Love the Phantom

Love the Phantom

こんばんわん。
日々の活動や、色々な執筆をしていこうと思います。

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夏休みのある日。
僕は椎名瑞穂と夏祭りに行くことになった。



ー時は遡ること1週間前ー



その日はちょうど終業式の日。


先日の廊下での出来事以来、彼女とは話していない。


翌日、彼女と同じクラスの友達に聞いたのだが、やはりあの日彼女にも白羽の矢が立っていたそうだ。


僕は未だ直接彼女に謝ることができずにいた。


そして、終業式が終わり放課後。


政道「よっしゃぁ。待ちに待った夏休みでございますよぉぉぉぉ、お二人さん!」


政道は一学期最後のホームルーム終了と同時に、教室中に響く程の大声で叫んだ。


政道の奇行はこの頃クラスでも馴染みのものになっており、
誰も反応する者はいなかった。


僕「ようやく夏休みかぁ~。なにしよっかなぁ。」


慶太「僕はとりあえず宿題を片付けようかな。」


政道「あざーっす!夏休みの終わりが近くなったら、借りに行くから笑」


そう言うと、政道は高笑いをした。


僕「あんなこと言ってるけど、いいのか?」


慶太「中学の頃からの恒例だから、もう慣れたよ。」


慶太は小さな溜息をつきながら、帰り支度を始めた。


僕「そっか。二人とも同じ中学出身だもんな。」


政道「マブダチってやつだな笑」


政道はまた高笑いをしていた。


慶太「ただの腐れ縁だよ。」


この二人を見ていると、友達というより兄弟にさえ見えてくる時がある。


慶太「ところで、夏祭りのことちゃんと彼女にメールしたの?」


僕「彼女?」


慶太「隣のクラスの椎名さん。」


僕「あぁ。まだ…。」


慶太「早く決めて連絡してあげなよ。 もう夏祭りまで一週間くらいなんだからさ。 こうゆうのは男の方がしっかりしなくちゃいけないんだからね?」


僕「あぁ、わかってるよ。」


この日の慶太はやけに饒舌だった。
なんだかんだ言って、夏休みが始まるから嬉しかったのだろうか?


政道「よっし!じゃあ、帰りにラーメン食って行こうぜ⁈」


僕と慶太は目を合わせ
「しかたないなぁ。」と
お互いアイコンタクトを交わした。


そして、三人で近所のラーメン屋で腹一杯食べて、家に帰宅した。



時はちょうど夕食時。


僕は親に夕食がいらないことを伝え、二階の自室へと戻った。


僕「連絡かぁ~。女の子って色々準備あるだろうし、時間かかるんだろうなぁ。その前にこの間のことを謝らなくちゃ…」


でも、いきなり謝りのメールから送るのもどうなんだろう。


…。


とりあえず、無難にメールしてみよう。


件名:こんばんは。

夏祭りのことで、連絡しました。
何時頃いいとか希望ありますか?


こんなもんでいいのかな?


