髭はねて甚長い飾海老  たかし


海老類の双璧といえば、

伊勢海老と車海老に止めをさします。


車海老は卵から養殖に成功して、

市場に安定供給し

断固たる地位を確保しています。


そこへ行きますと伊勢海老は養殖が難しく

捕獲してから短期間畜養してから対応をはかるという

自然任せで価格も変動しやすく不安定です。


日本の伊勢海老は、本州中部から九州に分布し、

その他に朝鮮半島南部、台湾に

生息しているといわれます。


日本山海名産図会巻之三に、

『俗称伊勢海蝦と云う。

是伊勢より京都へ送る故なり。


又鎌倉より江戸へ送る故に

江戸にては鎌倉海蝦と云。


又志摩より尾張へ送る故に、

尾張にては志摩蝦と云』

とあり、産地により名前が変わると書いています。


井原西鶴は多くの作品を残していますが、

伊勢海老を季節の中に取り上げてものも

いくつかあります。


好色五人女巻四の大節季はおもひの闇の中に、

『榧、かち栗、かまくら海老の

通町にははま弓の出見世・新物・たび…』

とあり、江戸を取り上げて作品に

「かまくら海老」としています。


同じ江戸でも、日本永代蔵巻四では、

『伊勢海老代々きれて、

江戸瀬戸物町、須田町、麹町をさがして…

海老一疋小判五両』

と書かれており、はっきりとした使い方がなかったのか、

西鶴が大阪の人なので

こだわりがなかったのかも知れません。


五両は少々誇張としても年末の高値の原因は、

『むかしより毎年かざり付けたる蓬莱に、

いせゑびなくては、有つけたるもの一色にて』

(西鶴世間胸算用巻一)

とあり、正月の飾り海老です。


『𨯯髭をさして江戸行く飾り海老』(柳多留112)


『剃らぬのは海老と野老のヒゲばかり』(柳多留156)

姿特に髭を大切にしました。


今は飾り海老は花柳界の玄関に飾られる程度で、

どこでも見られる正月の風物詩とは

縁遠いものとなりました。


今洋食のコースやパーテーでお目にかかる伊勢海老は、

ほとんどが輸入物でボイルして冷凍されており、

淡い黄褐色、オレンジ色でぱっとしませんが、

日本の伊勢海老は

鮮やかな紅色が浮き出て見事です。