の途中にシャンパンが置かれ「オリー、あなたを覚えています。でも、いまはパリ。貴方みたいに
冗談好きの人じゃないけど、結婚して幸せです」とメモが添えてある。
こうして、恋愛騒動が終わる。
が、偶然のイタズラは最後の出会いを用意していた。
15年後、フランスを家族旅行した男は、黄昏のシャンゼリゼで
こちらも家族連れの女が、前から歩いて来るのに気づく。
女もたちまち気づき、微笑む。が、足は停めない。
すれ違いざま、男はネクタイをひらひらさせる。女は髪をつまみ上げる。
ややあって、男の背後から声が聞こえた。
“Here's another fine mess you've gotten me into,Olly”
はからずも涙ぐんでしまった男を見て、
男の娘が「ねえ、ママ。なんだかパパ、泣いてるみたいよ」と言う。
「わかっているでしょう」と妻がいった。
「お父さんは、電話帳を見たって泣く人なの」
「ちがう」と彼はいった。
「百五十段の階段のせいなんだ、いつか君らにも見せてやるよ」
出会ったので、こんなハナシを。
----きょうのモトネタ-------------------------------
レイ・ブラッドベリ短編集「二人がここにいる不思議」
(The Toynbee Convector、伊藤典夫訳/新潮文庫)
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男はスタンと彼女を呼び、女はオリーと相手を呼んだ。
これが始まり、これが結末だったから、名づければ、
さしずめローレル&ハーディ恋愛騒動というところか。
退屈なパーティで、20半ばの女と、30少し過ぎた男が出会う。
混雑の中、たまたま目が合う。男は何の気なしに
オリー(太っちょハーデル)の真似をして、ネクタイをひらひらさせた。
女はピンと察し、同じくスタン(痩せのローレル)を真似て、
自分の髪を房にして頭のてっぺんにつまみ上げた。
男が「スタン!」と大声を出すと、女は「オリー!」と答える。
そして、腕を取り合って笑い、親しく話し出す。
女が「ね、知ってる?1930年にローレル&ハーディがピアノをかついで
150段を上がり降りした階段、あれね、ここからスグなのよ」と言えば、
男は「じゃ、スグここから出よう」と、夕陽のロサンジェルスを車で走る。
ふたりは、ゲームに興じる子供のように、見えないピアノを抱えて、
階段を昇っていく。陽の落ちた丘のてっぺんで、ふたりは恋に落ちる。
朝から晩まで、ことばと身振手振のほとんどはジョークめいて、
古いローレル&ハーディの映画を観ては、名場面を語り合う。
月に一度、件の階段で夜のシャンパン・ピクニックを楽しみ、
かくして一年は、瞬く間に過ぎ去った…。
旅行代理店に勤める女は、フランスに新しい仕事を見つけ、
「いっしょにパリへ行って。貯金であなたを養えるから、小説を書いて」
と頼むが、男はやはり否と答える。そして、別離する。
初めて階段に行った10月4日を男は忘れず、
同じ夕陽の時刻に、丘の階段を訪ねるが、何もない。
3年続け、あと2年忘れていたが、6年目の秋、階段の途中にシャンパンが置かれ「オリー、あなたを覚えています。でも、いまはパリ。貴方みたいに
冗談好きの人じゃないけど、結婚して幸せです」とメモが添えてある。
こうして、恋愛騒動が終わる。
が、偶然のイタズラは最後の出会いを用意していた。
15年後、フランスを家族旅行した男は、黄昏のシャンゼリゼで
こちらも家族連れの女が、前から歩いて来るのに気づく。
女もたちまち気づき、微笑む。が、足は停めない。
すれ違いざま、男はネクタイをひらひらさせる。女は髪をつまみ上げる。
ややあって、男の背後から声が聞こえた。
“Here's another fine mess you've gotten me into,Olly”
はからずも涙ぐんでしまった男を見て、
男の娘が「ねえ、ママ。なんだかパパ、泣いてるみたいよ」と言う。
「わかっているでしょう」と妻がいった。
「お父さんは、電話帳を見たって泣く人なの」
「ちがう」と彼はいった。
「百五十段の階段のせいなんだ、いつか君らにも見せてやるよ」