環境破壊で地球に住めなくなった人類は、さまざまな星へ移住した。

少年ヤマノシンの住むナイラ星も

人類が移り住んでから二百年を迎えようとしていた。

ところが、シンの従妹リシアが突然、

滅びたと伝えられるナイラ星の民「ロシュナール」の

<時の夢見師>の力にめざめてしまう。



精霊の木(著:上橋菜穂子)


このブログで以前にも紹介した、守り人シリーズ(「精霊の守り人」、「闇の守り人」など)や「獣の奏者」の作者でもある上橋菜穂子さんのデビュー作(1989年作・現在は入手困難)。

前述したのちのちの代表作群がそうであるように、この「精霊の木」もファンタジー小説というフィクション作品でありながら、現実と現代社会の縮図にもなっていて、上橋さんの作風の原点や種となる要素が随所に見られる。


ストーリーにものちにちの作品に出てくる場面や人物を髣髴させる。

例えば、ロシュナールが滅んだとされる真実の隠ぺいは、「精霊の守り人」のニュンガロイム(水の精霊)や新ヨゴ皇国の国の興りの真実の歪曲や、「闇の守り人」のバルサとジグロのカンバル王国からの亡命の真実、「獣の奏者」の王獣や闘蛇の飼育規範の理由となった出来事など。

コウンズが権力や名声やある種のカリスマ性で事実を捻じ曲げあたかも自分が正しいと思わせる方向に操作するあたりは、「闇の守り人」のユグロや「獣の奏者」のダミアのそれに重なった。

終盤のシンとコウンズの対峙は、「闇の守り人」のバルサとユグロの対峙や、「獣の奏者」のタハイ・アゼ(降臨の野)での奇跡に重なった。


この作品が発表された1989年当時は、故.忌野清志郎さんが原発問題を歌にして警鐘を鳴らした時期でもあったはず(間違ってたらごめんなさい)。

環境破壊で地球が滅亡したため、人類がスペースコロニーや他の星に移住したというストーリー設定やけど、その環境破壊となった原因の一つとして海に捨てられた核廃棄物も書かれていて、まさに作品発表から20年以上経った今の時代が抱える問題そのものを予言していたかのようでもあった。

そして、このままだと今の時代から見た未来の予言書でもあるように思えた。


デビュー作だから作品自体が発表されたとしての時系列上は最も古いけど、のちのちの作品を読んでから読んでも(俺もそのくちです)逆に新鮮さがあると思う。

守り人シリーズや「獣の奏者」が物語の舞台の文明が、日本で言えば平安時代くらいの時代のアジア文明をモチーフにしてるけど、この物語の舞台の文明は現代よりもはるか未来のそれをモチーフにしていて、こういう未来文明をモチーフにした上橋作品は現在のところ、この「精霊の木」のみ。

のちのちの作品群が過去の文明をモチーフにした物語故に、フィクションとはいえどこか歴史から学ぶ物のようにも感じられるけど、この作品と物語は未来を舞台にしているから現代を生きる人々への望まぬ未来からの警告でもあるように感じられる。