この頃の僕は母親と妹以外の女性にメールをしたことがなく、どうゆう内容のメールを送ればいいのか全くわからずにいた。


僕「ん~。これじゃ固すぎんのかな?」


一人で試行錯誤して悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。


リナ「おにぃ~、数学でわからないとこあるから教えて?」


声の主は妹の上木 リナ(かみき りな)だった。


リナは1つ年下の中学3年生。
自分の妹ながら美形な顔立ちをしている。
一体誰に似たのやら。


僕「数学? いいよ。」


僕はこれでも勉強はできる方だったので、よくリナに勉強を教えていた。


僕「これは、この方程式を使えば解けるんだよ。」


リナ「ありがと! やっぱおにぃって勉強教えるの上手だね。」


たぶんこの調子だと、受験の時には毎日家庭教師やらされるんだろうな。


僕「そいえば、リナって男友達とメールとかするの?」


リナ「男友達? あんまりしないかなぁ? 用事があれば学校で話すし…。てゆうか、いきなりどうしたの?笑」


僕は今までの経緯をリナに話した。


リナ「ふーん。女っ気なかったおにぃがいよいよ色気づいたかぁ笑」


僕「別にそうゆうわけじゃないんだけどさ。どんなメールしたらいいのかわかんねぇんだよなぁ。」


リナ「でも、それを中学生の妹に聞くってどうなの?笑」


僕「仕方ないだろ? 短な女の子がリナしかいないんだからさ…。」


リナ「ん~。じゃあ、ちょっと携帯貸して?」


リナに携帯を渡すと、僕が彼女に送ろうとしたメールを削除し、新たに文章を打ち始めた。


そして、数分後。


リナ「こんなもんでしょ!」


リナはそうゆうと、携帯を返した。


僕「どれどれ…。」



件名:こんばんわ( ´ ▽ ` )ノシ

夏祭りの誘いOKしてくれてありがと☆
当日、浴衣着てくる?(^^)
時間掛かりそうなら、合わせるから言ってね♡

楽しみにしてるよ*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*



おいおい。
やけに騒がしいメールだな。


それに普段こんな顔文字使わないぞ。


僕「これさぁ…ナシじゃないか?」


リナ「全然アリだよ?女の子にはこのくらいがちょうどいいんだから!」


僕「さすがにこんなの送れないよ…」


リナ「ん? このメールもう送信しちゃったよ?」


僕「はぁぁぁぁ⁈」


リナ「な、なによいきなり!」


僕「あははは…は…。 終わった。」


彼女の性格を考えると、こんなチャラいメール送ったら、ドン引きされるに決まってる。


僕は大きく溜息を吐いた。


リナ「まだ返信が来てないんだからそんなにヘコまないの苦笑 じ、じゃあ、うちは部屋に戻るから…。 頑張ってね笑」


そういうと、リナは静かに部屋を出て行った。


一時間待ったが彼女からの返信はなかった。


気がつくと僕は、無意識に何度も携帯を開きメール問い合わせ画面を開いていた。


だが、携帯は彼女のメールを受信することはない。


諦めて寝ようと思ったが、どうも寝付けない。


この落ち着かない気持ちはなんなんだろう。


こんな気持ちになったのは生まれて初めてで、僕は戸惑うしかなかった。


そしてその日、彼女からメールが来ることはなかった。


結局メールが来たのは、次の日の昼頃。



件名:返信遅れてごめんなさい(・_・;

夏祭りは浴衣で行くから、ちょっと時間かかるかな(T . T)
3時頃だと準備できるから、そのくらいでいい?
てゆうか、そんなに楽しみにしてたんだね笑
可愛いメールありがと(#^.^#)


よかった。
引かれてはなかったみたいだ。


てゆうか、僕はたかがメールでなぜこんなに一喜一憂しているのだろう。


この頃の僕は「恋愛」の「れ」の字も知らなくて、
そして、すでに彼女のことを好きになっていたことも、気づいてはいなかった。


今考えれば、僕は彼女に一目惚れをしていた。


始業式で初めて彼女を見た時から。


そして、時は一週間後の夏祭り当日に移る。


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3. 夏の日のダンデライオン(2)

