眠れぬ夜を過ごし、また何度もケータイに電話したけれど、電源は切ったままである。

どうしよう・・・。

ふと思いついて、GPSなら追跡できるのではと思い、慌てて手続きをした。
しかし。
最終的には、相手の承認を得なければ作動できないのよね。そりゃそうだ。簡単に追跡できたら、ストーカー被害に遭う人が増えるだろう。そこに思い至って呆然とした。バカなワタシ。

だから、夕方になってまたメールを打つ。
何を書いていいかわからなかったので、当たり障りのない内容で。
「夜は寒い思いをしていたのではないでしょうか。お風呂わいてます。早く帰ってきてください。電話が切ってあるけど、メールは届くんでしょうか・・・」


予想通り、返事は返ってこなかった


そして次は・・・。
オットと同年代のいとこが隣町にいる。彼女は時々オットとメールのやりとりをしているので、彼女に連絡を取ってもらうことにした。
こんなことを頼んで悪いけれど、今は藁にもすがりたい気分。けれどもまだ警察に言うのは早いだろうし、兄弟のところには行っていないと思うから。
何しろ義弟はすごく遠くに住んでいる。義姉は一年前にダンナさんが自殺している。
オットにとっての義兄が亡くなったのにはいろいろ事情があるのだが、オットはひどく悲しんだ。敬愛する姉が残され、心配もひとしおだったし、あとあといろんな相談に乗って援助もしていた。
このときに「自分は家族を悲しませるようなことはしない
そう言っていたのが、今のワタシにとって唯一の支えだった。

そんなわけで、いとこに
「私がオットを怒らせてしまい、昨晩遅く酔って車で出て行ったきり戻ってこないんです。電話が切ってあるみたいでつながらず、メールを送っても返ってきません。たぶんどこかで泊まってるとは思うけれど、心配です。でも、私の電話以外なら出てくれるかもしれないので、悪いけれどメールを送ってもらえませんか?今どこにいるのかって
そう、メールをした。
彼女はすぐ電話をくれたので、事情を説明。知らんふりを装って、なにげに電話してみたふうに連絡してもらった。
けれども、やっぱり返事はなかった
でも、彼女から気を落とさないようにと励ましてもらったので、少しだけ気分が和らいだ。


まんじりともせず、丸一日が過ぎようとしていた。
もう、待てない
考えあぐねた末、決心して、ちょっとイヤなことを書いてしまった。

「万一のことがないか本当に心配しています。ただ待っているのは辛いです。明日の夕方に約束があるようですが、昼までに帰ってこなければお母さんや取引先など連絡していそうなところに尋ねてみて、音沙汰がなければ警察に捜索願を出します。無事なら、お願いだから早く戻ってきてください

オットは、自分の母親のことはとても大事に思っている。義兄のこともあるし、だから母親に心配をかけるようなことはしたくないはずなので、こう書くときっと連絡をくれるだろう。
いやらしいけれど、そう思った。


しかし、これでも返事はない
ハラハライライラドキドキクヨクヨしているうちに、2回目の夜が明けた
相変わらず、ケータイの電源は切ったまま。

昼近くになり、もう待てなくなった
時計はまだ午前11時だったけれど、とうとう電話のダイヤルを回してしまった
義母に。

心配を増幅させるといけないので、「ワタシが怒らせてしまい、出て行ったけれどそちらに行ってませんか」とだけ聞いた。
けれども、当然のことながらお義母さんは気をもむ。
お義母さんに、義兄のことを思い出させてしまった。義兄も車で出て行き、近郊の山で亡くなっているところを発見されたのだから。

申し訳ない。が、ワタシも余裕なかった。
とりあえず、努めて明るくふるまい「ケンカして出て行っただけなので、すぐ戻ってくると思います。心配させてすいませんでした、また連絡します」と言って電話を切る。

そしてメールをチェックすると・・・。
ああ、行き違い


たった一行
まだ生きている
とだけ、入っていた。