トントントン
「はーい」
(誰だ?こんな夜中に。今日は外交官の仕事で疲れてるのに)
 僕がドアを開けると、黒い細長い男がふたり僕の家の中に入ってきた。
「なんですか? あなた方」
 不愉快に思いながらもなるべく丁寧に言った。
「いやあ、すいません。実は私達α星の、あなたたちからすると外宇宙の宇宙人なんですが、ようやくこちらの星にたどり着くことができましてね。よろしければできうる限りの情報交換と友好を結びたいのですよ」
「はあ」
(そういえばそこの角に精神病院があったっけな。患者と話したことはなかったがこんな感じなのか)
「勉強になるな」
「そうですねえ、なにごとも勉強ですよね」
 おっととりあえず笑顔でも作っとくか。
 ニッコリと得意の営業スマイルを浮かべる。
「おっとコチラの本は?」
(あ、やべっ。捨てるつもりだったエロ雑誌の束)
「はは、もう何度も読んだんで、よろしければ持っていってください」
「しかしお見受けしたところ、生態上かなり貴重な本。ではないですかな」
(どこまで芝居ごっこを続けるつもりなんだ?)
「まあ、貴重な人には貴重なんでしょうけど、情報交換の為にも、どうぞ差し上げますよ」
「これはご親切に。ではありがたく」
 重々しくエロ雑誌を受け取る。

 こんな調子で小一時間、僕らは雑談を続けた。
「いやあ、地球のお方がこんなにも朗らかで、優しく、親切で気前がよろしかったとは。嬉しい限りです」
「はは、そんなに喜んで頂けるとは、私も嬉しい限りです」
(はやく帰れよ。いなくなったらすぐにお前等の病院に電話しないといけないんだ)
「最後に、この「心」のデータを読み取る機械であなたの心を探らせてもらってもよろしいか?」
「はは、結構ですよ。なんです? 疑っておられるので?」
「いやいや、どんなきれいな心をしておられるのか、しっかり数値にして計測しておきたいだけですよ。はは。」
 宇宙人と名乗る、精神病院から抜け出た男ふたりは、手早く怪しげなガラクタで、僕の腕からなにかを測るお芝居を終えると、礼を言って出て行った。

 3週間後

 テレビでは連日、突如現れた異星人の団体と地球連合軍との宇宙戦争が繰り広げられていた。
 なんでも地球人、生きる価値無しと向こうさんは判断したらしい。
「ったく、どこのどいつだ。コンタクトに失敗しやがったのは。地球人の醜さはできるだけ隠して、情とか、愛とか、いい部分を上手く使って接触をはかるべきなんだよ。外交官の俺ならうまくやったのに。全く、恐るべきは馬鹿な人間の無知なることだな」
 やれやれとため息をついて、俺は忙しくなった仕事に出かけるために、少し不機嫌でいつもの部屋を出た。

終わり

「お年寄りが横断歩道で困っていたら、手をひいてあげましょうね」

「はーい」

元気よく手を挙げるひとりの少年。たけし君は、正直で、素直で、まっすぐな少年だった。

「なんだよ、アイツ。いい子ぶりやがって」 

たけし君はそんな陰口も気にしなかった。  


次の日横断歩道の中ほどで、右往左往しているおじいさんがひとり。バランスを崩し、転んで、手を投げ出してしまう格好になった。

たけし君は昨日の先生の言葉通り、「自転車」にのったまま、おじいさんの手を……




 とある精神病院にひとりの青年が駆け込んできた。
「先生、僕の友達がオレンジになってしまった。元に戻して欲しいと泣いています。助けてください」
 と言った。
 そんな馬鹿なと思いながら、医者は言った。
「それでその友達は?」
「ここです」
 青年はポケットからオレンジを取り出した。
 医者は、おかしいのは誰かが理解できたので、
「それで、君は昨日はなにをしていたんだい?」
 と、青年に尋ねた。
 青年は、医者が自分の話を信用していないことを理解したので、医者の助手を呼ぶと、怪しげな呪文を唱えてオレンジに変えてしまった。
 医者は、驚いて言った。
「オレンジだ」
「信じていただけましたか?」
 医者は何度もうなづいた。
 二人は高名な、科学者の元を訪ね、
「先生、僕の助手がオレンジになってしまった。元に戻して欲しいと泣いています。助けてください」
 と言った。
 科学者は、落ち着いて話を聞き、おかしいのは誰かが理解できたので……


