イギリスの歯科保険は、NHS(国民医療サービス)型で、公的扶助があるため、自己負担額は少なくてすみますが、受けられるサービスに限りがあります。また、全ての歯科医院がNHSに加盟しているわけではなく、プライベート(保険外)のみを扱っている歯科医院も多いです。
 NHSでは、例えば、歯の詰め物の材質など、低価格ですが、低品質となり、良い材質の詰め物にしたいときは、高価格ではありますが、プライベートの詰め物にした方が良いです。このため、定期健診はNHSで、治療はプライベートでというように、使い分けをする人が大半で、日本のように、低価格で比較的高品質の治療を受けられるような保険制度ではありません。
 外科手術が必要な場合では、例えば、親知らずの抜歯をNHSで希望したとき、まず病院に委託書を書いてもらい、数週間から数ヶ月経って初めて手術日の通知があり、もし都合で、その日に行けないとなると、後回しにされ、依頼してから何年も経って(!)ようやく抜いてもらうことができたということがあります。これは、医科の手術でも同じです。プライベートなら早く手術してもらえるのですが、非常に高額です。このため、抜歯を待つことができず、自分で歯を抜いてしまう人や、ハンガリーなど、低価格で治療してもらえる外国に“歯科治療ツアー”へ出かける人もいます。
 アメリカの歯科保険は民間型で、日本のような国民皆保険制度はありません。ですから、アメリカで保険治療を受けたいときは、民間の保険会社と契約する必要があります。この民間の保険料は結構高額なため、保険に入っている人は全体の6割ぐらいです。
 具体例を挙げると、歯の神経を治療する場合、日本では3割負担で1,500~3,000円ですが、アメリカではなんと1本10万円かかり、保険に入っていない人は、10万円全額負担することになります。民間保険に依頼した場合でも、何割負担してもらえるかは、申請してみないとはっきりせず、自己負担額は数万円となります。さらに、神経の治療をした後は、冠をかぶせることになりますが、これもまた10万円ぐらいします。対して、歯を抜くのは6万円ぐらいです。これもまた、日本の3割負担900~1,500円に比べれば、非常に高い治療費ですが、神経を治療して冠をかぶせるまでの1本20万円の治療と、歯を抜く6万円の治療とどちらを選ぶかと言われれば、よほど経済的に余裕のある人以外は、歯を抜くことになってしまいます。それすらできず、ただ我慢しているだけの人も多いです。
 このように、アメリカでは、歯の治療費は非常に高額です。ですから、歯を悪くしたくないという気持ちは、日本人よりも強く、むし歯予防の精神は深く浸透しています。
また、歯並びが悪いと、ビジネスに成功できないという風潮があり、多くの人が歯列矯正をして歯並びを良くしています。
 保険制度は各国によって異なりますが、主に3つの型に分けられます。日本のような社会保険型、アメリカのような民間保険型、あるいはイギリスのような国民医療サービス型です。

 (1)社会保険型 (日本・ドイツ・フランス)

  基本となるのは、相互扶助。主な財源は、総収入に対して固定比率で雇用者と被用者が負担する保険料。保険料を負担している全員が一律に一定基準の医療を受けられる。自己負担は少なくてすむ。

 (2)民間保険型 (アメリカ)

  基本は自助。財源は、実費を直接、あるいは民間の保険会社を通じて国民が負担する。 
  実費を支払わなくてはならないため、払える限度内の治療しか受けられない。手術、入院などで出費が高額になり、破産あるいはホームレスに転落する人があり、社会問題となっている。

 (3)国民医療サービス型 (イギリス・デンマーク・フィンランド・スウェーデン)
    
  基本となるのは公助。政府が運営する社会保障制度。主な財源は、国または地方政府による一般税または特別税。一定の自己負担を伴う。自己負担は少なくてすむが、医療サービスが受けられる範囲は限られている場合がある。

 歯科医療においては、小児のむし歯予防を重視して、一定年齢以下の治療や定期管理は無料で行うが、成人に対する治療の給付を抑制するというように、年代によって給内容や範囲が異なる場合が多いです。
  さらに、国別の具体例を挙げていきます。