たっちゃんの活動写真&西洋古典音楽切り抜き帳

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「映画館で」「自分のカネを払って」観る映画と「コンサートホールで聴いた」クラシック音楽会の、独断と偏見によるコメントを公開。

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 現代のクラシック界を代表する指揮者の一人であるマリス・ヤンソンスが亡くなった。

 昨日の未明、ネットのニュースで知って驚いた。昨年の来日公演がキャンセルになって以来、健康上の問題で、演奏活動をセーブしていることは伝えられていたが、来年の12月にバイエルン放送響とのブラームス・チクルスが発表されていたので、回復に向かっているのだろうと喜んでいた矢先の訃報だった。

 ヤンソンスの実演に初めて接したのは、ムラヴィンスキー亡き後のレニングラード・フィル(サンクトペテルブルク・フィル)との来日公演で、テミルカーノフとの二人体制で来た時だった。その後、自らが育てあげたオスロ・フィルと来日、そしてバイエルン放送響とコンセルトヘボウ管という二つの超名門オーケストラを交互に率いて、毎年来日公演をして名演を聴かせてくれた。

 コンセルトヘボウ管との来日公演は特に素晴らしいものだった。オケの特質を尊重した自然体の音楽は、このオケ特有の美を存分に引き出して楽しませてくれた。前任者のシャイーがかなり強引なタイプだっただけに、ヤンソンスの優れたバランス感覚は際立っていた。

 結局、ヤンソンスはコンセルトヘボウ管を離れ、亡くなるまでバイエルン放送響と共にあったが、出来ればコンセルトヘボウ管に残ってほしかったと思う。もちろん、バイエルン放送響も素晴らしいオケであることは間違いなく、あくまで個人的な好みの問題だが。

 ヤンソンスの思い出で、特別なのが2000年のベルリン・フィルとの来日公演だ。アバドと指揮者二人体制での来日で、アバドがベートーヴェン・プロだったのに対して、ヤンソンスはショタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲第1番と、ドボリザークの交響曲第8番というプログラムをもってきた。

 メンバーの世代交代もあって今はすっかり別物に変わってしまったが、当時のベルリン・フィルはカラヤン時代の音色がまだ残っていた。その重厚なオケと対峙したヴァイオリニストがヒラリー・ハーンで、当時20歳の彼女がヤンソンス指揮のベルリン・フィルとショスタコーヴィッチを弾いたのだ。

 サントリーホールでのライヴ映像が残されており、久しぶりにDVD(冒頭の写真)を引っ張り出して聴いてみた。まだ若々しいヤンソンスの指揮で演奏する猛者揃いのベルリン・フィルに対して、一歩も引かず堂々たる演奏を繰り広げるハーンの姿が残っている。ハーンの日本デビューで、終演後のロビーでの会話は、驚きと賞賛に満ちていたことを思い出した。無論、ドボ8も素晴らしかった。

 最後に聴いたのは2016年11月のバイエルン放送響との2公演。これまた名演だったが、二日目のアンコール時にマエストロが転んでしまったというアクシデントがあったっけ。

 数々の得難い音楽体験をさせてくれたマエストロ。ありがとうございました。でも、もう少し聴きたかったなあ…。

 享年76歳。心よりご冥福をお祈り申し上げます。