「好きだ。
愛してる。
君ほど素晴らしい人間はこの地球上の何処にもいない。
いつまでも、いつまでも、僕と一緒にいて欲しい。
いつまでも、いつまでも、この世界の終わりまで。
君さえいれば、僕は他にはなんにもいらない。
ああ、君はなんて素晴らしいんだ」
 そこまで言って、僕は熱い口づけを交わす。

 鏡に写った僕は、今日もとても美しい。

 居間で母ちゃんが、心配そうにこっちを見てるが、気にするな。僕。
 真の愛とはそういうものだ。と本で読んだ。
 少年は本を読んだり、なにかを知るのが好きな優しい少年だった。
 今日も、町の図書館で本を読んでいて、あることに気付いた。
 自然科学と天文学、風水や占いに長けていた少年は、心理学の本を読んでいて、人間はほんのちょっとの意志の力で、空を飛べるちからを持てることを発見した。
 ほんのちょっとと言っても、人間には大変な努力が必要だったが、空を飛ぶことに、他の人と同じくらい憧れを抱いていた少年は、気孔やヨガや太極拳を学び滝にうたれ、ある時ついに、空を飛ぶちからを目覚めさせることができた。

 溺れている子供や、家事で逃げ遅れた人などを助けたり、人前でも平気で使っているうちに、少年は有名人になり、テレビやネットで散々話題にのぼるようになった。
 空を飛ぶことも楽しかったが、それを利用して、他の楽しいことも見つけた。
 お金に困ることもなくなり、女遊びも散々やって、やりたいように遊びほうけた少年の前に、ひとりの老婆が現れた。
「お前さん、なかなかいい能力をお持ちだね」
「そうですか?」
 少年はお世辞にはさんざん慣れていたが、言われるとやはり嬉しかった。
「ところで、私は色んな能力を集めているんだが……」
「はあ」
 少年は、人を見る目も未熟ながら備えていたので、嘘ではないことがわかった。
「おまえさんのその素敵な能力を売ってくれんかい? 変わりに、私の集めた中でもとびっきりいいものを差し上げるよ」
「なぜそんなことを?」
「いやあ、ただアンタの為さ。その能力をもっといいものにレベルアップさせてやろうというわけさ。これが趣味なんでね。ヒヒ」
 うさんくさいとは思ったが、言っていることは本当のようなので、尋ねてみた。
「何と交換してくれるのですか?」
「永遠の命さ」
 それが本当なら、永遠にこの生活を楽しめるかもしれない。しかし自分の空を飛べるちからが、使えなくなるのは惜しいと思った。
「しかし今空が飛べなくなると……」
「おっと、私が欲しいのは、空を飛べるちからじゃないよ。あんたがまだほんの一かけらだけ持っている、優しい心をいただきたいのさ」
「そんなものでいいんですか?」
 老婆はうなづいた。
「ふたつのちからがあって、邪魔なちからがなくなれば、世界征服なんて夢も叶うかもしれないよ」
 そうかもしれないな、と思った少年は、
「喜んで……」
 と言いかけてから、言葉を止めて、じっと長い間考えてから返事をした。

 十年後

 大人になった少年は、ふつうの人になっていた。
 永遠の命の代わりに、空を飛ぶちからと引き換えに、有名人になったことを取り消すちからが欲しいとお願いしたのだ。
 老婆はしぶしぶだが少年の願いに応じた。
 
 少年がなぜそんな願いをしたのかはわからなかったが、少年の一番好きだった本のタイトルは、「対価交換、その重さは必ず均等である」で、その時読んでいた本は「有名人の憂鬱」だった。 
 大人になったその少年は、自分の一番大切な能力を磨いて、ふつうの優しい奥さんをもらって、毎日、本を読んで静かにそれなりに幸せに暮らしている。

http://kogenta.com/

こちらのサイトさんで悲しみを受け、書いたものです。

不快感を感じられる方は読まないで下さい。

同サイトさんで紹介してもらえることにもなった作品です。



 その猫は公園にいた。
 誰もいない、風だけが吹いている公園。
 いつもは人がたくさんいるのだろう。
 捨てられたゴミや、空き缶があって、人のニオイを残していた。
 
 でも、今日はじめてココに来た猫には、ココがどこなのか、普段どんな人がいるのかわからなかった。
 得意のひげと鼻のレーダーで辺りを探る猫。

 ただ風だけが吹いていて、草のにおいがして、お日さまが公園を照らしていた。
 それだけで気持ちが良かった。
 猫はそれだけで幸せだった。
 でもお腹がすいてたまらないので、ゴミ捨て場を探そうかなと思っていた。
 
