4月18日、「経産省がAIを開発するために使うスーパーコンピューターの
国内整備を行う企業に助成金を出す」との記事が各メディアに載り、
その中で最大の助成金額が上場企業の「さくらインターネット」に
割り当てられると報道されました。
→ 翌19日昼には さくらインターネット自身もこの旨を公表しました。
さて、さくらインターネットとはどんな企業か?
ここしばらくの株価の乱高下で投資家の間では話題になっていたのを
横目で見ながら個人的には殆ど注意を払っていませんでしたが、
この機会に中身を見てみました。
(1)どんな会社か?
クラウドコンピューティングサービスの提供やデータセンターの
運営を主な事業としています。
筆頭株主は総合商社の双日で、出資比率は約29%です(2023/9時点)
(2)経産省の助成金とは?
クラウドコンピューティングサービスの最大手はアマゾンのAWS、
続いてマイクロソフトのAzure、少し引き離されてグーグルのGCP、
この3つで全世界の市場の 2/3 近くを占めています。
日本の企業や官庁もこの3社を利用しているケースが多く、
つまり日本の重要な情報処理を外国企業に牛耳られている訳で、
これは安全保障上いかがなものか?という事で、日本の企業による
クラウドサービス整備を補助しよう、としてできた仕組みです。
助成金を出すのはAI用の高度なクラウドサービスを整備する場合に
限られ、その企業が負担した工事費、機械の購入費、保守費、
人件費などの 1/2 まで(中小企業の場合。大企業は 1/3 まで)を
経産省が負担する、というものです。
さくらインターネットはこの助成金を過去 3度申請し、
以下の金額の認定を受けています;
・2023年6月; 68億円
・2024年2月; 6億円
・2024年4月; 501億円(今回報道されたもの)
→ この金額を上限に、使った金額の半分を後でもらえるという事です。
さくらインターネット以外では、4月19日までにソフトバンク、
GMO、KDDI、東大、など 7団体が各々 1回ずつ計330億円の
認定を受けています。
→ さくらインターネットがダントツで多いですね。
(3)さくらインターネットの株価推移
(a) 月足
昨年 5月までは 600~700円程度で推移していたのが、
6月に一段上昇、以後は 1,000~1,300円辺りで推移。
11月に上述の助成金の認定を受けてから上昇ペースを上げ、
今年に入って更に急騰。
3月には最高値 10,980円に到達。
この時点のPERは 461 ( ゚Д゚)
その後に反転急落。
(b) 日足
昨年11月の助成金認定以降、AI関連の各種取り組みや
米Nvidiaとの連携期待などで上昇気流に乗り始め、
今年2月13日には「今後5年間で最大1000億円を投資し
能力増強」との報道が出て、これを受けて上昇ペースが加速、
以降も「半導体関連、AI関連、Nvidia関連」として上昇継続。
だが3月7日に終値で1万円の大台を超えると利食いが出始め、
折り悪くその翌日に米市場で Nvidiaの株価が反落、その流れで
当社株価も急落し最高値から 3日間で株価はほぼ半分まで下落。
その後は上下したが、4月19日は今回の助成金の情報を受けて
ストップ高になりました。
現時点のPERは 260
(4)財務状況
(a) 売上・利益の推移;
ここ5年間の推移は以下の通り
売上は 200億円前後で推移。
当期見通しは前年比 11%増を見込んでいます。
営業利益率は 4~6%前後と低レベルで上下しています。
(b) 当期決算
Q1~3累計の実績は、売上は前年同期比 4%増、
年間見通しの進捗率は 69%
営業利益の実績は前年同期比 35%減と苦戦。
年間見通しの進捗率は 31%と超苦戦。
四半期毎の推移は下図の通り;
売上、営業利益ともに、Q4(1~3月)で相当頑張らねば
通期見通しの達成は割と難しいかもです。
ただ今の時点で何も修正していないという事は、
何か利益率の良い大きな案件で売り上げが立つ目途が
あるのかもしれません。
(c) 安全性;
2023年12月時点の数値で言えば、流動比率(手持ちの現預金と
ここ1年間で現金化する予定の資産で、ここ1年間で支払わねば
ならない負債をどれだけカバーできているか)は 72%で、
はっきり言って「危険水域」にあります。
だが営業キャッシュフローは大幅なプラスなので
「資金に余裕はないが日銭は稼げているので、特別な投資などを
しないならば資金繰りで困る心配はなさそう」
という状況かと思います。
という状況で、クラウド整備のために大型投資を行う訳です。
これについては後述。
(d) 収益性;
冒頭で述べた通り、収益性は低いです。
但し、経費の6割程度が減価償却費で、減価償却をゼロとした場合の
営業利益率は17%程度になります(当期上期の数値で試算)
→ だから営業利益率は低いのに営業キャッシュフローは大幅なプラス。
どういう事かと言うと、
⓵まずドカンと設備投資を行う。
②こつこつ日銭を稼いで取り返すが、設備投資の減価償却が大きいので
損益計算書上の営業利益は小さいまま推移する。
→ ビジネス拡大の為には設備投資が必要、だが設備投資をすると
減価償却で利益が喰われて利益率は上がらない
→ 設備投資と収益拡大の追いかけっこが当分の間は続く...
... というビジネスモデルのようですね。
(e)成長性;
現状の設備のままではあまり伸びるように思えない。
だが、国策に乗って設備投資を進め、AI需要の伸びを上手く
掴む事ができると当社の売上も大きく成長していくと期待される。
(5) 今後の投資計画;
当社のIR資料によると;
⓵今後7年間で 1,000億円を投資
②内、214億円を 2025/3までに投資
→ これらの半額を経産省が負担する見込み。
この投資が当社の資産規模に対してどの程度の規模なのかを
図示すると;
現在の会社の規模に対し、過大な投資のように見えます。
この半額を経産省に持ってもらうとしても、残りをどうするのか?
「国策」なので銀行が貸してくれるかもしれませんが、その場合は
負債が膨れ上がってバランスシートが結構見苦しくなります。
となると、結構な金額を増資で賄う事になりそうです。
総括;
① 国策企業。
将来性に期待できる。
② と言っても、営業利益率は当分の間は低いままで推移する可能性が高い。
→ 配当など先のまた先、か。
③ 近い将来に相当額の増資を行う可能性がある。
→ 希薄化リスク。
「助成金に認定」は間違いなく好材料ですが、
上記のようにリスクも抱えている事は認識しておいた
方が良さそうです。
但し、あくまで個人的な推測の域を出ません。
以上です。
尚、この財務分析・評価は筆者個人の考え方に基づいて行ったもので、
別の見方をされる方もおられるかもしれません。
また、数字やグラフも含め、内容には筆者の書き間違いや
勘違いが含まれているかもしれません。
いずれにせよ、この記事は投資を推奨するものではありません。
数字はご自分で検証の上、投資は自己責任でお願い致します。
以上です。