熊野古道3日目は、待望の中辺路歩き。

 

 膝と腰の不安もあり、王道ともいえる「滝尻王子」から歩き始める34キロコースでなく、「熊野三山ハイライト」と銘打たれたお気軽コース(7キロ)をチョイスした。

 事前に入手したパンフレットによれば「休憩所なども整備され、石畳の残る古道や棚田や茶畑が美しい集落の中の道など、雰囲気も良いコース」らしく、桜はとうに散ってしまったが「山も笑う(季語)」GW前は期待できるに違いない。

 

 紀伊勝浦駅から北上して新宮市へ、さらに熊野川を上流へと走り1時間。熊野本宮大社側でなく、河川敷のほうへと向かう。

 

大斎原の河川敷は無料で駐車できる。GW前の平日だとこれくらい空いている

 

観光案内所前のターミナルから路線バスを利用

 

 バスに乗り込むと、台湾の女性2人組が賑やかに駆け込んできて、3人での出発となった。二人とも大きな声で「間に合ってよかった」みたいなことを言っていて、行き先など一切見ていないようだが大丈夫なのだろうか?

 

20分足らずで「発心門王子バス停」に到着

 

 バス停から発心門王子へは、順路から一度逆に進まねばならないので注意が必要である。杉の木立に囲まれた緑いっぱいの山道を、鳥のさえずりや中国語のおしゃべり&高笑いを聞きつつ歩いていると、やがてそれらしい石造りの鳥居が見えてきた。

 

発心とは発菩提心、仏道に入り修行の志を固めるという意味らしい。緊張の面持ちで聖域に入る

 

スタンプを収納するボックスもすっかり古道に溶け込んでいた

 

 気が付くと、中華系女子達はそのまま反対方向へと歩いて行ってしまったが、反対周りでも本宮に戻ってしまうので声はかけなかった。「お気軽コース」だから道を間違えても、大事には至らないだろう、多分。

 

 

 集落の生活道から、次第に山道へと変わる。

 

修験道らしからぬ道標も

 

 水呑王子という2つ目のポイントを過ぎ、坂道の勾配がどんどん急になっていった。往路のバスはずっと上り坂だったので、特に疑うこともなく下り続けていたが、さっきまで見かけていたはずの「熊野古道」と表示された道標が一切なくなっていることに気づき、慌ててGoogleMapで現在地を確認してみた。

 すると、何ということだろう。大幅にルートから逸れているではないか。

 それまでにかなりの距離を下った記憶があり、戻りの上り坂は思った以上にきつくかなりの時間を要してしまった。

 4月半ばにも関わらず、汗びっしょり。

 うっかり油断していた。こんなことならチャイナガール達と一緒に歩いておけば良かったと後悔。

 

どうやらこの分岐路で道を間違えてしまったようだ

 

 なんとか正規の道へと合流し、伏拝王子のある茶屋へと辿り着く。とうに12時を過ぎていたが、レンタカーで来たと思われる別の中国人女性グループが席を占領していたので、ランチと休憩は諦めて前に進むことにした。

 

湧水をつかったアイスコーヒーは一際おいしそうに見えた

 

 後ろ髪をひかれながらも、歩き出したのには理由があって、もう少し歩けば洒落た喫茶店があることを知っていたからである。確か1か月ほど前に見たYouTubeでは、江戸時代に実在したという三軒茶屋の跡地にできたお店があって、俄然そっちのほうが熊野古道らしいからと思ったからだ。

 

 の、はずが・・・

 

にぎわいを見せていたようです?

 

ここの三軒茶屋跡は単なる休憩スペースなのだった

 

 おかしい。YouTUbeで見た動画は、たしかテレビ番組のような内容で、タレントのような女性が食レポしてたはずだったのに…辺路違いだったのか?まるで、狐に騙されたあとのような脱力感。

 仕方なく再び歩き始めると、道は徐々にお気軽でない本格的な修験道へと変わっていった。

 

蘇生よりもアイスコーヒー飲みたい…

 

 コースも4分の3ほどを過ぎ、またもや怪しき分岐路が現れる。

 

こういう看板の先って、お店ありそうだよね

 

 空腹もあったが、思いのほか疲れていたので、この際釣られてみようと思い喜んで「より道」してみることにした。峠の茶屋には何か美味しい飲み物があるに違いない。多少高くてもいいや。

 そうこうして余分な登り道を上り終え、見渡してみると、店などまったく見当たらない。

 

そこは遠くに大斎原の鳥居が見える「ただの展望所」だった

 

 この時だけは、多少ボッタくられても構わないと思ったのに…肩を落としつつ、とぼとぼと歩き続ける。気がつくと山道は終わっていた。

 

展望所から坂道を下るといきなり住宅地へ

 

九十九王子ある本宮への最後が祓殿王子

 

 このルートでは、熊野本宮大社には裏手から入ることになるが、もうそんなことはどうだって良くなっていた。境内へ入ると自動販売機があったので、すぐさまペットボトルの麦茶を買った。

 ベンチに腰掛けて前を見上げると、マスクをした八咫烏と真っ黒い郵便ポストが目に入る。

 

 

 

 

 家を出るまでに様々な人文書に目を通し、それなりに厳格な神仏習合と悠久の歴史浪漫を期待してきた熊野古道と本宮大社のはずだったが、おかしい。私が今、目にしているのはどこの神社でも見かけるユルい演出なのだった。

 遠くに授与所も見えるが、商品が所狭しと並んでいるのがわかる。

 

「せっかく、観光に来たのだから…」

 

 そう、思うようにしよう。

 

 

 

 

 でわ!