 ひとりの若い男のひとが公園にやってきた。
 公園には、男の人と、猫のふたりきり。

 男の人は屈んで「おいで」と言った。
 猫は「にゃあ」と鳴いて、男の人の足元にすりよると、精一杯体をすりつけた。
 自分の匂いを懸命にすりつけた。
 マーキングである。
 それは仲間の証。
 猫はみんなそうやって昔から人間の傍で暮らしてきた。
 その猫もそうした。

 もしかしたら飼ってもらえるかもしれない。

 男の人は、手で猫を拾い上げると、歩き出した。
 家に帰るつもりのようだ。

 猫は嬉しくなって「にゃあ、にゃあ」とうるさいぐらいに鳴いて、ゴロゴロと喉を鳴らした。
 男の人と猫は、男の人の家路をたどった。

 男の人の家につくなり、猫はお風呂場に入れられた。
 体を洗うつもりなのかな。
 猫は水が大嫌い。
 でも、猫はお風呂場がなにをするところか知らない。
 ただ「ニャア ニャア」と鳴いていた。
 期待と、ちょっとだけ不安を込めて。

 男の人は、お皿になにかを盛って、お風呂場の猫の前に置いた。
 猫は、少し匂いを嗅いで、食べられるものだと確認して食べ始めた。
 久しぶりの食事はとてもおいしかった。
 
 残らずたいらげると、口の周りをなめて、一言「にゃあ」と鳴いた。
 ごちそうさまと、おいしかったと、ありがとうの言葉だった。
猫は、ここで暮らせるんだと思った。
 男の人は、小さい四角いきれいな箱を持ってきて、猫に向けると、その箱が光った。
 猫はなにをされたのかわからなかったから、ただ男の人の顔を見上げていた。

 次に男の人は、キラリと光るとがった物を持ってきた。
 猫は今度はなにかなと思って、鼻を上げて見つめた。
 男の人が、猫の体を抑えたかと思うと、猫の尻尾に激痛が走った。
 
 それは今まで経験したことがないような痛み。
 猫は、ただ痛くて痛くてどうしようもなくて、ニャアと泣いた。
 狭いお風呂の中を転げまわって、自分の尻尾を舐めるも、いつもそこにあった愛嬌のある長い尻尾はそこになかった。
 ただとにかく痛くて、必死に舐めた。
 痛いことがあったら舐めればいいことを猫は知っていた。
 痛いけど、鳴いていても直らないから、猫は必死で尻尾のあったお尻を舐めた。
 必死で舐めたけど、やっぱりお尻はとても痛かった。
 猫の舌は血で真っ赤で、自分の血の味をたくさん味わった。

 男の人が持っている小さな箱がまた光った。

 猫が舐めている間に、男の人は、お風呂場の外でなにかしているみたいだ。
 カタカタと小さな音がする。

 お風呂場に戻ってきた男の人に猫はまた抑えつけられた。
 今度は、嫌だったから、もがいてひとこと「ニャア」と言った。
 今度は左耳に激痛が走った。
 左耳とお尻が痛くて、もがいたけれど、左耳は、猫の舌も届かない。
 お尻はいくら舐めても、そんなにすぐに直ったりはしない。

 男の人が持っている箱がまた光った。

 猫は怖くなって、ここからはやく逃げようと思った。
 猫が走れば、普通の動物はおいつけないし、高いところにいけば、大抵安全なことを猫は知っていた。

 しかし、狭い閉じられたお風呂場からはどうやっても出られなかった。
 猫はにゃあ にゃあ にゃあ にゃあと必死で鳴いた。
 鳴けば、誰かが思っていることをわかってくれることがあることを猫は知っていた。
 何度も何度も鳴いた。

 しかし、狭いお風呂場には誰の反応もなかった。

 男の人がまたやってくると、猫を抑えた。
 猫は全身の力を使って抵抗したけど、男の人の力はとても強かった。
 猫の体の右のほうに激痛が走った。

 お風呂に下ろされると、上手くバランスがとれない。
 猫は自分の右腕がなくなっていることに気付いた。

 立つことさえままならない。
 猫は、痛くて痛くて怖くて怖くてたまらなくなって、お風呂の隅で小さくなった。
 体が勝手に震えている。
 お風呂の中は自分の血で真っ赤だった。
 猫はできるだけ、自分の体を誰にも見つからないように小さくして、ただ痛くて、小さく「にゃあ」と泣くのが精一杯だった。

