米10年国債利回りが4%に達しました。
米10年国債利回りが上がると株価は下がる、
特にグロース株が下がり易いと、よく言われます。
実際、4%に達した10月14日の場合、ダウは 1.3%の下げに留まったが
グロース株の多いナスダックは 3.1%も下がりました。
米10年国債利回りが上がるとなぜ株価、特にグロース株が下がるのでしょう?
2つの理由が考えられます。
1) 「国債 vs 株」で国債の魅力が増し、資金が株から国債に移るから。
国債の利回りが上がれば上がる程、より大きな儲けを期待して株に
投資している人の中から「国債で十分じゃん」と考えて株を売って
国債を買う人が増え、株価が下がるというもの。
→ だが、これだけでは
「なぜ特にグロース株が売られるのか?」
「なぜ10年物が特に注目されるのか?」
の説明がつきません。
そこで、2)の理由です。
2) 企業価値を算出する時に米10年国債利回りを使う投資家が多く、
利回りが上がると企業価値が下がるため。その下がり方が
業績右肩上がりの企業(即ちグロース)ほど大きいため。
→ 国債利回りがどのように使われるのか?
それは「割引率」と「現在価値」の算出に使われます。
「割引率」と「現在価値」とは何か?
例えば貴方が友人から「100万円を1年間貸して欲しい」と頼まれます。
「金利分を上乗せして返す」と言われましたが、断りました。
でも「じゃあ120万円にして返すから」と言われ、心がグラつきました。
これは、貴方が「今の100万円」と「1年後の120万円」との価値を
無意識に比較し、価値が同等かと思ったのでグラついたと考えられます。
100万円は120万円の83%なので、100%との差の17%だけ
一年間で価値が目減りする事になります。
この17%を「割引率」と言います。
この場合、100万円を「1年後の120万円の現在価値」と言います。
この割引率は金利よりかなり高いですね。
それは「本当に返ってくるか?」というリスクを無意識に計算し
その分を「リスク料」として上乗せしているからです。
では友人がお金を返すのを2年後にしてくれと言ったらどうでしょうか?
1年でも返ってくるか不安なのに、2年先だともっと不安になります。
120万円ではとても割に合いません。
だったら、返金額を120万円から更に17%を割り戻した金額
「120 ÷ (100%-17%)」= 145万円にしてもらいましょう。
3年後だと174万円、4年後だと209万円
この様に、期間が延びればその分、割引率が掛け算で大きくなっていきます。
ここで話を企業価値に戻します。
企業価値を算出する方法は色々ありますが、最も普及していると
思われるのは「DCF法」です。
DCFとは「Discounted Cash Flow」の略です。
私の元勤務先でも企業を買収する時はDCF法で企業価値を算出していました。
これをざっくり説明すると;
① その企業の事業計画を作る。
② その事業計画から、毎年どれだけのキャッシュが産み出されるか
(FCF = フリーキャッシュフローと言います)を算出する。
③ その事業に適した割引率を算出する。
→ この割引率のベースになるのが米10年国債利回り。
これに為替変動やカントリーリスク、その業態のリスクなどが係数化され
国債利回りに加算されて割引率が算出されます。
④ 事業計画にある毎年のFCFを割引率で現在価値に換算する。
→ 上記の借金の例で使った割引率17%を使うと;
1年後ののFCFは事業計画上の数値の83%
2年後のFCFは69%
3年後は57%
4年後は47%
5年後は39%
… と先へ行くほど目減りしていきます。
⑤ 各年の割引されたFCFを合計したのが企業価値。
この計算になぜ米10年国債利回りが使われるか?
これは下記だと思います(個人的意見)。
①米国債が最もリスクの低い安定した資産だと考えられている。
②投資するからには国債利回りにリスクを上乗せした分以上の
リターンが欲しい(それに至らないなら国債買って寝てた方がマシ)。
③投資に対するリターンを考える時「10年」というのが
適切な期間だと認識されている(企業が成長してリターンを
産み出す事を期待する時に5年じゃ早計過ぎるし20年じゃ
長過ぎる)から。
米10年国債利回りが上がると;
①割引率が上がるので割引後のFCFが下がり、企業価値が下がる。
→ 一般的に、株が売られる。
②割引率の上昇幅は年数が増えればより大きくなる。
(国債利回りが年数分だけ掛けられるので)
→ より将来のFCFが利回り上昇の影響をより大きく受ける。
③上記①と②により、より将来のFCFが大きい企業
(グロース企業の様に右肩上がりの計画の企業)の企業価値が
利回り上昇の影響をより大きく受ける。
→ グロース株が特に売られる。
という事です。
皆様の投資活動の参考になれば幸いです。