３月２８日（火）、東京文化会館においてヴェルディの『仮面舞踏会』を鑑賞した。

今年で１９回目になる「東京・春・音楽祭」の一環。

今回の音楽祭では、『仮面舞踏会』、『ニュルンベルクのマイタージンガー』、『トスカ』の三つのオペラの公演がある。ただし、全て演奏会形式。

今まで、演奏会形式のオペラはつまらないだろうと思い、敬遠していたのだが、今回の公演でその考えは完全に消し飛んだ。

実力のある歌手陣が歌えば、コンサート形式でも十分に素晴らしいのだ！

しかも、オペラでは大体どこかで眠くなってしまうのだが、不思議なことに、今回はぜんぜん眠くならなかった。

私は光の量が少ないと眠気が襲うタイプらしく、オペラだと客席が暗いのでどうしても眠くなってしまう。しかし、演奏会形式だとオペラの時ほど客席が暗くならないので、眠くならない、ということが分かった。（オペラの時も、もう少し客席を明るくしてくれるといいんだけど・・・）

招聘ゲストは、みなさん（リッカルド役のアゼル・ザダを除く）実力者揃いで、素晴らしかった。

コンサート形式ってある意味怖い。実力がモロに出る。演出も演技もなく、ごまかしが効かない。その分、歌手の歌や演奏に集中できて、これはこれでとても興味深い。ただし、その演目についての知識があることが大前提であることは言うまでもないが。

『仮面舞踏会』は、コロナ禍の数年前、METのストリーミング配信で見た事がある。頭の中で、ラドヴァノフスキーやアルヴァレス、キャサリーン・キム等の演技を思い浮かべながら、鑑賞していた。

実力のある歌手は、演奏会形式でも、迫真の歌唱ができるんだ。ウルリカを演じたマドーチュキナも見事だったし、オルカルを演じたダミアナ・ミッツィなんか顔で演技していた。（彼女はお腹がかなり大きかった。妊娠中かしら？）

レナートを演じたヴァシレも、なめらかな深い声のバリトンで、たくさんの拍手が行っていた。

アメーリアを演じたのは、ジョイス・エル＝コーリー。

申し訳ないが、私には、METでアメーリアを演じたラドバノフスキーの印象が強すぎて、公平な判断ができない。エル＝コーリーは、来シーズンの新国立劇場でトスカを演じる予定なので、その時に再度鑑賞させてもらいたいと思う。

問題は、リッカルドを演じたアゼル・ザダ。

どうして彼を呼んだのかしら？と疑問に思うほどの出来だった。声量がないからソプラノにかき消されてしまうし、高音は恐る恐る出しているような感じだったし。多分、調子が悪かったのだと思うけど。

日本人歌手で、一人、いいなと思ったのが、シルヴァーノ。私の席からは姿が見えなかったのだが、声だけ聞くと、レナートを演じたヴァシレと遜色ないように聞こえた。後で大西宇宙とわかる。

オーケストラはピット内ではなく、舞台上だったので、迫力があった。ベルディ節を、これでもかというくらい聴かせてくれた。映画もミュージカルもない時代、オペラが最高の娯楽だったことがよく分かる。

指揮：リッカルド・ムーティ

リッカルド：アゼル・ザダ

アメーリア：ジョイス・エル＝コーリー

レナート：セルバン・ヴァシレ

ウルリカ：ユリア・マトーチュキナ

オスカル：ダミアナ・ミッツィ

サムエル：山下浩司

トム：畠山茂

シルヴァーノ：大西宇宙

『仮面舞踏会』【2023.3.28】／東京文化会館／東京・春・音楽祭