「そろそろ帰るか」
「うん、楽しかった」
「そっか、よかった」
帰り道の森の中は、昼頃とは違い薄暗く少し不気味だった。ひぐらしの鳴き声も
その怖さを増幅させた。
「ちょっと気味悪いな」
少し怖がってる剣進を見た太一は立ち止った・・・・・・
「どうしたんだ?太一」
「実はな、20年前この森で首を吊って自殺した人がいるんだよ・・・・」
「えっ!」
剣進の表情が少し強張った。
「それで夜になるとな、その人の霊が山の中を動き回るそうだぜ」
「ふ、ふ~ん、でも今はまだ陽も沈んでないし・・・」
「いや、時々夕方にもでるらしいぜ」
「え・・・・本当に?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?・・・・太一・・」
「・・・ゥワッ」
「ギャーーーーーー」
「ハハハハ、お前こんな単純な事に引っ掛かるなよ、全部ウソだよ」
「ハーハー、あーびっくりした」
剣進の呼吸はまだ整っていなかった。
「剣進って意外と怖がりなのな、もしかして夜一人でトイレに行けないんじゃないの?」
「そ、そんなことないよ」
「ほんとか?」
「ほんとだよ」
と、次の瞬間剣進がブルルと震えた
「どうした?剣進」
「ちょっとタイム、オイラオシッコ」
「なんだ・・・・そうだ、ならさっきのところに行くか、ちょっと我慢できるか?」
「うん、大丈夫」
太一が連れてきたのは、さっきの大きな木がある場所だった。そこからは沈みかけた
大きな夕陽が見えた。
「うわ~」
剣進が思わず声を漏らした
「どうだ?こんな爽快なトイレは無いぜ、何しろここはオレの秘密の場所であるのと
同時に、この村一番の・・・・」
「た、太一・・・説明はまだ続くの?オイラ漏れそうなんだけど・・・・」
「ああー悪い悪い、もういいよ。落ちないように気を付けろよ」
「うん」
剣進はいつもの様に半ズボンの右裾から、可愛い一物を取り出した。
「それーーーー」
体を反らせ、勢いよくオシッコを始めた。
剣進の小さなダムに溜まっていたまっ黄色のオシッコは、夕陽の光でキラキラ光りながら崖下
「何か剣進の立ちション見てたらオレもしたくなってきた」
「ようし、友情の連れションだ」
「ハハハ、そりゃいい」
太一は剣進のチンチンをチラッと見てみた。
「プッ、剣進のチンコって幼稚園児みたいだな」
「む、うるさいな、別に普通だよ」
ちょっと剣進はムキになって答えた。
「おっ!、オレの方が遠くまで飛んでるな」
「くそ~、ふんっ」
剣進はチンチンに力を入れて頑張ったが、太一にはかなわなかった。
二人ともオシッコを出し終わった。
「チェッ、オイラの負けだ」
「フフフ、出直してくるがいい」
「よーし、明日また勝負だ」
「・・・・・悪い、明日はオレ駄目なんだ、法事があって二日日間帰ってこれないんだ」
「二日って、オイラあと二日間しか居られないのに」
「そっか・・・・・じゃあ、一緒に遊ぶのは今日が最後になっちまうな・・・」
二人は少しの間、夕陽を見ながら黙ってしまった。
「じゃあさ、来年はオイラの家に遊びに来いよ、父ちゃん達にはオイラから話しておくから」
「そうだな・・・・・・そうさせてもらうかな」
どこか浮かない顔をしている太一を、剣進はこのとき気が付かなかった。
家に帰った剣進は、皆に太一と遊んだこと、来年また会う約束をしたことなどを話した。
しかし剣進は、後にそれが叶わない願いであると知る。残りの2日間は、仕事を終えて帰って
来た父の剣吾と一緒に遊んだ。そして最終日の朝・・・・
「おーい、剣進ー」
太一が剣進を訪ねてきた。
「ほら、これ約束のカブトムシだ」
「うわっサンキュー、すっかり忘れてた」
「何だよ、人がせっかく早起きして捕まえてきてやったのに」
「ゴメン、ゴメン」
剣進はカブトムシの入った虫かごを嬉しそうに受け取った。
「剣進と一緒に遊んだ日のこと、忘れないぜ」
気のせいだろうか、太一の目少し涙が見えた様な気がした。
「来年、楽しみに待ってるからな」
太一は顔を背け、何も答えなかった。
「ちょっと目にゴミが入っちまったみたいだ」
その姿は泣いているのを見られたくない太一の姿だった。
「・・・太一?」
「・・・・・じゃ、じゃあな・・」
そう言って太一は走り去ってしまった。どんどん小さくなっていく太一の後姿を、ただじっと
剣進は見つめていた。不思議と言葉が出てこなかった。これを最後に太一と会うことは2度
と無かった。太一と別れてから数日後、太一が引っ越した先が海外だと知らされた。もう日
本には帰れない。もう会うことは出来ない。別れ際に太一が流した涙にはそんな理由があっ
た。太一はそのことを剣進に言うことが出来なかった。父親の仕事の都合ということだった。
時が経っていくにつれて、お互いの記憶から少しずつ忘れられていってしまったひと夏の思
い出・・・・・・・だが年月が過ぎても、何度か2人の夢の中であの日の思い出は再現されて
いた。
あの日・・・・・夏休みに出会った少年、太一と剣進、お互いにその思い出は、心の奥にちゃん
と刻まれていたのだった。