初めて君と話したあの日から、早くて三ヶ月が過ぎ去っていた。


彼女とはあの日以来、顔を合わせれば挨拶をする程度の仲にはなれたが、特にこれといった進展はなにもなかった。


そして、夏休みをあと一週間に控えた蒸し暑いある日の朝。


僕は政道•慶太と共に学校へ続くこの長い坂道をダラダラと歩いていた。


政道「おいおい。今日暑過ぎやしないか?」


政道は制服のズボンを膝辺りまで捲り、片手にはうちわを持ちものすごいスピードで仰いでいる。


慶太「しょーがないんじゃない?もう夏なんだし。」


慶太は携帯電話を片手に、この長い坂道を何食わぬ顔で登っている。


僕「だったらスクールバス使えばよかったんじゃないの?」


僕らが通う高校は遠くから通学してくる生徒もいるため、登校時と帰宅時にスクールバスでの送迎があったのだ。


政道「スクールバス?笑 あんな風にぎゅうぎゅう詰めになりながら登校なんて嫌だね。」


そう言うと、政道はちょうど目の前を通ったスクールバスを指差した。


…確かにバスの中は快適そうには見えない。


僕「まぁな苦笑」


政道「だろー? だったらまだ歩いて…」


慶太「だったら、文句言わないで歩こうよ笑」


さすが慶太である。


いつも政道にツッコミを入れるのは慶太の役目。
誰かが決めたわけじゃないが、自然とこうゆう形にハマっている。


慶太「でも、大智はバイクあるんだから、バイクで来たほうが楽じゃない?」


僕「いや、そうしたいのは山々なんだけどさ。こいつのおかげでこの地獄坂を毎朝歩いて通うことになってるんだよねえ。」


僕は政道を指差し、ちょっとキツイ顔をしてみせた。


政道「俺? なんでだよ⁉」


僕「毎日毎朝しつこく『学校一緒に行こうぜ!』って俺の家まで迎えに来るのは誰だ?」


政道「俺は大智が遅刻しないようにだなぁ…。」


慶太「それはそれは。大変な目に遭ってるんだね、大智は。」


僕「だろ?うちの母親よりうるさいんだよ、本当。断ると、泣きそうになるしな。本当めんどくさい。」


政道「なんか、彼氏から邪険に扱われる女の気持ちが、今すごーくわかる気がする…。」


僕•慶太「…。」


政道「ツッコめよっ!」


僕達は毎日こんなグダグダな会話をしながら登校していた。


そして、ようやく学校に辿り着いた。


校門を潜り抜けた時、一番最初に僕の視界に入って来たのは、見覚えのある後ろ姿だった。


政道が僕の肩を掴み、語りかけてきた。


政道「おい、大智。あの子綺麗じゃないか?あの子って確か隣のクラスの…えぇっと…椎名…。なんだっけ?笑」


僕「瑞穂。」


政道「ん?」


僕「椎名瑞穂。」


政道「そうそう!そんな名前だったな!綺麗なんだけど、なんか近寄り難いんだよなぁ。」


僕は歩みを止め、無意識に政道の問いに応えていた


慶太「大智知り合い?」


僕「…。」


慶太「?」


政道「慶太。救急車呼んだほういいんじゃねえの?こいつ熱中症かもよ?」


慶太「大智ー?ボーっとしてどうしたの?」


彼女に見惚れてしまい、僕の耳に二人の声は届いていなかった。


政道「返事しろっつー…の!」


気がついた時には遅く
政道の蹴りが僕の尻に入った後だった。


僕「@$);/$&"):」


僕は声にならない声をあげ、地面に膝まづいた。


僕「なにすんだよ、政道。」


政道「あぁ?お前の魂が天に召される前に、引き戻してやったんだよ。」


慶太「大丈夫? 体調悪い?」


僕「大丈夫。今は尻が痛いけどね…。」


政道「大袈裟だな。手加減したんだから感謝しろよな。」


僕「こいつ。」


僕は久しぶりに政道にムカついていた。


言い忘れていた。


こんなバカで食い気しかないような政道だが、唯一誇れるものがある。


政道「唯一って。 しかも、バカで食い気しかないとはなん…」


邪魔が入りました。
話を戻しましょう。


彼が唯一誇れるもの。
それは空手。

中学時代、空手の全国大会で優勝したこともある有段者なのである。


彼の父親は道場をかまえ、幼少期から鍛えられてきたそうだ。


この話を自慢気にされた時(だから、こんな筋肉バカになったのか。)と思ったのは、秘密にしておこう。


いや、むしろ墓までもって行ったほうが安全かも知れない。


政道「つーか大智、あの子に見惚れてたんじゃねえの?」


僕「あ?そんなことないから。」


慶太「焦ってる笑」


僕「勝手に言ってろ。」


僕は立ち上がり、さっさと教室へ向かうことにした。


玄関で内ばきに履き替え、階段を登り自分の教室へと向かっていると、廊下で椎名瑞穂に会った。


政道と慶太の的を射ている発言に動揺し、少し足早になっていたせいで、彼女に追いついてしまったらしい。


前を歩く彼女は制服のポケットから携帯を取り出した際、まるで出来過ぎたドラマのようにハンカチをハラリと落としていった。


僕はハンカチを拾い、彼女に駆け寄り、声をかけた。。


僕「あの…椎名…。」


ただハンカチを拾って、落とし主に返すだけのことなのに
僕の心臓の鼓動は、いつもより少し早いスピードで脈を打っていた。


瑞穂「あ、上木君?おはよう。」


彼女は少し驚いていたように振り返ったが、僕だと気づくと安心したようで、小さく会釈をした。


僕も少し照れながら会釈を返した。


瑞穂「どうしたの? あたしのこと呼んだみたいだけど。」


僕は拾ったハンカチを、彼女の前に差し出す。


僕「ハンカチを落としてったから渡そうと思って。」


瑞穂「そうだったの? ありがと。意外と紳士的なとこあるんだね笑」


