『 NEWMARKETに抱かれて・・・ 』

『 NEWMARKETに抱かれて・・・ 』

心って温かいものです。何かをしようととか、何かができるとかは・・・

そんなことどうでもいいんです。ただ真っ直ぐにみつめてあげることが

なによりも大切なことなんです。ありのままでいられる大切さ・・・・。

心って温かいものです。何かをしようととか、何かができるとかは・・・
そんなことどうでもいいんです。ただ真っ直ぐにみつめてあげることが
なによりも大切なことなんです。ありのままでいられる大切さ・・・・。
Amebaでブログを始めよう!

『 この森が私をずっと支え続けてくれています。

昔から私は、よくここを歩きながら皆とお話をするのが大好きなの。

追い込まれたときはいつもこの森に逃げ込んだものです。(笑) 』

サンナは、アデイルの姿を目にしっかりと焼きつけようとしていた。

『 たくさん、たくさん、ここでは笑ったり、泣いたりしました。 』

深く優しくアデイルは笑っていた。この人のどこが病気なのだろうと、疑いたくなるくらいにいい顔色をしていた。彼女の優しく穏やかな笑顔と思慮深く澄んだ瞳は、シカゴで初めて会ったときとまったく変わらないでいる。

『 ここに来るとね・・・、なぜなのかしらね・・・。

みんな、みんな素直になれるのよ。

心が裸になれる。    

・・・・ずっと昔からそう。

不思議ね・・・・。 』

  

目を閉じて風をアデイルは、深く深く息を吸い込んだ。

『 誰かに心のうちを明かすとき、誰かの迷いを受け入れるときには、

穏やかでありたい。もちろん動物たちに対してもそう。

だから自然とこの林道を散歩しながらお話をすることが多くなる。

私の父も母もここでたくさん私の相談にのってくれたものなのよ。話すという行為

で考えを整理することの術を、聞いて差しあげる行為で心の棘を抜くことの愛を、

教えていただきました。

話すとき、聞くとき、いつもこの森が私と一緒にいてくれるようにと、私はいつも祈ってきました。笑顔に導いてあげられますようにと・・・。 』

『 だから、アデイルには何でもお話できるのかもしれませんね。私も訪れる度にどんどんこの街を好きになっていきます。知られざる聖地、ニューマーケット・・・ 』

『 午後から体調が許せば、昔のようにあのウォレンヒル(丘)まで馬の背で風になっ

てみましょうか? でも、今の筋力では落馬してしまうわね、きっと。ふふっ。 』

『 それなら適任の名馬を知っていますよ。 』

『 あら、どの子? 』

『 コットンフィールです。 』

『 ・・・どうして、ニューマーケットに ? 』

『 フォグスター夫妻とシゲに手配していただきました。 』

『 あら、そう。 』

アデイルは、ニコニコしていた。少しの間、二人は思い出話をしながら進んだ。

もうすぐアデイルの67回目の誕生日だった。

2005年 秋 ~ 英国、ニューマーケットにて

優しい緑の木々に包まれた林道をたくさんのサラブレットたちが駆け抜けていった。

自身がよく慣れ親しんだ景色の中をアデイルは、サンナと進んでいた。辿ってきたひとつひとつの出来事が、昨日のことのように思えてくる。

 アデイルは、昨年から自分の力だけでは歩けない二つの足を優しく見つめていた。

ウォレンヒルが微かに見えるほどの小さな瀬があるところまでやって来たとき、サンナは

なんとも言えない幻想を見せられた。

“ おはよう ”と告げるアデイルの声に風に揺れる葉たち。

幾筋の光線となって木漏れ陽が現われたかと思えば、大地から飛び立った蒸気が霧となって車椅子の彼女を優しく包んだ。まるでアデイルを出迎えているかのような光景にサンナは、鳥肌が立った。

迎えているかのようなではなかった。明らかに森はアデイルを歓迎し、出迎えていた。サンナには、そうとしか映らなかったのだ。

 手を伸ばして葉を一枚、手にとり、アデイルは話しはじめた。

眠気を覚まそうと、シゲも外で煙草を一本吸いに外にでた。外は櫻がチラホラと咲き始め、風が優しく吹いていた。

“ いい季節に日本にきたな・・・・ ”

と思った。仙道でなく、自分に迎えに行くように指示が出されたことの意味もなんとなくは感じ取りはじめているシゲがいた。アデイルの意図していることはシゲに伝わりはじめていたと考えてよさそうだった。

“ 仙道は中枢部にいすぎるか・・・”

 煙草を吸い終わったシゲは、国際通話が可能な電話があることに気がついた。アデイルに連絡しておこうと考えた。別にパソコンからのメールでもよかったのだろうが、なんとなく声を届けたかった。いま自分の心の中にある温もりを、受け取った思いを届けたかった。

トゥルルル・・・ トゥルルル・・・

何回かコールすると留守番電話が応答した。

『 アデイル・・・、シゲです。和水は無事に日本に到着しました。

いま私と一緒にいます。また連絡します。 』

シゲ、和水は無事に出会った。いつか振り返ったときに大笑いのできる思い出を二人はいただいた。血縁で結ばれた家族いうわけではないが、いろんな場面で陰からシゲは和水を支えていくことになる。このときのシゲはそんな将来のことは何も想像もしていなかった。

シゲもまた和水との時間を通して研(ケン)との絆をもとめてもいた。