君の住む街に

雨が振る

僕の住む街にも


碧くけむる 静かに 激しく 優しく


面影は いつまで経っても

消えそうにないから

そっと 暗い空の向こうの方に

意識を投げかけてみよう



なんだ

やっぱり君はいた

2人は離れることなんかできない


そこにいて 待っていて

必ず僕が迎えに行くから

どんなことをしたって

たとえ卑怯なヤツと言われたって

いいんだ

もう充分に覚悟はできてる


それより 顔色がすぐれないね

ゆっくり眠るといい

何も心配はいらないよ

いつだって傍にいる


だから 今夜は

もう おやすみをしよう


雨はまだまだ止みそうにないから



覆い隠された真実に気付く人は少ない

ましてや現状がそこそこ幸せなら

気がつく必要性もないのだ


今日 若い2人が結婚の報告に

僕のところにやってきた

新婦になる女の子のお腹には

3ヶ月になる赤ちゃんがいるのだという

その話をしながら新郎は涙声になった

一見するとパーフェクトな幸福

きっとかわいい赤ちゃんが来年の2月には

生まれていることだろう


でも 僕は知っている

婚約期間中にその女の子が旅行した相手を

今お腹にいる赤ん坊の父親が誰なのか

その相手と真剣に話し合ったことを


さらにもう一つ僕は知っている

今自分の生まれてくる子供のことを話す時

涙ぐんでしまった彼が

いまでも付き合っている相手を

その子は 元 僕の部下じゃないか

ちゃんと調べてからおいでよ


「ほんとうにおめとう。よかったね。」

両手で新郎と固く握手をする


偽りの2人に送る

僕からの最上級の賛辞


人間の意識の根底にあるものを

自我と呼ぶのであれば

人は常に様々なプロセスを踏んで

それを創りあげ 自らの精神として動かし続ける


人が自らを省みるとき

または自らと正面から向かい合うとき

その自我に 欠落した部分を

見出すことはできないだろうか


もし欠落を感じるのであれば

それが何であるかを

突き止めなさい

それが

自分が最初から持っていないもの

自分がすでに失ってしまったもの

自分が真に必要としているもの

ひょっとして自分を救ってくれるものかを

見極めなさい


例えば その欠落が概念であるなら

それを身に付ける あるいは理解する
最短最良の方法を考え 実践しなさい

そして もしそれが

自分ではない ひとりの人間の存在であることに

偶然気付いてしまったのであれば

たとえそれが 男であれ 女であれ

老人であれ 赤ん坊であれ

自らの命に換えてでも

手に入れなさい

なぜなら

そうすることでしか自身の自我は

完結することがないのだから


運よくそれを手に入れられた人間は幸せだ

その瞬間から得られる

至福の時を過ごせるだろう

それはきっと魂の平安と

呼べるものに違いない


ただ 自分の思い通り 事が運ばない人間や

永遠にそれにたどり着けない人間は

かわいそうだが 足りないものを

足りないと意識しながら 生き続けるしかない

自分の中にぽっかりと空いた空洞に

収まるべきものが わかっているのに

どうすることもできない苦悩

決して充足することのない自我


できることといえば

自分自身をきつく抱きしめ 不安の夜をやり過ごし

偽りの朝をあとどれだけ迎えればよいのかを

指折りかぞえること 

そして自身の肉体と精神が

自然界の大いなる戒律にしたがって

切り離され開放される日を 待ち望むこと

そう 人はよくこの状態を

生き地獄 という言葉を使って表現する





もうすぐ、僕は、7年前の生活に戻ろうとしている。

わけあって、そういうことになりそうだ。

一見、何も変わらないものに、帰っていくようだが、

以前とは、明らかに違うものがある。

まず、登場人物が、僕を含め、全員7歳だけ齢をとっていること。

それから、僕の心の中には、

7年前にはまるで想像もできなかった、君がいるということ。

当時には、その存在さえ、予感できなかったのに、

今では、この僕の存在のほとんどすべてを占めている。

たぶん、もう昔の自分には戻れない。

それがはっきりとわかっているのに、そうしようとしているのは、

君の自由をこれ以上奪いたくない僕と、

僕にそうした方がいいと言う君の、

2人の、強がりのせいだ。

今後、一生、後悔し続けるのもわかっているし、

もし、今、自分が元の生活に戻ることを選択しなかったとしても、

君のことを幸せにできないってことも、わかってる。

自分の地位も、名誉も、財産も、たとえすべて捨てたとしても、

どうにもならないことがあるって、わかる人間が、果たしてどれだけいるだろうか。

君とは、何度だって、このことを話したよね。

でも、僕は一回だけ、不覚にも君の前で、嗚咽をあげて、

涙をこぼしたことがあった。そんなことも、今では懐かしい。


僕は空を見上げる。

「まだ、君とはつながってるよね。」そう、自分に強く言い聞かせる。

雨上がりの、どんよりとした空は何も答えてはくれない。

でも、僕は、君を好きになった自分に誇りを持っている。


並んで歩く時、まだ、僕の手を握ろうとしてくる小さな男の子が、

やがて、少年になり、青年となって、一人の女性を愛し始めた時、

僕は彼にこう言うだろう。やっぱり空を見つめながら。


「お父さんの一生で一番好きなひとの話をしてあげようか?どこから聞きたい?」



毎日、おおぜいの人が、僕をたよってやって来る。


つまり、あてにされてる。


でもさ、そんなことがいつも普通にできるほど、


僕は、完璧じゃない。


人に偉そうな事が言えるほど、


僕の頭の中は、理論整然としていない。


