月の蟹陸続たるが愉しまる  まもる


『月夜の蟹』という迷信とも諺ともつかない俗説があります。

蟹は夜間活動する物が多く、月夜に水底に写るおのが姿に

恐れ戦いて身が痩せるという話です。


話の出所は中国の璽雅翼にある、

『其ノ腹中ノ虚実ハ亦応ズ月ニ…』 からきているようです。


蟹は何回も脱皮を繰り返し、

成長した後も一年に三、四回脱皮しますので、

その辺りと月夜の蟹が結びついたようです。


『蟹は甲に似せて穴を掘る』 の諺もあります。


江戸の頃も使われていました。

四方のあか(太田南畝 文化5年 1808年)に、

『蝸牛の角を縮めて入り、蟹の甲に似せて穴を掘るも』


蟹は自分に見合った穴を掘るように、

人も己の力量才能に応じた言動や願望を持つ物だとの例えです。


『蟹の死にばさみ』 

死んでも離さない事で執念深いこと。


『蟹の念仏』

にいたっては、口角唾をため不平不満の絶えない様で

あまりいいものではありません。


『蟹を食うともガニ食うな』

蟹の裏側にあるエラの部分は害があるから食べてはけない教えです。


蟹を食べる時まず甲羅を外しますが、

裏側の今は退化した腹部の折れ曲がったところを外します。

俗に言う『蟹の褌』です。

この呼び名は古くからあります。


江戸時代の笑い話、きのふはけふの物語(元和の頃 1615年~23年)上に、

『ある者、婿入りするとて、所の年寄たる人に、式第次を習ふ。


(其方しゅうとの所は山家にて、候程に、蟹を致そう。

構いてふんどしをはづして参れ)といふ。

(委細心得申す)と請合ふ。


案の如く蟹出す。この婿、箸をからりと捨てて、

下帯を外して引き結び、ぜんの脇に置きければ、

この作法でこそあるらうとて、

みなみな座中、見苦しきふんどしをはづしける』 とあります。