冒頭挨拶
剣進「オッス!剣進だ。今回の登場人物は、レギュラーではオイラ1人だ」
剣進「つ・ま・り・・・・オイラが完全な主役なのだ!」
剣進「永輝も薫もいない。トムは・・・・・残念だけどいない」
剣進「オイラが家族揃って、ひいお婆ちゃんの家に行った時の話」
剣進「それじゃあ、オイラの格好いい姿を存分に楽しんでくれよ」
プロローグ
夏休みも折り返し地点を過ぎ、暑さも少しずつだが和らぎつつあるお盆のある日、
剣進は家族揃って、ひいお婆ちゃんの家に帰省していた。既に93歳になっている
ひいお婆ちゃんは、いつもと変わらずに剣進達家族を元気に迎えてくれた。
「婆ちゃん、ほら、婆ちゃんが送ってくれたやつだよ」
昔ながらの短い半ズボンにタンクトップの男の子、剣進が言った。
1か月程前に、ひいお婆ちゃんは剣進に手作りのタンクトップを送ってくれていた。剣進は
その姿を早くひいお婆ちゃんに見せたかった。
「まあ剣ちゃん、よく似合ってるね、可愛いよ」
しわだらけの顔いっぱいの笑顔で、ひいお婆ちゃんは嬉しそうだった。
「へへっ、やっぱり」
都会ではなかなか見ることので出来ない昔ながらの家を、剣進は結構気に入っていた。
クーラーも無いし古いテレビが居間に1台、居間には囲炉裏がある。この囲炉裏も、剣進
のお気に入りだった。家の外には田んぼが広がっていて、コンクリートのビルなど全く見当
たらなかった。家から500メートルくらい離れたところに池があり、毎年ここで父親の剣吾と
魚釣りをするのが楽しみの一つだった。しかし、今年はその願いは叶うことはなさそうだ。な
ぜなら父親の剣吾に、仕事場から携帯に連絡があり、至急仕事場に来て欲しいと連絡があ
ったのだ、どうやら大変なトラブルが起きて、剣吾でなければ対応できない内容らしい。その
為、剣進は一人、家の前を通っているあぜ道をただなんとなく歩いていた。
「・・つまんねーの、父ちゃんと魚釣り行きたかったな・・・」
剣進が10分ほど歩いていると、向こう側から剣進より体の大きな男の子が歩いて来た。
剣進は気にせずにすれ違った時・・・・
「待てよ」
剣進よりも太くて迫力のある声だった。
「何?」
剣進は不愛想に言った。
「お前、好恵(よしえ)婆ちゃんとこの奴だろ」
「そうだけど・・・・何で分かったんだ?」
「あっちの方向には他に家はないし、1週間くらい前に好恵婆ちゃんが、家族が帰ってくるっ
て言ってたんだよ」
「ふ~ん、で、オイラに何か用?」
「プッ、オイラだって・・・・ダッセー」
剣進はちょっとカチンときた・・・・が、今は何もやる気がしなかったので、無視して歩き出した。
「ちょっと待てよ、オイラ君」
「何だよ、それに名前はオイラじゃない、剣進だ」
「ふ~ん、じゃあ剣進君、お前そんな格好で恥ずかしくないの?」
「なんだと・・・・・」
「お前割と都会の方に住んでるんだろ?なのにそんな昔の子供みたいに短いズボン
履いて自分のことオイラとか言っちゃってさ、もしかしてタイムスリップして現代に来た
とか?」
剣進の顔が徐々に赤くなっていく
「何なんだよお前、オイラに初めて会うくせに、いきなりそんなこと言って、オイラはこの格
好が好きなんだ、大好きな父ちゃんの子供の頃着てたのと同じ服だ。それにタイムスリップ
なんて出来るわけないだろ、お前馬鹿じゃないのか?」
顔を赤らめて剣進は反論した。

「な~に熱くなってんだよ、これじゃあどっちが田舎に住んでるかわかんねーな、オイラ
君」
「くっそ~」
ついに剣進の我慢が限界を超えてしまった。剣進は男の子に飛びつき、馬乗りになったが、
体が剣進より大きい男の子は、すぐに態勢を入れ替えて馬乗りになり、剣進を見下ろしていた。
剣進は目に涙を溜めて悔しそうにしていた。
「フフフ、都会の奴にしては、なかなかガッツがあるじゃねーの」
男の子は馬乗りになっている剣進から離れて立ち上がった。
「ほら、立てよ」
男の子は剣進に手を差し出した。
「グギャ~」
剣進は男の子に殴りかかったが、あっさりと避けられてしまった。
「お、おい悪かったよ、悪かったって」
「ハーハー」
ようやく剣進も落ち着きを取り戻し始めた。
「お前みたいな奴が来てくれて嬉しいぜ」
「?」
剣進はポカンと男の子を見ていた。
「この村はオレの他に子供はいないんだ。去年6年生が卒業してな、中学からは街
の方の学校に行ったんだ・・・分校も生徒はオレ一人になっちまったから、今年で廃
校になるんだ」
「ほんと悪かったな、オレ都会っていうと何か悪いイメージしかなくてついお前にもちょ
っかい出しちまって・・・・」
「・・・いいよ、もう」
「よし、お詫びにオレの大好きな場所に連れてってやるよ」
「大好きな場所?」
「おう、オレの自慢の場所さ、早く行こうぜ・・・剣進」

「う、うん行くよ・・・え~と・・・」
「オレの名前は太一・・・滝川太一(たきがわたいち)だ」
第1章完、第2章に続く