10月13日（金）、東京文化会館で二期会の『ドン・カルロ』を鑑賞した。

18時開演、途中20分２回の休憩を挟んで、22時15分終演。４時間15分にわたる”グランド・オペラ”である。

観客はそこまで多くはなかった。６割程度？　１階中央は人が入っていたが、両翼は空いていたし、私のいた３階席も、最前列は人がいたが、後ろの列はガラガラだった。

平日だから？　

終演時間が遅いから？　

チケット代が値上がりしたから？

それとも、演目に興味がないから？

だとしたら、ちょっと待ってください。『ドン・カルロ』って、キャッチーなメロディーがてんこ盛りで、主要な人物が６人もいて、我こそは主役の座を射止めん、と丁々発止を繰り広げるような超豪華オペラなんですよ。

同じヴェルディの『椿姫』みたいに、主要な登場人物が一人（＋２）でいいのとは訳が違うんです。鑑賞しないなんて、なんて勿体ない！

まあ、客の入りが少ないのはとりあえず置いておいて、

さて、今回の公演。

非常に率直に言って、私の個人的な評価は以下の通り：

指揮、合唱、ロドリーゴ＞ドン・カルロ、エボリ公女＞エリザベッタ＞＞宗教裁判長＞フィリッポ２世＞＞演出

良かったのは、指揮と合唱とロドリーゴ。

指揮者はレオナルド・シーニ。ヴェルディのメロドラマ性を存分に引き出していた。合唱もとても良かった。

そして、今回の『ドン・カルロ』の真の主役、小林啓倫演じるロドリーゴ。

いい役どころだよね、ロドリーゴ。友情に厚く、信義を尊び、民に優しく、忠義を貫き、知恵と勇気があり、権力に媚びず、女にもモテる（多分）。

ロドリーゴのドン・カルロに対する思いは、今風に言うと、若干”ゲイちっく”かもしれない。死にゆく場面で、「あなたのために死ねて幸せだ」なんて。例えそれが、「”スペインの救世主である”あなたのために」だとしても。

ドン・カルロを演じたのは樋口達哉。悪くないけど、役どころからして、ロドリーゴに食われちゃうよね。何せまだまだお子ちゃまだからね。「太陽の沈むことのないスペイン帝国」を継ぐ者としての自覚は皆無。だから、父親のフィリッポ２世からも信頼されないし、エリザベッタからは、使命を果たしなさい、なんて諭される始末。

エボリ公女を演じた清水香澄も良かった。

エリザベッタを演じた竹多倫子も悪くはないのだが、先日、ヨンチェヴァの歌唱を聴いたばかりなので、どうしてもソプラノに点が辛くなってしまう。ごめんなさい。低音が響かないし、高音が割れるし（力が入っているから？）

今回の公演でもう一つ（もう二つ、三つ？）だったのが、バスの二人と演出。

『ドン・カルロ』の聴かせどころの一つに、「宗教裁判官（＝大審問官）v.s. フィリッポ２世」のバス合戦がある。

今回は残念ながら合戦になっていなかった。なんか全然迫力も権威もないフィリッポ２世と、異端を容赦なく火炙りにする恐怖の権化みたいな大審問官の対峙じゃなくて、低音歌手二人の普通の歌唱だった

でも、演出の意図からすると、これでいいのかも。。。

だって、フィリッポ２世は、浮気の相手エボリ公女に、寝巻き姿で、「妻が愛してくれないよ〜」とベッドの上で嘆いているし、そこに訪ねてきた大審問官は、「ボーサ公を引き渡せ、さもなければあなたを宗教裁判にかける」なんて言っているけど、エボリ公女の脱ぎ捨てたパンティを手にしているから、全然脅迫になってない。

演出はきっとドイツ系だろうな、と思って調べたら、やっぱり。

演出家ロッテ・デ・ベアは、オランダ出身の女性で、「演出家ペーター・コンヴィチュニーとともにライプツィヒ歌劇場で演出に従事」しているとある。（二期会のHPより）

”革新的な”（とんでも演出？）はなぜかドイツ系に多い。以前、コンヴィチュニー演出の『ドン・カルロス』（フランス語版）を見たけど、エボリ公女の視点から見た『ドン・カルロス』だった。（今回の演出に似ていた）

二期会は、演出家を選ぶ時にもっと慎重になるべきだと思う。海外の革新的な演出なら何でもいいってもんじゃない。

イタリアオペラを日本で上演する意味をもっと考えてほしい。私だったら、ドイツ系の”革新的な”演出家に依頼するくらいだったら、むしろ日本人の演出家に依頼するな。

ロドリーゴなんてもう”武士道”真っ青なくらい精神的には武士に通じるものを持っているんだから、日本人の演出家の方が、原作のシラーやベルディの意図に沿った、そして観客の日本人が納得するような新演出ができるんじゃないの。

欧米の演出を無批判にありがたがるのは、もう、止める時期に来ていると思う。

意味不明、ツッコミどころ満載の演出だったけど（子供たち、宝石箱の代わりにスマホ、先王カルロス五世の解釈、女性への暴力、など）、いちいちあげつらうのも面倒なので、この辺でやめておきます。

指揮：レオナルド・シーニ

演出：ロッテ・デ・ベア

フィリッポ２世：ジョン・ハオ

ドン・カルロ：樋口達哉

ロドリーゴ：小林啓倫

宗教裁判長：狩野賢一

エリザベッタ：竹多倫子

エボリ公女：清水華澄

『ドン・カルロ』【2023.10.13】／東京文化会館／二期会／演出に疑問