 男の人の箱がまた光った後、今度は赤い長い細いひもがでてきた。
 いつもなら嬉しくて、飛びつくけど、猫は今度も嫌なことがあることを知っていた。
 自分の首にその紐がかかると、今度は息ができなくなった。
 息ができないことがこんなに苦しいことを猫は生まれて初めて知った。

 猫はもう自分がこの世界にいられないことを知った。
 男の人の顔を見て、猫は最後に一言ニャアと声を出そうとした。

 僕がなにかわるいことをしたんならゴメンね。
 なにか、君にいけないことをしたんならゴメンね。。
 君にも嫌なことや、辛いことや、悲しいことがあったんでしょ。
 僕らはそれを和らげることが仕事なんだけど、僕はうまくできなかったみたいでごめんなさい。
 それと、ごはんとってもおいしかったよ。

 ありがとう。ごめんね。

 でもその猫の言葉はニンゲンの男の人には届かなかった。

 猫は短い一生を終えたあと、たくさんの人間の涙で、コゲンタという名前をもらった。
 今その猫はただ静かに眠っている。

 あ~あ~今日は暇だな~。

 ひとりぼやいているのは街角の自動販売機。
 彼は世界で唯一、自我を持つ自動販売機だった。
 しかし動くことはできず、喋ることもできないので、誰もそのことは知らなかった。
 ただ彼は、他の販売機も、自分と同じだと思っていて、ちっとも不幸だとは感じていなかった。

 お、日が高くなってきたな。稼ぎ時だな。

 温度が上がると、買いに来るお客が増えて、自動販売機は嬉しかった。
 
 まず来たのは、見慣れたサラリーマン。
 いつも大体この時間に、同じ物を買っていく。
 
 今日は、コーヒーかな? ビタミンドリンクかな?

 自動販売機は大体の注文は覚えていて、それを当てるのを楽しんでいた。

「あっついなあ、こう毎日だと体が持たないよ」
 ガチャン

 ビタミンドリンクだった。毎日ご苦労様です。

「ふ~やれやれ。さて次行くか」

 サラリーマンが去った後来たのは、子供達だった。
「あちいなあ、なあヨシキ、なんにする?」 
「俺コーラ」
「おれ、○ンタオレンジ」

 むむっ、炭酸ばかり。体に良くないぞ。坊主。

 ガチャン 
「あれ~? またお茶とスポーツドリンクだよ」
「ちゃんと押したのか?」
「そのはずだけど」
「ちょっとおかしいんだよ。この販売機」

 蹴りが一発入る。

 イテッ、しかしこれも子供達のため。我慢我慢。こらっスケベっ。そんなとこいじってもお釣りはないぞ。
「いこーぜ」
「うん」

 子供達もいなくなってまた暇になる自動販売機。

 今日は、少ないな……おっこの足音は……

 黒いさらりとした髪をなびかせた、スーツ姿のきれいなお姉さんが現れた。

 いらっしゃいませ。今日もお美しい。何を出しましょうか?

「え~と」
 その女性は艶かしげな仕草で、ボタンを押した。
 ガチャン

 いつものレモンティーですね。お嬢さん。
 パンパカパーン
 自動販売機のファンファーレが鳴る。

「あれ? また当たり?」

 不思議そうに自動販売機を見つめるお姉さん。
「この前も、その前も、その前も、当たりだわ」
 色っぽく首を傾げる。

 自動販売機は、せわしないくらいピカピカと赤く光っていた。

 お姉さんの為に、僕ができることはこのくらいです。どうぞ受け取ってください。

 自動販売機は精一杯紳士的に輝いた。

「まあ、いいわ。今日は彼氏も来るし。アイツの好きなコーヒーをもう一本と」
 
 え?
 ガチャン

 缶コーヒーを吐き出す自動販売機。

「自動販売機さん。またお願いね」
 投げキッスをされて、後姿を見送る自動販売機。
 彼の心は、嫉妬と、自分のふがいなさと、およそ人の男があの時に味わうやるせない気持ちを味わっていた。
 失恋である……
 かわいそうな自動販売機……
 彼は勇気はあっても、行動力と言う能力はまるで持ち合わせていないのである。

