TACASHIの青い夜空の海の追憶

TACASHIの青い夜空の海の追憶

-SUICIDE- “自殺”という意味の言葉。

普通はネガティブな意味を持つ言葉だ。


“ROCK'N'ROLL SUICIDE”


本来ネガティブな意味を持つ言葉を、氷室さんはニューアルバムの収録曲のタイトルと今回のツアータイトルの中に入れた。

ネガティブな意味合いではなく、ポジティブな意味合いとモチベーションを込めて・・・。

来月で50才になる彼の、今までのキャリアに誇りを持ちながらも、それに甘んじる事を自ら許さない新たな挑戦心故の“自殺”という意味が込められている。


今月リリースされたばかりのニューアルバム「“B”ORDERLESS」について、氷室さんはこう語っている。



「そういう意味では今までで”分かりやすさ”が一番薄いアルバムかもしれないですね。自分ではロックっぽいという意味でそれが気に入っているんですけど。バンドっぽいですし。むこうのエンジニアもそう言ってくれましたからね。もし、俺が日本にあのままずっと住んでいたら、このアプローチでアルバムを作ろうとは多分思わなかった。今の俺のロックの自分なりの解釈がこのアルバム。最新形ではありますね。最初は地味だと思うかも知れないですけど、聞き込めば聞き込むほど良さが伝わる。ホントにロックが分かる人にはこれだよねと思ってもらえると思う」

(特設サイト インタービューより抜粋)


前々作「FOLLOW THE WIND」は、それまでの氷室さんには無かったミクスチャーやモダンヘヴィネスなどのテイストを盛り込んだ実験作となった。

その反動なのか前作「IN THE MOOD」は、いわゆる一般的なイメージの氷室さんの王道を踏まえた感のある仕上がりだった。


先行シングル「BANG THE BEAT」もやはり彼の王道を踏まえた楽曲。

それ故にニューアルバムもいかにも氷室さんらしい感じのアルバムになるかと思ってたけど、初めて聞いた印象は今までの彼の作品からは考えられないくらい、前出してるインタビューでも言ってるように地味な感じがした。

これまでは、聞いた一発目から何らかのインパクトのある楽曲や作品が多かったから、驚かずにいられなかった。

ビート感、疾走感、メロディ感がある部分は従来通りではあるけど、それらが今まで以上にシンプルというか、贅肉をそぎ落とした仕上がりだった。

でも、前述したインタビューでも言ってるように、聞けば聞くほど良さが伝わってきた。


いぶし銀のようなアルバムだと俺は思った。

それも楽曲やサウンドの仕上がりだけでなく、氷室さんが50才を迎えるにあたっての現状とリンクしてるような気もしたし、アルバムのジャケットやブックレットの写真が限りなくモノクロに近い物だったから、ある種の先入観的な物でそう感じた。


それ故に、それらの楽曲がライブではどういう風に演奏され、演出されるのかが気になった。

また、それらと過去の曲が1つのライブとしてどういう流れを作るのかも・・・。



太陽が西に大きく傾いていた頃、東の空に欠けた月が白くうっすらその姿を浮かべていた。

これから始まろうとする熱い夜の始まりを告げるように・・・。


開演前からオーディエンス側はすでにいつヒートアップしてもいい状態だった。

SEが流れても、それをかき消してしまいそうなほどに。

青い照明の中、サポートメンバーが揃って登場。

ステージ後方のスクリーンにBORDERLESSの文字が浮かび、照明が赤に変わり氷室さんが登場して一層歓声を大きくなった。

しかし、これはジェットコースターで言えば、ホームを離れ初めの上り坂をゆっくり上がりきったまでの所に過ぎない。


初めの上り坂を上がり切ったジェットコースターがそこを越えて下り坂に差し掛かった瞬間にスピードアップするように、ツアータイトルと同じ「Rock'n'Roll Suicide」のイントロが始まった瞬間にさらにヒートアップ。

ステージ側の演奏に負けないくらい、オーディエンス側も歓声と拳で応えた。

冒頭でのべた自殺(SUICIDE)の意味合いから考えても、今回のツアーの1曲目にも、今の氷室さんの心境にもぴったりな曲。

それに続き、序盤は「Doppelganger」、「BANG THE BEAT」、「PARACHUTE」とニューアルバムからの選曲が続いたが、CDではいぶし銀的でモノクロームな感じに聞こえたそれらの楽曲が、ライブパフォーマンスや照明効果、ステージ後方のスクリーンの映像も手伝ってカラフルに感じさせてくれた。

CDとライブの違いを初っ端から見せつけられた恰好となったが、これはCDを聞いただけでは完成しない、ちゃんとライブを見てこそ初めて完成した世界観でもあると思った。


ライブはその時の最新音源からの選曲が中心になるのが一般的であるが、旧作からはどのような選曲がされるのかも1つの楽しみ。

序盤4曲がニューアルバムからの選曲だったが、ここからしばらく旧作からの選曲が続いたが、その1発目はBOOWYの「DOWN TOWN SHUFFLE」の詞のタッチを彷彿させる「WEEKEND SHUFFLE」。

ヒートアップした感じを爽快にクールダウンするような鮮やかなブルーの照明に包まれ「SILENT BLUE」、反町隆史に提供した「ONE」のセルフカバーといった聞かせるバラードもこの流れの中で演奏された。

