チュニジアで劇的な政変があり、今はエジプトが大揺れ。「あの辺」への旅行が少し厳しくなってきた。今なぜこんなことに? これからどうなるの? まだまだ情報の少ない地域だけにいろいろ疑問が生じている。十代前半から中東好きだった僕、旧正月でちょっと仕事もヒマなので、ふと研究してみたくなった。

1. 現状分析

グループ①:社会主義独裁国家:シリア、リビア
グループ②:絶対王政産油国:サウジ、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーン
グループ③:絶対王政非産油国:ヨルダン、モロッコ
グループ④:親米軍政国家:エジプト、チュニジア、アルジェリア、イエメン
グループ⑤:駆け出し民主国家:イラク、レバノン

まずアラブ諸国の体制をグループ分けしてみよう。欧米の圧力や介入で(一応)民主政権になった⑤はともかく、つい最近までほぼ全てが独裁国家であった。こうして見ると、同じ独裁でも性格も違えば、独裁の度合いも違う。①は北朝鮮並みに体制を批判する余地は全く存在しない。それに比べれば③や④は活動制限ありながらも野党が存在する「ゆるい独裁」と言える。これまでアラブ諸国では「独裁」が一つのスタンダードであり、それに代わるものは無く、「ゆるい」、「ゆるくない」も関係無かった。ましてや民衆の力で変えられるなんて余地は無論無かった。

で、上記グループを見てみると、今揺れに揺れてる国は明らかに④に集中してることがわかる。元々ソ連衛星国であった①に対抗するため、欧米がこれらの国の軍部を支援し、クーデターや戒厳令で作り上げた政権である(但し冷戦時代は①に属していたアルジェリアを除外)。冷戦時に欧米が反共的な軍事政権を支援してきたケースは世界各地に多々あり、これらの多くは冷戦後に民主化のうねりを経て、今や歴史の露と消えた。しかーし。ことにアラブ世界については情況が違い、その後はイスラム原理主義勢力の伸張を抑える目的で、引続きこれら軍政は積極的に支援されてきた。
なので反米的な①にいたリビアのカダフィや、イラクのフセイン(当時)は狂人とか、極悪人とかボロクソに言われてきたが、欧米寄りで、比較的外受けが良い④の政権がそう言われることは少なくとも昨年までは無かった。でもそれは独裁手腕が露骨な①の陰に隠れていただけで、「ゆるい」とは言っても独裁は独裁。フツーに2, 30年権力の座に居座っており、内向きには①諸国と同じような抑圧が行われていたようだ。

そんな中、チュニジアのベンアリ政権崩壊で風穴が空いてしまった。これまでのスタンダードが崩れた出来事だった。政府を批判するなんてありえなかった国の民衆が政府を倒した。ならばうちらでもできるぜって感じに。このうねりは似たような体制の国、なおかつ「ゆるい独裁」だった④の国々に飛び火することになる。しかも④の国々、軍政としては既に末期状態に入っていた。

 【軍政崩壊までのプロセス】
 (1) 軍部内部での権力闘争激化
(2) 恐れた指導者、かつての盟友だった将軍達を政権から遠ざける
 (3) 代わりに信頼の厚い親族や、経済に通じた軍需産業関係者で政権を固める
 (4) 実務軍人が遠ざけられ、自己統制がゆるくなり、特権支配や腐敗が蔓延 
   (エジプトやチュニジアはこの段階だった)
 (5) 国民の不満、爆発
 (6) 最大の後ろ盾だった軍、政権を見放す
 (7) 崩壊

しかもムバラク、一連のデモの中で軍に見放され、アメリカに見切りをつけられ、最後の切り札だった「任期満了後に辞任」宣言をした後もデモが収まらない。正にトリプルパンチであり、もう先は無さそう。ここに来て、いきなり降って湧いた政権支持派なる妙な勢力がデモ隊に襲い掛かり(ミャンマーにも似た勢力あるな)、混迷を深めつつあるようだが、これは最後の悪あがきか・・・。


2. この後どうなる?

もしエジプトのムバラク政権が倒れたら、同じくデモが拡大している④の国、つまりイエメンやアルジェリアでも激しくなるだろう。欧米各国もこれらの現体制を執拗に擁護する理由は無い。ただ、エジプトも含め、最大の在野勢力がイスラム原理主義派なので、彼等に政権を握られると欧米は非常にやりにくくなる。中東地域全体がもっと不安定化する。なので積極的なデモの支持もできない。実際独裁しか体験したことの無い人々にいきなり民主主義はムリ。パレスチナやアルジェリア、クウェートで自由選挙をやった所、原理主義勢力が大勝したこともあるし。
ま、原理主義が過激なのかどうかという議論は、イスラム教徒とそうでない人々との間に大きく観点の開きがある。武装過激派でもない限り、原理主義は単なる一つの選択肢として民衆レベルでは市民権を得ているので、選挙で健闘できるという背景もあるのだが、その辺の話はまた今度。とりあえず悪いけど「原理主義勢力=不安定要素」という観点で話を進める。

では今回の動きが、④以外のグループに波及する可能性は? ①や②は元々がゆるくないので、民衆の動きに政府が揺さぶられるのはまだ先になるだろう。ただ、②のうちサウジ・クウェート・バーレーンは従来裕福だった国民の間に格差が出始めており、小規模ながらも反響はあったようだ。
一方、③の国々は比較的「ゆるい独裁」なので、影響は受け易い情況にある。ただどこの国でも王族はよほど悪いコトしない限り熱心な支持層が少なからずいるので、王制廃止の動きにまではならないだろう。ただ、日本やタイみたいに王様が政治に関与しない立憲君主制の動きにはなっていくかも知れない。

ただ、まだ不透明なのは、チュニジアも今の所暫定政権という形で旧体制派が政権の中心に残っている。エジプトもムバラクの即辞任ではなく、あくまで任期満了後の引退とし、側近を後継者に指名した。どちらも今回の一件で完全に民主化を勝ち取ったわけではないし、民主勢力がまだ成熟していないので、仮に政権交代してもよくなるのかはアラーのみぞ知る、である。「民主政権」のできたイラクやレバノンの前例を見てると不安も大きい。ある程度社会が成熟しないと、民主化は定着しない。一時的に政権交代は実現するかも知れないが、人々の生活が向上しないと、旧政権の残党が再び軍部をバックに巻き返しを図ってくる可能性は十分にある。
そして原理主義勢力がどう出てくるか。そもそもこれら軍政が彼等に激しい弾圧を加えたのがきっかけで、アル・カイダ等過激派が生まれていった。野党活動しているムスリム同胞団等はいきなり過激な政策は取らないと思うが、国内が混乱すれば、その隙間に入り込むべく過激派が同胞団を伝ってやって来るだろう。アフガン・イラク・ソマリアに次ぐ拠点作りに。

ま、これから彼の地域がどうなっていくのか。大胆な変貌を見せるのか、それとも大衆ヒステリーのガス抜きに終わるのか、はたまた新たなカオスが始まるのか、もう少し注目していくこととしましょう。