(旅行記新編開始。今回は2013年年末年始に訪れたチュニジア編です)

 

 アジアのことをいろいろ考えるが、その枠組は人それぞれ解釈が違うので、たまにアジアという括りで語っていいのか悩むことがある。特に僕はアジアの中でもメジャーな国よりマイナーな国にスポットを当てる傾向があるのだが、その辺を語ろうとすると、相手から二言目にはそこってアジア? と、首を傾げられる。確かに地図帳と照合するとアフリカやヨーロッパの色分けがされている国も多い。だが文化的、民族的にはアジアの延長線上にある国々なので、地図帳の色通りにシャットアウトしたくない気持ちがあり、その呼び名に悩んでいる。なので最近は「アジア文化圏」とか、「アジア(中東含む)」といった表現をするようになったのだが、今回の旅先も普通に見ればアジアではない。そこはアジア文化圏の西の一郭である中東を構成する北アフリカのチュニジアである。強引だけど西アジアの延長線上にある地域ということで僕の中の踏破目標には北アフリカのアラブ諸国も組み込まれている。そんなわけで僕も今年は初めてのアフリカ大陸進出だ。

 

 以前中国の丹東で出会い、その後は旅好きの仲間達でたまに集まって会食しているバックパッカーのT氏が今回ご一緒するパートナーだ。お互いの噛み合う休日や航空券の安い時期を擦り合わせた結果、出発は年末となった。

 意外と思う人もいるかも知れないが、僕は年越しそばを食べながら紅白を観賞し、行く年来る年を見て、朝を迎えたら家族でおせちを食べて、それから初詣という純日本人的な年末年始の過ごし方を重視しているので、留学時代を除いてこの時期に旅したことは無い。だが同じ年に同じ場所への旅を仲間がプランしているなんてそう滅多に無いことだし、今年僕は結婚という人生最大のイベントを控えている。遠い所への長旅はもう頻繁にはできないかも知れないと思った僕は、二つ返事でこの時期の出発を承諾した。

 

 チュニジアへはまずアシアナ航空でソウルを経由してパリへ向かう12時間のフライトから始まる。機内の映画はほぼ韓国語字幕だったが、大長編映画「アラビアのロレンス」など見てアラブの国に行く気持ちを高めていた。三時間ちょっと過ぎて映画が終わり、ああ、長かったと軽く伸びをしながら飛行状況を確認すると、まだモンゴル上空辺りだったので気が遠くなった。T氏とは座席が離れていたので話す人もおらず、音楽、ゲーム、読書を繰り返してヒマな時間を過ごしていたが、パリに近付く頃になって急に睡魔が。もっと早い段階で寝ていればよかったのだが、そこは後悔しても仕方無い。とりあえずパリの空港ではスムーズに乗り継ぎできたが何せ眠くて倒れそうだ。

 ある待合室にほとんど横になれる形の仮眠用の椅子を見つけ、そこでしばらく眠った。20時にセットした目覚ましに起こされ、チュニス行きのL23ゲートへ。欧米人観光客と思しき人々の中には赤ちゃんや小さな幼児を同伴している人も多い。ヨーロッパでは小さい子も連れて行けるファミリー向けの渡航先なのだな。案の定機内は赤ちゃんの泣き声や、座席をトランポリンにして騒ぐ子供の声で喧しかったが、チュニスまでの四時間のフライトのほとんどを熟睡できたのは時差の影響も大きいのだろう。

 

 かくして遂にチュニス・カルタゴ国際空港に到着。構内の表記はほとんどフランス語なのでまだアラブの国に来た実感が湧かない。僕達はまずタクシーでチュニス駅近くの安宿を目指した。夜の1時を過ぎているので、窓の外に映る街はすっかり眠りに就いており、ほとんど人を見かけない。何も走っていないので市電のレールだけがはっきり見える。T氏が当初考えていた宿は見つからなかったが、その場所に別の安宿があったのでチェックイン。

 

 この時僕達は軽い気持ちで外に出ようとした。なぜなら明日早朝チュニス駅から始発電車に乗って世界遺産の街エル・ジェムに行くため、乗り場の場所確認をしようと思ったからだ。迷ったりしてこの電車に乗り損ねると旅のスケジュールがまる一日ずつずれてしまうし、方向音痴の僕が知らない所で待ち合わせる時は事前に場所確認するのを習慣としているので、サッと行ってサッと帰って来ようという感覚で宿を出たのだった。

 

 通りには外灯だけが灯され、誰も見当たらなかった。駅までは歩いてものの五分程度だったと思う。そこまでの道で一人だけ人を見かけた。道の隅でゴロ寝するホームレスだった。その道を曲がるとすぐに駅の入口があり、乗り場の方向も確認できたので、僕達は安心して宿に戻ろうとした。念のため僕はT氏に少しだけ気になったので言った。

 「道で寝そべってる人がいたから、右側隅は歩かないように注意しましょう。」

そう言い終わる瞬間だった。右側隅の暗がりで人がスックと立ち上がり、こちらへ足早に歩いて来るではないか。まさか注意喚起したと同時なんて、と息を呑んだその瞬間、男はこちらに向かって走り出してきた!