先週一週間は中国から代理店の社長さん一行が来日していた。で、うちの部署は各メンバー分担して工場見学、観光、買い物等に付き合ってお世話をした。僕はその中の二日間を使って埼玉の吹上と秩父の工場見学にご案内してきた。

最近はどちらかと言うとオーダーや納期の管理等、内向きな仕事が多くなったため、中国担当とは言え中国に出張する機会はこの三、四年全然無く、メンバーが増員したこともあり、ちょっと客が来日した程度なら新人君が全て対応するので、僕がタッチする機会もほとんど無く、従って以前に比べ中国語を話す機会がめっきり少なくなってきている。たまに納期関係で現地と電話で話す時はあるが、以前は考えなくても自然に出てきた中国語が少しつっかえるようになったり、覚えているはずの単語を忘れてしまったり、なんてこともあって、危機感を感じていただけに、これは最高の機会であった。

今回来たのは何せ社長さん達だから結構わがまま。埼玉の工場見学後は東京に戻って来るから、大きな荷物は東京のホテルに預けていいと言ってるのに、お泊りなら服を着替えるから、ということでトランク三つゴロゴロ転がしながら移動する。徒歩一分の地下鉄駅までもタクシーを使え、と言う。電車のソファの暖房が暑いと文句を言う。工場では生産部門の人達が製品説明の準備をしてるのに、製品紹介はいらないから観光に連れていけ、と言う。では、説明は省略して質疑応答にすると結構いろいろと意見を述べてきて結局観光の時間は無くなってしまう。つまりはしゃべりたいけど、聞きたくないってことか。

中国では事前に準備するって概念が薄い。もし問題や意見があるなら事前に工場に対策を練らせるから、来日前に内容を教えてくれ、と我々も何度も確認を行った。でもその時点では何も無い、との答え。観光するならどのようなリクエストがあるか、とやはり事前に確認するが、スケジュール通りでいい、との答え。しかし一度日本の地を踏むや、状況はガラっと変わり、あれやこれやとスケジュール変更を迫るぐらいにいろいろ注文をつけてくるのである。こうした人々を案内する人間は中国語通訳と製品知識以外に、ツアコン的なスキルも必要だ。しかもトラブルや予定変更に臨機応変に対応し、できないことはうまく説明しないといけない。だからこの一週間部内の人間はみんなお疲れであった。

久々に中国のお客を接待して思ったこと。それは中国の発展に影響して、工場の姿勢がほんとに変わったってことである。今回工場を案内し、工場側の人達と客の間に入って通訳などしたのだが、工場説明、生産ライン見学、会食等あらゆる場面において工場側には、必ず一人は中国語をある程度聞き取れる人、日常会話ができる人がいた。別にこの日のためにわざわざ動員したってわけではない。普通にいつも見学者受入れを担当している人達がである。秩父などは工場長自身がかなり中国語を聞き取れていた。通訳する人間にはプレッシャーである。うちの製品も少しずつ中国の工場で生産するようになり、現地に駐在したり出張したりする人が増えてきたためであろう。

中国の発展に影響して変わったのは工場だけではない。中国の客もかなり変わった。しかしこちらは残念ながら、うちにとって良い傾向の変化ではない。これまでのお客は、「富士山を見に行きたい」とか、「秋葉原でカメラを買いたい」といったリクエストが多かったのだが、最近の客は「風俗店に連れていけ」等と露骨に言うようになってきたのである。で、「例えばストリップ劇場とか行きたいの?」と聞くと、「違う!持ち帰りOKな店だ」なんて具体的。しかも初来日の客にそういう傾向が強い。少し前まで中国人が出国するのは至難の業であった。しかし今はなんだかんだで観光旅行で外国に行くこともできるようになってきており、こうした人々はタイや香港等で結構味をしめてしまっているのである。現に今回の社長さんの一人はかなりしつこく要求していたが、彼も以前韓国訪問時に取引先から愛人をあてがわれ、いい思いをしてきたらしい。表敬訪問とはいえ一応ビジネス来日だろうに、接待旅行と勘違いしている輩が増えてきているのだ。

しかも今回、少し複雑な背景があったことが、彼等の来日後に判明した。

今回社長さんと一緒に二人、社員が来日していた。しかしこの社員二人はどうやらホントの社員ではないようなのだ。表向きは社員として紹介されているのだが、名刺は持っておらず、工場の製品説明等もほとんど聞いていない。もしやこの代理店、お客さん(最終需要家)を連れてきたのでは?と我々は耳打ちし合ったのだが、そんなものではなかった。どうやらこの二人は地元の役人と市議会議員らしい。代理店の社長さんは、ビジネス来日だからと費用をうちに負担させて、実は役人の接待旅行をしていたってことなのだ。だから執拗に「夜の接待」を求めていたのである。

競争激しい中国市場。人脈がモノを言う中国ビジネス。そりゃ確かに役人とパイプつないでおけば事はスムーズにいく。彼等にいい思いさせておけば、うちの製品をもっとスムーズに売ることができる、と代理店も考えたのだろう。しかしできないことはやはりできないですな、ときっぱり断った。そんなところ連れて行けばそれこそ会社の品格・信用にも影響する。連れて行って万一トラブルでもあればこちらに責任が降りかかってくる。仮に彼等が自由行動のスキを見て勝手に行ったとしても、ビザの保証人である我々に責任がかぶってくるのだ。

ま、そんな感じでちょっとドロドロした話に振り回されたものの、こっちはスケジュール通りに事を進めることができ、客側もなんだかんだで喜んでいたので、終わりよければすべてよし、でしょうかね。僕は久々に二日間ずっと中国語使うことができたし、お客から土産ってことで大好きな鉄観音茶をたっくさんもらっちゃったし!あ~、でも疲れた!!