DAITAさんのギターはG-LIFEのそれぞれ色違い(メインは白で、青、赤、グレーなどもサブで使用)を中心に使用してたけど、ポールリードスミスを使用した「MISSING PIECE」と「DON'T SAY GOOD BYE」もやはり歌を大事にしたミディアムナンバーだ。

SIAM SHADE時代から愛用していたトム・アンダーソンの出番は無かった。


新旧問わず、ライブ開始からMC無しで10曲を立て続け演奏したが、ここでやっと本日初MCを入れ、充実感のある表情で「松山は7年ぶりだけど、相変わらず熱い連中ばかりが集まってくれて最高です。」と言った。

ニューアルバムからの選曲だけでなく、懐かしめの曲もセットリストに組み込んでいる事を言うと、1stアルバムの中から特に思い入れやメッセージを込めたという「STRANGER」を披露。

ライブバージョンならではのアウトロの本田さんのギターソロだけでなく、DAITAさんとのツインアルペのアンサンブルも秀逸だった。

今日のライブは西山さんは今までにも増してプレイだけでなくステージングも影役に徹しきっていたが、その分本田さんが今まで以上にステージングのアピール感があった。

元々PERSONZでもスマートで見栄えのあるステージングでも見る人を魅了していたし、共にツインギターの両翼を担うDAITAさんともプレイやサウンドと言った聞かせる面だけでなく、見せる面でも互いの持ち味を発揮していた。


懐かしい曲を立て続けに披露した流れはここで終わり、本編後半戦は「My Name is“TABOO”」、「忘れゆくには美し過ぎる・・・」といった、再びニューアルバムからの選曲を立て続けに送る流れで始まった。

ニューアルバムの曲はこれまでとは違った感じがしていたが、見事に旧作からの選曲ともライブという流れの中に共存していた。

それは新旧問わず、その曲を輝かせるパフォーマンスや演出効果がなされていて、なおかつそれらのもとではどんな曲をやっても1つのライブとして成り立たせられるだけの自信があったからなのだろう。


終盤になるとまた旧作からの選曲が続いたが、定番曲、意外な曲問わずアップテンポにたたみかける曲で攻めてきた。

「LOST WEEKEND」はイントロを聞いて「え!まさか!」と思ったけど、これも嬉しい選曲やった。

「TASTE OF MONEY」、「WILD AT NIGHT」はライブで不可欠な起爆剤となる曲ではあるが、ステージ後方のスクリーンの映像が今まで以上に曲の世界観に引きずり込んでくれた。

特に「WILD AT NIGHT」での、秒単位以下から数字がハイスピードで時間の数字が上がっているデジタル時計の映像は曲のテンポ感や車のイグニッション音のSEとも合っていた。


アンコールは本田さんのアルペで始まるバラード「Sarracenia」でしっとりと幕を開けた。

風を切るようなボーカル、疾走感、ビード感、メロディ感が「これぞヒムロック!」というファクターではあるが、こういったしっとりと聞き入る深みがあってドラマティックなバラードも彼を語る上で欠かせないファクターでもある。

今日最もオーディエンスが聞き入ってたのもこの曲だった。


しっとりした空気から一転して4年前のツアーで1曲目を飾った「IN THE NUDE」でアグレッシブのスイッチが入った。

続く「Say Something」も前作アルバム「IN THE MOOD」に収録されているが、こちらもやはりたたみかける曲で、少なくとも俺にとってはどちらもまさかアンコールでやるなんて意外な曲。

大ラスを飾った「WILD ROMANCE」も同アルバムに収録されているが、こちらはアグレッシブさだけでなく、スケール感も同居している。

曲の前のMCで氷室さんも今日のライブを「最高」と連発していた。


アンコールの登場は1回だけで、その中でやった曲は4曲。

今までなら本編ラストで「ANGEL」、大ラスで「SUMMER GAME」が演奏される事が多かったけど、今日はそのどちらも演奏されたなかった。

俺も含め、多くのファンが客電が上がり終演のアナウンスが流れてもアンコールを求めていた。

たとえその2曲をやらないにしても、もっと聞きたかった。

しかし、氷室さんもバンドメンバーもやりきったのだろう・・・。

それなら、無理に長々とアンコールをやる必要も無かったのだろう。

アンコールならかなり古めの曲を組み入れてやる事が多かったけど、今日のはニューアルバムや前作の曲だけで4曲で1回だけのアンコール組み込み、それでやりきった。


それもひとつの“ROCK'N'ROLL SUICIDE”だと言える。

「WILD ROMANCE」で今日の最後を最高のパフォーマンスで締めくくり、またその演奏前のMCで氷室さんが「最高」という言葉を連呼した事がその証拠に思えてならない。


前述したようにニューアルバム「“B”ORDERLESS」の楽曲達やその世界はCDを聞いただけでは完成しない。

ライブまで見てこそ初めて完成する。

あるいは逆にライブで見た後に、初めてCDで聞くというパターンだと、違った感じ方があって面白いかもしれない。

貴方はどっち?


そしてCDが何度も聞いてからの方が良さが分かるように、今回のツアーも1ヶ所だけでなく何ヶ所が見る事でその良さを感じられるのかもしれない。

会場によってセットリストを組み替えてる所もあるだろうし。

例え今日と同じセットリストになってしまってもいいから、今回のツアーをもっと見たい。