横浜市のマンション屋上などで放射性ストロンチウムが検出された問題は、福島第一原発の事故とは関連が薄く、過去の核実験が原因との見方が強まってきた。核時代の負の遺産が現在にも影響を及ぼし続けていることになるが、大気圏内での核実験は三十年以上も昔の話。そんな「過去の亡霊」が、市街地にも姿を見せるというのはどういうことなのか-。 
 ストロンチウムは骨に沈着して白血病を引き起こす原因になるとされる。文部科学省は海外での核実験などの影響を把握するため一九五〇年代から、雨水やちりなど放射性降下物の濃度を全国各地で調べてきた。
 大気圏核実験は五〇~六〇年代に盛んになり、中国が八〇年に行ったのが最後。ストロンチウムの濃度は大気圏核実験のたびに上昇し、八六年のチェルノブイリ原発事故でも高い値が観測された。それ以後、大気圏核実験や大きな原発事故はないが、不検出にまでは下がらず、微量ながら今も降り注いでいる。
 二〇〇九年の調査では、月間累積量で一平方メートルあたり最高〇・一二を観測。横浜市のマンションは築年数が浅いが、広瀬勝己・上智大客員教授(環境放射能学)は「このレベルのストロンチウムが、マンションの屋上に数年間降り積もれば、泥などに含まれる濃度が一キログラムあたり数になることは十分あり得る」と指摘する。
 広瀬客員教授によると、日本に降るストロンチウムは核実験後、数十年間にわたって大気中を漂い続けたのではなく、地表に降り注いだものが風で再び舞い上げられていると考えられる。
 放射性降下物の研究に取り組む気象庁気象研究所によると、元は中国など東アジアの砂漠地帯の可能性が高い。砂漠には、米ソや中国などの核実験で放出されたストロンチウムが比較的多く地表にとどまっている。これが「黄砂」に付着し、西風に乗って運ばれる。
 同研究所の五十嵐康人研究室長は「ストロンチウムは春先に多く検出されるなど、黄砂の飛来量と相関性がある」と解説する。
 ストロンチウムは核分裂によって生成されるが、「新鮮さ」の目安になるのが半減期約五十日のストロンチウム89の有無だ。横浜市で検出されたのは半減期二十九年の同90のみ。これが、「核実験由来」と文科省が判断した根拠となった。
<横浜市のストロンチウム問題> 港北区のマンションの住民らが8月、屋上の泥から1キログラムあたり195を検出。これを受け、文科省と市は近くの噴水の底にたまった泥を測定した。文科省は、東京・霞が関など都内3カ所で検出されたストロンチウムも「原発事故と関連は薄い」との見方を示している。


$シロップ_821とそよ風の語らい