第二次大戦中の、重要な歴史上の事実として知っておく必要があり、
現在の苦境を乗り越えるため、光を導く指針として、今この時に読んでおきたかった一冊。
アウシュヴィッツにある強制収容所から奇跡的に生還した実体験を記した、
心理学者ヴィクトール・E・フランクルによる永遠の名著「夜と霧」です。
ナチス、ガス室、ユダヤ人迫害など、断片的には知っていたつもりだったことが、いかに表層的で、
浅薄な知識だったのかをまず知ることになり、ほんの数十年前の現実ということに慄然とします。
記憶の復元を綴るただの体験記としては括れない、
凄惨な日々の現実を前にした極限状態にある心の機微が記録されています。
「アンネの日記」や「シンドラーのリスト」などの有名作品が多数あり、
その歴史の背景を知る術は現代も多く残されていますが、
この作品は、収容所内でのできごとを淡々と描写し、その冷静さゆえに深い詠嘆を感得します。
改訂された新版となり、約170頁と短いページ数に収められた、読み進め易いはずの素朴な言葉。
しかし、その文字が背負う感情や歴史の重み、行間が伝える著者の呻吟から、
心は煩悶し、ページをめくる手の震えは最後までやみません。
不可侵であるはずの精神的自由を蹂躙され瓦解する情調にあっても、苦しみにも意味があると考え、
人間としての最後の自由を奪うことはできないと説き、生きる意味に答えを出す。
「人間はどこにいても運命と対峙させられ、ただもう苦しいという状況から
精神的になにかをなしとげるかどうか、という決断を迫られる。」
「生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、
生きることが各人に課す課題を果たす義務、
時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない。」
20世紀を代表し、21世紀に読み継ぎたいとされた本著。
あらゆる価値観が根底から揺らぎ、死生観が大きく変わる今。
生きる意味を、人生の意味を思惟し、人間とはという問いに大きなヒントを、
あるいは明確な解答を与えてくれるフランクルの言葉に、今この時に出逢えて良かった。