昨日の記事の続きです。
不貞の慰謝料請求に対抗するには、
① 不貞行為そのものを争ってしまうこと
② それ以外の反論をみつける
方法が考えられますね。
弁護士は、①・②双方とも反論していくこともあれば、②を主戦場として証拠を提出していくこともあるでしょう。
今回初めて登場するのが、② 婚姻関係破綻の抗弁というものです。
抗弁というのは、「反論」の意味程度にとらえていただければ結構です。
では、どう反論しましょうか。
婚姻関係破綻の考慮要素(770条1項5号)をみてみましょう。
★ 破綻後の不貞行為
確立した判例・裁判例をみてみましょう。
夫婦の婚姻関係が不貞行為当時すでに破綻していた場合について、判例は、「夫婦の一方と第三者が肉体関係をもった場合において、夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたときは、特段の事情のない限り、第三者は夫婦の他方に対して不法行為責任を負わない。」と述べており、特段の事情のない限り不貞行為の相手方に対する慰謝料請求を否定する見解を示している(最高裁判所平成8年3月26日判決)。
その理由として、「夫婦の一方と第三者が肉体関係を持つことが夫婦の他方に対する不法行為となるのは、それが婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する行為と言うことができるからであって、夫婦関係がすでに破綻していた場合には、原則として、夫婦の他方にこのような権利または法的保護に値する利益があるとは言えない」ことを挙げています。つまり、判例の基本的な立場は、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求が認められるためには、不貞行為時において夫婦としての実体が存在し、不貞行為によって婚姻共同生活の平和が害されたことを必要とするものと理解できる。
整理すると、婚姻破綻としてみとめてもらうには、
主観的要素:婚姻継続の意思の喪失
客観的要素:婚姻共同生活を回復する見込みがないこと
※ 一切の事情を総合考慮して判断される。主観的要素は曖昧になりがちですからね。
ざっと弁護士は、以下の事実を主張していくことになりましょう。
考慮要素
ア 離婚意思
…双方が離婚を求めている場合には、有責性は考慮されない。
・一方的に妻が出て行った経緯
・その際に、妻から、離婚する方向性が示されなかったか。
また、離婚することにつき暗黙の了解がなかったか。
イ 訴訟の提起、強制執行、告訴、告発
…離婚意思を推測させる言動であるから、破綻の根拠や一事情となりうる。
・接見禁止命令の申立てがこれにあたらないか?が問題となる。
→・接見禁止命令が出された経緯
・その際、夫が家を出ていくことに対して、妻はどのように認識していたか
ウ 長期間の別居
…夫婦の別居が両当事者の年齢、同居期間との対比において相当の長期間かがポイント
…離婚請求する側の有責性が高いと、別居期間が長くても認容されにくい(別居10年でも否定された事案もある)
※ 民法の一部を改正する法律案要綱によると、5年の別居を破綻事由としている。
・別居にいたる経緯、理由
…一方的に家を出た場合は、破綻は認められにくい。
→本件は、妻からの接見禁止命令がきっかけで、やむを得ずに家を出ることになった。
→別居の際に、不貞行為については認識されていたか。
・別居中の連絡頻度
…連絡頻度が多いと、破綻は認められにくい。
→別居後に、妻と連絡は取っていたか。その頻度は。
エ 暴行虐待
…暴行の違法性は重視される
→本件でのDVの内容、程度…DVだけで婚姻関係が破綻するほどのものだったか
オ 犯罪行為
カ 不労、浪費、借財等
キ 配偶者の親族との不和
ク 性生活の問題
…内容、程度、責任等によって破綻の根拠となる。
ケ 精神的疾患を含む重大な疾病、身体障害
コ 性格の不一致、結婚観、生活観の違い等
※ ただし、これ自体は、認められにくいものです。
不一致の程度が大きく、婚姻生活の継続が困難となる場合には根拠の一つとなりえます。
明日は、浮気したものからの離婚請求は認められるのか?について扱っていきます。
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弁 護 士 齋 藤 健 博
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