僕「…意外…か。」


少しテンションが下がってしまった。
彼女は僕をどんな人間だと思ってるんだろう。


瑞穂「え? ごめん。あたし酷いこと言ったかな汗」


僕「いや、全然そんなことないから笑」


瑞穂「そか。」


彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。


僕「じゃ、じゃあね。」


瑞穂「うん。じゃあ…。」


まだ浮かない顔をしている。僕は、どうすれば彼女が笑ってくれるか一生懸命考えたが、全く思いつかなかった。


彼女はまた小さく会釈をして、教室に入ろうとしていた。


僕は無意識…とゆうか、なにも考えず彼女に声をかけていた。


僕「あのさ!」


瑞穂「…⁉ なに?」


僕「えっと…。そうだ! 夏休みに近所の神社で夏祭りあるんだよ。」


瑞穂「知ってるよ笑」


僕「よかったらなんだけどさ…えと、よかったら…。」


この先の言葉が出てこない。


一緒に夏祭りに行こう。たったこれだけの短い一言なのに
その一言は僕の喉に張り付き、断固として口から出てこようとしない。


僕「あの…。」


瑞穂「あたしね。」


僕がその一言を吐く前に
彼女が話し始めた。


瑞穂「あたしね。夏祭りって行ったことないんだ。」


僕「そうなの?」


瑞穂「ちっちゃい時に連れて行ってもらったことあるらしいんだけどさ、覚えてないんだ。ここの夏祭りって花火もあがるんでしょ? 観てみたいなぁ…。」


情けない。僕は彼女にここまで言われないと、夏祭りに誘うことすらできないのか…。


僕「じゃあさ…い、一緒に行かない?笑」


言えた。が、この異常な汗はなんだろう。暑いからではない、
冷や汗とゆうやつだ。


瑞穂「ん~…どうしよっかなぁ。」


僕「え⁈」


彼女の返事は当然"YES"だと思っていたものだから、予想外の答えに僕は豆鉄砲を食らったような顔をしていただろう。たぶん。


そして僕はこの時、初めて女心とゆうものに出くわしたのだった。


瑞穂「あは笑 嘘だよ。しょーがないから、一緒に行ってもいいよ?笑」


僕「ツンデレか!」


僕は思わず彼女にツッコんでしまった。


でも、よかった。今の彼女は、あの桜の日のような笑顔で笑っている。


瑞穂「じゃぁ、時間とか待ち合わせ場所決まったら連絡して?」


僕「うん!って連絡先知らないから笑」


僕は安心したのか、また彼女にツッコミをいれていた。


瑞穂「上木君っておもしろいね笑 じゃぁ、ちょっと待って。」


そう言うと彼女は鞄からルーズリーフとペンを手に取り、スラスラっと携帯電話の番号とアドレスを書き上げた。


瑞穂「これ、あたしの携帯の番号とメールアドレス。イタズラメールとかしないでよ?笑」


彼女は連絡先の書いてあるルーズリーフの端切れを僕に渡した。


僕「わかった。あとで連絡するから!」


僕は彼女の連絡先を手に入れた。


その連絡先を僕は大事に鞄の中にしまった。


瑞穂「急がないと担任来ちゃうよ? じゃあね。」


彼女は小さく手を振り、教室へと入っていった。


僕は安堵の息を吐き、自分の席にゆっくりと腰を落とした。


?「朝から見せつけてくれるねぇ…か、み、き君?」


あぁ、この声はさっき俺に蹴りをいれてきたバカ野郎の声だ。


政道「やっぱり知り合いだったんじゃないか? しかも、まんまと夏祭りにまで誘って。」


僕「うるせー。つーか、観てたのかよ⁉」


慶太「あんな挙動不審にしてたら、逆に目立つよ。それに教室の真ん前だしね笑」


僕「そうゆう流れになっちまったんだから、仕方ないだろ…。」


政道「大智ってやっっっぱり、アホだな。」


僕「なんでだよ?」


慶太「今の観てたの僕ら二人だけだと思う?笑」


僕「…。え?」


周りを見ると、クラスメイトの視線は僕に集まっていた。


「よくやるよなぁ、学校で。」

「上木君って結構大胆かも。」

「相手って隣のクラスの椎名さんでしょ? あとで話聞きにいこうよ笑」


うわー。クラスみんなに広まってるよー。僕の人生終わりだ。


政道「自業自得だろうなぁ。急に色気づくから悪いんだ。」


慶太「今度から女の子へのアプローチは、TPOをわきまえようね。」


天国からいきなり地獄に落とされたような気持ちになった。


その時


キーンコーンカーンコーン


ホームルーム開始のチャイムがなると同時に、担任の先生が教室に入ってきた。


担任「お前ら早く座れー!」


政道と慶太は僕の肩を哀れむようにポンと叩き、自分達の席に着いた。


彼女も同じ様な状況になっているのだろうか?
そう考えると少し会いづらい。


あとで、メールして謝っておこう。


担任「それで、今日はぁ…」



今日も暑くて長い一日が始まる。

外の道路沿いに咲いている向日葵達は、太陽に向けて顔を上げている。


春の桜もいいけど、この照りつける猛暑に咲く向日葵も綺麗だな。と初めて思った日だった。


少し後悔と、大きな期待を胸に抱きながら。



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3. 夏の日のダンデライオン


あれは確か
僕らが高校に入学してからひと月経った五月半ば頃。


満開の桜が咲き誇る
少し肌寒い日のことでした。


僕はその日
同じクラスの友人 政道(まさみち)慶太(けいた)と
放課後に遊ぶ約束をしていた。


しかし、さっき携帯電話に政道からメールが届いた。


俺と慶太さぁ~
掃除当番でちょっと遅れるから
上木はどっかで暇潰しといて(´Д` )