その証拠に、



今でも眼をつぶると、そこには、


18歳の夏の僕がいて、


海の近くのバンガローで、ただひたすら光る海面をみつめて、


いい波が来るのをまっている。


そのかたわらには、なぜか、今の君がいて、


異国の文化について書かれた洋書を、真剣になって読んでいる。


そして僕は、昨日、メイクした波はどうだったとか、


あの光は、こんなサウンドになるよとか、


セットで入ってくる波にビートを感じたんだとか、


ほんとにどうでもいいことを君に語り続ける。


君はちょっとめんどくさそうに僕に相づちを返すと、


また再び、洋書に視線を落とす。


僕の幸せの原風景。


そこには、いつも強い陸風が吹いている。



でも、眼を開けば、やっぱりそこは僕の日常。


完全である自分を演じ続け、


みんなの期待にこたえ続けてる。



本当のことを言うとね、


僕は、君だけにあてにされて、


君だけのために生きたいんだ。


きっと、誰もわかってくれないと思うけど。

いったい僕は

君に何を求めているんだろう

最初からわかっていたことじゃないか

自分には

君を幸せにすることができない

それなのに 君を離したくない

そんな身勝手な想いが

いつだって 僕を支配する


本当は 百回だって千回だって

君をあきらめたんだ

でも

百一回目に そして 千一回目には

また振り出しに戻って

君と一緒にいることを夢見てしまう


今だって

君の口から 他の男の話が出ただけで

自分の人生を賭けて

そいつと競ってみたくなる

でもね

僕の勝ちは決まっているんだ

もし 君が賞品だったら

僕は 死んでも負けられないから


ああ それにしても 君は

本当にきれいだ

そしていつしか大人の女になった

男だったら 誰だって 

君が欲しくなるはず   


それなのに君は

自分でまだそれに気付いていない

君の存在が前にもまして

華やかな彩度で縁取られていることに


たとえ叶わなくたっていいんだ

僕は何度だって言えるし

きっと数え切れないほど

使い古された言葉で

君にこう告げるはずだ


愛している


そして 君は静かに微笑むだろう

その瞬間に切り取られる

永遠というフレームの中で


「愛している」

吐き出さずにはいられなかった

僕の中だけではもう

どうしようもないくらい

君の存在が大きくなりすぎて


充分わかっている

そんなことを言ったところで

なんの奇跡も起こらないことくらい

それでもこの言葉を口にしてしまう僕は

きっと愚かな人間なのだろう


君の心には僕が

僕の心には君が

すでに深く刻みつけられている

そして それはもう消すことも

書き換えることも

できないという現実


出会うべくして出会った二人は

確かに めぐり合う運命は持っていた

ただ 形あるものを手にすることが

許されない そればかりか もう

忘れてしまうことさえも

不可能になってしまっていて


君は時間に身をまかせると言う

流れに逆らうのが怖いのなら

そうすればいい


でも きっと僕は

いつまでたっても君を失いたくない ただの弱虫のままだから




「いまから、来るか?」

なんでもっと本気で言わなかったのか

君はわかるかい?


午前2時24分

僕の住む街はまだ眠らない

それどころか ますます艶を帯びてくる


街角に 寄り添う二人連れをみるたび

つい彼らの目線を追いかけてしまう

互いに見つめ合うその瞳は

決まって 相手に対する想いで満ち溢れている

たとえそれが今宵限りのものであったとしても


なぜ 君と僕じゃないんだ?そこにいるのが

何が 間違ってしまったんだ?

僕たちはまるで

神様が1ピースだけ入れ忘れてるジグソー

どんなに一つ一つの輪郭を繋ぎ合わせてみても

決して完成することはない


君のことを見守るって 決めたのに

ここで見てるって 決めたのに

心はもう君を求めている

今 一歩だけ踏み出せば 

きっと何かが変わり始めるだろう

でもそれが 君の夢を摘み取るってことも

痛いほどわかっている


午前4時8分

藍色の空が

中濁色から明濁色へと変わっていく


君も揺れていたね

手に取るようにわかった

僕たちはもうお互いを求め合っている

でも

君はきみの思い描くとおりに生きて

たぶんそれが一番いいんだろう


そして 君はいつか誰かのものになる

だから

僕の鼓動も 僕の汗も 僕の吐息も

受け止めなくていいんだ




しばらく会えななくなる

だから

おやすみの一言がなかなか言えなかった


君は ちょっとうつむき加減に

優しく響く6つの音を僕にくれた

小さな小さな声で


いつも心の底から待ち望んでいた

ほんとうに

本当に聞きたかった


僕にとっては

魔法の言葉


君からの贈り物


かつて一人の男がいた

自分の愛する女性の為に

彼女の前から姿を消して

それから先の人生を彼女に捧げた

本当は一瞬たりとも離れたくなかったくせに


女は男を想い続けた

形ある幸せを傷つけぬようにと

自分のもとを去っていった男を

生涯にたった一度の確かなものを

彼女の名はフランチェスカ


二人の心は確かにつながっていた

1965年のあの暑い夏の日から

二人の肉体が朽ち果ててしまった後も


ごめん 僕は彼のようには生きられない

この先二度と 君の笑顔が見れないと思うと

今でも 自然に涙がこぼれてしまうんだ

だから 僕はここにいる

ここで ずっと 君を見ている

君が 君の夢を捕まえるその時まで

君が 僕のことを必要とする限り

 

僕のフランチェスカ

僕のたった一つの確かなもの