 恋人ができたのか~

 自動販売機はその日眠れず体中を光らせていたが、次の日には立ち直ってちゃんと業務についていた。

 僕にはまだ仕事があるんだ。これからもいままで通り頑張っていこう。

 自動販売機は今日も変わらず、街角に黙って立っている。
 ただ、あの日以来、お姉さんが当たりを出すことはなくなった。

おわり

 私は六。
 この鈴木家の庭に定住を許された、誇り高き犬である。この家の家族は皆優しく、私は幸せだと思っている。
 しかし私には夢がある。それは……

 自分の後ろを振り返る六。
 いつの日にかこの忌まわしき暗黒の鎖を断ち切り、毎日2回のお散歩(私の最も愛すべき高貴な趣味だ)で垣間見る、憧れの世界を自由に飛び回ることだ。
 六は青くどこまでも広がる空を見上げた。

 私の名は六。
 忌まわしき鉄の鎖を解き放ち、真の自由を手に入れた勇者。その経緯は……語ると永くなるのでここでは語らないことにする。まあ、お隣の老猫、タマさんのおかげなのだが、それだけで充分伝わると思う。
 しかしようやく手に入れた楽園は、存外甘くないものだ。斉藤さんちの角を曲がって……ひとつわき道にそれて……ココは一体何処でしょう? 
 六は、どこまでも続くアスファルトの坂道を見上げた。

 私の名は六。
 犬の帰巣本能も忘れ、毎日のご飯のありがたみを思い知らされ、夜の街を徘徊する。今では鈴木家の愛犬の肩書きも失い、野良犬と同じ職業である。
 残飯というものを見つけ、ありついたのはいいが、ちょっと賞味期限は大丈夫なの? といぶかしげな表情を、たけし君(いつもご飯をくれる鈴木家の8歳児)に伝えたいのだが、たけし君はここにはいないのだ。
 それにゆっくりと食事することも出来ずに、人間とは思えない怖い人間に追い払われてしまった。
 ああ、鈴木家の外は、なんと冷たい世界なのだろう。
 六は、安息の地だった鈴木家を思い出しながら、暗闇の空を見上げた。

 私の名は六。
 愛で溢れた鈴木家を飛び出し、私など、ただの犬としか思われない、外の世界に天国を夢に見た馬鹿犬。
 自分の馬鹿に、いやはや愛想が尽きた。
 いよいよ、たけし君と一緒に観た、賢犬パトラッシュさんが旅立だった世界へひとりでいくことになりそうだ。
 なんと、情けなくさびしいことだ。

 おーい。六ぅ。

 幻聴か……たけし君の声が聞こえる。
 最後に鶏のむね肉のテリヤキが食べたかった。

 パタリ

 私は六。
 自由に憧れて、隣の老猫、タマさんにカエルとおたまじゃくしは親子なんだよ、と教えられた漢。


 私は"鈴木"六。
 私の鈴木家での過去の功績が認められ、三日も探し回ってもらい、路頭に倒れたところを発見され、無事鈴木家での元の安息の生活に戻り、鶏のむね肉のテリヤキにかぶりついている、ちょっとお馬鹿な犬。
 若気の至りから、身に染みて味わった苦労を充分に生かし、反省し私は生まれ変わった。
今度はちゃんとタマさんに、斉藤さんちの角から、家に帰るにはどうしたらいいかという、非常に現実的な問いかけをしてから、今度は、違うところに行こうと思う。
 また新たな冒険譚をキミ達に聞かせることを 約束しよう。楽しみにしていてくれ。

 おわり

「ふっふっふ愚民共め。もし直木賞に応募すれば入選間違いなしの腕前を持つこの私が、貴様ら愚なる執筆者に、これが小説だというものをしめしてやろう」

 彼の名は魔王。
 3日前に、突然頭にうかんで書き上げた短編を、充分寝かせた後、投稿ボタンを押した。

 ピッ
 
「あん? 拒否だと? 愚民共がぁ。俺様の神のごとき作品を受け入れぬとは、なんたる傲慢な」

注 短編の間(短編、中編)  :400字原稿用紙換算、10~100枚の作品。

 よくよくチェックすると、原稿枚数が足りないらしかった。
「短編に足りぬのか……短編に足りぬ短編は、一体何処に?」
 ページをスクロールする。
「掌編の間? なるほど、長編どころか短編すら書けない低レベルは、低レベル同士で争えということだな。愚民共がぁー。私の作品の段違いのレベルにおそれおののくがよい」
 震える手で投稿ボタンを押す。