…。


暇潰しといてって。


あぁ。
上木ってゆうのは、僕の名前。
上木 大智(かみき たいち)。


まぁ、いいや。
そこの公園で時間潰しとこ。


僕は学校の近くにある公園に入り
大きな桜の木の下のベンチに腰をかけた。


桜、綺麗だなぁー。


公園中に咲き誇る桜の木を見渡していると
視界の端っこの方に背丈が2メートル程しかない
小さな桜の木が満開の花を咲かせているのが見えた。


僕はベンチから立ち上がり
その小さな桜へとゆっくり歩み始めた。


小さいなぁ…この桜。


その時、僕の心の声を読み取ったかのように
背後から声をかけられた。


?「その桜はね、チシマザクラって言うんだよ?」


振り返ると、そこには同じ学校の制服を着た
少し背の高い女の子が立っていた。




これが君と初めて会話をした日の思い出。




僕「うん?そ、そうなんだ…」


いきなり声を掛けられたことと
舞い散る桜を背景にした
君の輝くような微笑みに動揺し
僕はつい声が裏返ってしまった。


女の子「この桜ってあんまり大きくならないんだよ? 小さい桜って可愛いから、あたしは好きなんだ。」

僕「へぇ…」


僕は内心(だからどうした?)
って思ってしまったのは
秘密にしておこう…。


女の子「あたしのことわかるかな?隣のクラスなんだけど…」


…僕は彼女を知っていた。


入学式の時、背の高いスラッとした綺麗な子がいるなぁ。
とは思ったけど、別に話しかけこともなく、今に至っていた。


まぁ、名前とかは隣のクラスの友人から聞き出したことも秘密にしておこう。




椎名瑞穂(しいな みずほ)




これが彼女の名前。


さっきも言ったが、彼女は身長が高くスラッとした体型で


咲き乱れる桜の花のように
真っ白で綺麗な肌をしている。


容姿端麗ではあるが
それほど派手な性格をしてるわけじゃなく目立つタイプの娘ではなかった。


僕「そ、そうなんだ?ごめん。まだ学校生活慣れてなくてさ。」


見えすいたウソだった。


瑞穂「そっか…。」


彼女は少し悲しそうな顔をした…ような気がした。


僕「ほら…でも、今日で覚えたから!」

瑞穂「うん!」


彼女は今日一番の笑顔で答えた。


瑞穂「そうだ!まだ名前言ってなかったね! あたしは椎名 瑞穂。」


僕「俺は…」


瑞穂「知ってるよ。上木君でしょ笑」


椎名は僕が名前を言う前に割り入ってきた。


僕「え?」


瑞穂「えっと…君のクラスに友達がいるから、その子から聞いたの笑」


彼女は焦りながら、そう答えた。


僕「ん? そなんだ?」


それから二人に会話はなく
時間にすればたった数分のことだったんだろうけど
この沈黙は僕にとってとてつもなく長く感じられた。


その沈黙を破ったのは彼女の方からだった。


瑞穂「じゃあ、あたし用事あるからそろそろ行くね?」


僕「うん。じゃあ、また明日。」


瑞穂「また、明日。」


彼女は小さく手を振って、小走りで公園から去っていった。




僕はこの日初めて彼女 椎名瑞穂と会話をした。


君は覚えているのかな?
もう7年も昔の話なのに、僕は未だに覚えています。


桜が舞い散る、あの日のことを…


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2.あの向日葵のように



元気にしていますか?


君がこの街を離れてから、
早いもので5年も経ちました。


僕らが生まれ育ったこの街には、
今たくさんの雪が降っています。


君と別れた時のような真っ白で
キラキラと輝く雪が…




高校を卒業すると同時に、
この街を離れていった君。


毎年この雪を見るたびに、
君と過ごしたわずかな時間が
脳裏に蘇ってきます。




これは君への最初で最後の手紙。




これを君が読んでいるとゆうことは
その時、僕は…


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1.桜の木の下で