そこを抜けると、入学式場の体育館である。担任によると、そこは『第一体育館』と呼ぶらしい。『いったい』と略すそうだ。これまた古めかしい体育館。耐震補強工事こそ施したようだが、ギリギリ平成生まれの私の中では、歴史的建造物に近い。
1組から入場し、続いて2組。拍手の音だけは悪い気はしなかった。席に着く。開式の辞のすぐ直後に、一人一人呼名されるそうだ。呼ばれたら返事をして、起立する。担任が最後の一人を呼び終えると『以上2組』と言った後に礼をするので、全員そこで座る。
小学生みたいだと思いながら、言われたのでとりあえずそうする。その儀式が終わると、入学許可があった。形式上はこれを以ってこの高校の生徒になるらしい。義務教育との違いを感じた。
式辞、祝辞、新入生誓いの言葉が目の前で行われる。そろそろ喉も渇いてきた。お行儀よくしているのも疲れる。『もういいでしょ』という頃に、校歌紹介。合唱部の生徒らしい。歌や音楽は嫌いではないが、合唱の類が嫌いな私にとっては、天地がひっくり返っても入らない部活だ。男子が二人だけ。あと10人は女子。いずれも地味目な生徒だった。
副校長が閉式の辞を述べ、式典が終わる。
よくありがちな『歓迎の言葉』がなかったため、生徒の感触がわからなかった。この偏差値でどんな面を下げて真面目ぶって生徒会長を名乗るのか見てみたかったが、明日のお楽しみとなった。
帰りのHRで連絡事項が伝えられた。明日から8時30分登校、そして昼食もあり、午後まで色々ある。桃香と少し話そうと思ったので、昇降口付近にいた。携帯が鳴る。時計の下にいるらしい。駅まで一緒に帰ることにした。
今日は桃香のほうが少し先に高校に着いていたらしい。桃香も私と同じ口で、この高校は第二志望だった。第一志望校は中学の仲良し組4人と一緒に受けたが、結果は2勝2敗。もう1人は第二希望が別の高校らしい。そのため、同じ中学からの親しい仲はおらず、敵陣に乗り込む気分だったという。
現地に来てみると、2人とも一気にホームゲームとなった気分になった。
「桃香は吹奏楽続けないの?」
中学ではユーフォニアムを吹いていた桃香だったが、希望の高校に振られたことで少し熱が冷めてしまったようだ。この学校にも吹奏楽部があるのだから、別に続ければいいと思ったのだが、そう訊くことは野暮だと思った。例のカフェを通ったため、紅茶でも飲もうと思ったが、流石に入学式当日の寄り道は気が引けたというか、気が引けた。私だけならまだしも桃香まで怖い先輩に目を付けられる必要はない。
今度は私が答える番になった。ちゃんと前後に上級生や同級生がいないことを確認した上で、数時間前にHRで高校球児の卵に言えなかった単語を声に出した。
―ミスドのお姉さん。
バイトする、などという抽象的な話ではなく、どこでバイトするかも決めている私は桃香にとっては変わり者らしい。細い目がまた細くなり、白い歯が見えた。でも、変わり者と分かっている人間と付き合う人はもっと変わり者だという理論もある。いや、桃香はノリがいいだけで変わり者ではない。