「これで良しと作品を読むのに10分もかかるまい。お茶でも沸かして、ゆっくりと待たしてもらおう。
ふっふっふっふ
喜びと畏怖に打ち震える愚民共の姿が目にうかぶわ」

 30分後

「さていったいどれほどの点数と、感想が……」
 胸の高まりを抑えながら、ページを開く。

 閲覧11 読了2 

「少ないな…」

 感想 0

「なにー。感想0だと。愚民共がぁー。ページを開いたら読まんか、読んだら読了ボタンを。読了したら、感想を書くのが礼儀であろう。愚民共がぁー」
 内心ちょっとショックを受ける。

「お前らなどもう知らん。私は眠らせてもらう」
 布団を被って寝る。

 次の日

「昨日はなにかしたような。日本のわびさびサイトをチェックして……
いや、それよりももっと楽しいことに興じていた私がいたような気が……」 パソコンの前の小説の書き方本を見つける。
「おお、そうだ。愚民共に私の作品を見せ付けてやったのだ。さて、あれから、反応は……」

 閲覧 31 読了5 

「あんまり増えてないな」
 
 感想 1

「お、お、お、来たー!!マイゴッド。感謝します。ふっふっふ、どうであった? 私の作品は。批判箇所など微塵もないであろう」

批判箇所を挙げさせてもらうと、基本的な作法と言いますか、文章の書き方や視点などがおざなりにされています。
あとタイトルの意味がわかりません。
読後感は良かったです。

評価 20点

「な?愚民共がぁー私の何処に欠点があるというのだ。タイトルの意味がわからんだと?漢字も読めんのか。
それならば、愚民にもわかるように、よし、わかりやすく「雨」としてやる。ふん、読了感は良かった?何様のつもりだ。コイツは……うん?こいつも投稿しておるな。よし、私が直々にチェックしてやろう」

注 投稿したら、他人の作品にも感想をつけましょう。

「うん? なになに? 3つの願い? ありきたりなタイトルだ。」
 
 5分後

大変面白く読めました。
オチは最高でした。
これからも頑張って下さい。
20点ありがとうございました。


評価40点

「はっ、私はなにをやっているんだ。他人の作品を褒めている場合ではなかろう。私の作品はと」

 感想 2

「おお、来たー。ふたりめの私のファンだ。なになに?」

意味がわかんない。
あんまり面白くなかった。

評価―10

 顔がサーッと青くなる魔王。
「なんだと。この他人を侮蔑した文章は。しかもせっかくいただいた20点が減ってしまった。みておれ……
地にうごめくサタンの鼓動よ。我の命に応え、パソコンの前のこの愚民に邪悪なる黒いいかづちを!」
 部屋中に響く黒い声…

 しかしなにも起こらなかった。

「そうか、血の盟約は先月解約したばかりだった……ならばっ」


ふざけるな。
もっと教養のある文章を書かんかっ。
おまえのような愚図の感想など必要ないっ。
引っ込んでろ。
呆けっ。

「お返事完了と、ふう、これで気が紛れたな」

 閲覧67 読了8 感想 3

「お、また新たな感想が。なになに……」

マナーを守りましょう。

評価-40

「なんということだ。作品ではなく人間性として私に問題が。いや、確かに魔族の文筆家としてとるべき行動ではなかった。しかたがない、さっきの私の文章は削除してお詫びを。」

申し訳ありません。
せっかく読んでいただき貴重な感想をいただいたのに。
軽率で愚かな態度をとってしまいごめんなさい。m(_ _)m

「っと。ふう、これで許して……もらえるかなあ? ちょっと作品も言われたように修正してみるか」

 次の日

「昨日の続きはと……特に反応がないみたいだな」
 ちょっとへこむ魔王。

 また次の日

 魔王の作品は、どんどん下の方へと下がっていった。
「今日も感想は なし か…」


 一ヶ月後

「あれだけ意気込んだ小説書きも、あれっきりか。もう消えてなくなってるかもしれんな。ふん」
 NEXT PAGEをクリックしていく。

 閲覧101 読了 13 感想5

「お、」
 クリックする魔王。

文章力はまだまだと思いますが、マオウさんの優しい人柄が感じられました。
これからも心暖まる小説を書き続けてください

評価30点

面白かった
頑張って

評価10点

「愚民共がぁー。こんな言葉で、この私の熱いマグマの流れる黒鉄の心臓が揺れ動くとでも思うのか。愚民共がぁー、愚民共がぁー」
 込みあがる初めての感情にほろりと一粒涙をこぼす魔王。
 
 パソコンの文字を見つめる。
「もう一筆……挑戦してやるかな」

マオウ 初投稿作品  雨         総得点    10点

小説をちょぼちょぼと書いているので、少しずつのせていこうと思います。

よろしくお願いします。