月のように美しく
太陽のように暖かく
大地のように力強く
尊天よあふるるみ恵みを与えたまえ
・・・来た、来た、来た。
鞍馬山のパンフレットの冒頭に書き添えられた『祈りのことば』。
正直、登山はあまり好きではないのだが、信仰とか歴史のスポットが点在している意味深な山なら登って見てみたいと思うし、多少のしんどさも我慢出来る。
実際に訪れるまでは、日程的にも体力的にも迷っていたが、こんな風に初球からいきなりど真ん中に言霊ストレートを投じられて、一気に期待が膨らんだ京都2日目であった。
おまけにここまで奥地に来れば、四条辺りでごった返して歩みを阻む外国人観光客の姿は皆無である。
安っぽいレンタル着物着て買い食いしながら、混雑も顧みず自撮り棒で渋滞を招く方達には、広いおもてなしの心を以てしても、やっぱりストレスを感じてしまう。
心おきなく、自分のペースで歩けるというのがたまらなく嬉しかった。
存分に京都の魔界を楽しみたいと思う。
鞍馬寺の仁王門前には狛犬ならぬ阿吽の虎が鎮座している。
そして山中には天狗が住んでいると云われ、かの牛若丸(源義経)も天狗から武芸を教わったなどと、にわかに信じ難い伝説も残っているのである。
仁王門をくぐり、由岐神社までの267mの道程は少し急な石段も続くが、道沿いにいろんな祠や鳥居、石仏などがあって飽きることなく目を楽しませてくれる。
由岐神社を過ぎると山道も徐々に修験道の雰囲気が漂ってくる。
この間、791m。登っても、登っても、景色が中々変わらない。
ようやく「寝殿」と呼ばれる建物に着いた。
どうやら休憩所のようで、覗いてみると、団体客がアイスクリームとか食べながら談笑していた。少し休んでお茶でも飲みたかったけれども、こういう時に暇なおじいちゃんやおばあちゃんに引っかかってしまうと厄介なので、自動販売機のお茶を外で飲み干してすぐに歩き出した。
まもなく「本殿」に到着。
ご本尊は毘沙門天。都の鬼門・北方を護る尊天様だ。毘沙門天とは別名・多聞天といって四天王のリーダー的な存在でもある。グループで活動する時は多聞天、ソロでの名称が毘沙門天という風に名前を使い分けているのだ。
毘沙門天である。手に持っているものが微妙に違う。
尻尾が異様に長く不思議な造形の虎。
ナイスな絵馬。コレにお金を寄附する大人に拍手をおくりたい。
あれれ。
ここが頂上だろうと思ったら、また道が上に向かっているではないか。
もうこれで登らなくても良いだろうと安堵していたのが甘かった。
今までは練習時間、むしろこっからが本番なのだった。
むむむむむ。これより奥の院って、どんだけ歩かせるんじゃい。
途中、降りてくる人に頂上までの時間・距離を尋ねてみると、返事に困りはてていたので、俄然がっかりした。聞くんじゃなかった。
「本殿金堂」から山道を404m登る。
疲れ果てて、写真を撮るのも忘れていたが、「背比べ石」というポイントが最頂点だったようで、そこからは下り道に変わる。
しまった。
下山してまもなく、3列歩行で道を塞ぎのんびりと練り歩くおしゃべりおばちゃんグループに行く手を阻まれてしまった。
こちらは、後方でいそいそと歩く仕草をしているのに、全く無反応。
レンタル着物の外国人観光客より手ごわいかもしれない。
おまけにぴったりと後ろを歩いているので、おしゃべりも全て耳に入ってしまう。
どうやら、この3人は広島と大阪から来たらしく、年に数回だけだが、こうして1泊2日のプチ旅行でしゃべり倒し、ストレスを発散しているらしい。左のAさんは漫才師並みの聞き&返し上手、真ん中のBさんは旦那さんの強烈な愚痴が痛々しく、右のCさんは天然キャラのようだ・・・って、そんな事は全くどうでも良いのだが。
何の因果か分からないが、彼女達の職場の問題や家族の近況など、散々聞かされるハメになってしまった。
私でなく、天狗や毘沙門天に聞いてもらったらいいのに。
「僧正ガ谷不動堂」
杉の大樹と荘厳な霊気に包まれた神秘的な堂宇で、牛若丸と天狗が出会った場所らしい。
道幅が広くなった瞬間を逃さずに、おしゃべりマダム達とはここでお別れさせていただいた。
自分のペースを取り戻し、足が軽くなったような気がする。
「魔王殿」を過ぎるとさらに急な下り斜面に変わる。
貴船神社麓の西門まで、573mを一気に駆け下る。
走るつもりはなくても、ついつい駆け足になってしまう程に下りやすい道。
というか、知らぬ間に天狗様にパワーをいただいたのかもしれない。
予定よりも早目の下山となったのである。
傾斜がきついので、貴船神社側からは登らない方がいいと思う。
鞍馬山へは叡山電車も通っているが、私は地下鉄で『国際会館』まで行き、荷物をコインロッカーに預けて、京都バスを利用した。『国際会館バス停』から『くらまバス停』で下車。
帰りは『貴船バス停』から『貴船口バス停』までのピストンバスに乗り、『貴船口バス停』から往路と同じバスに乗って帰った。
この旅は3月だったので野山は枯れ煤けていたが、夏とか紅葉時期に訪れてみるのも良いかもしれない。
でわ!