12月に入り、連日新作舞台『ぼくはずっと前からあたらしい』の稽古をしている。
12月はほとんど毎日。
稽古初日からかなり複雑な演出に取り組んでいて、「これ覚えられるかなー」「大丈夫かなー」という空気も流れていた時間もあったのは確かで、でも本番を今週に控えた役者皆の動きは、いつの間にか完璧に、スムーズにその複雑な演出を舞台上で繰り広げている。
「人間って慣れるんだよ、すごいよね」
なんてことを初めからぼくは伝えていて、今回も改めてその域に達する役者を直に見ていて、人間の成長の凄さを感じた。
そしてそんな稽古を繰り広げているこの期間中に、ワールドカップがあった。
W杯の日本戦を観るために、夜中起きて熱狂した方も少なくないだろうと思う。
実際、稽古も数人が寝不足な感じで始まった日もあったほど、本当に国民的行事のような雰囲気になっていたように思う。
そして日本の最終戦となった対クロアチア戦。
PKで敗退が決まって、選手たちがピッチでしゃがみこんで泣いてる姿を見て感動し、その姿にはつい、拍手を贈りたくなってしまうほどだった。
誰も責めることなく、今回のW杯での感動を讃えた。
そんな場面を画面越しに見ていてふと思ったのが、演劇との関係性だった。
ぼくはサッカーを観ることは好きだし、遊ぶことも好きで、今このW杯で試合をしている選手の名前も顔もちゃんと分かってはいたんだけど、この選手の方々がどこの国でプレーし、どんな1年を過ごしていたのかまでは追えていない。
だから、実質ほとんどが前情報なしで初見なわけである。
これはほとんどの人がその状態であっただろうと思うのだが、それでも国を上げて応援し、感動するに至った。
例えば、最後のPKで1番手で蹴った南野選手。背番号10番。
背番号10番というのはサッカーにおいてエースを意味するというのは知っている人も多いとは思うのだが、そんなエースがPKを失敗し最後には崩れ落ちていて、南野選手の軌跡もバックボーンもあまり認識していないのになぜ見ている僕が泣けてしまうのか。
それは間違いなく一切の作り物ではない、ノンフィクションであるのが原因である。背番号10番というだけで南野選手が日本代表としての立ち位置はもう説明は終わっていて、語らずも理解した中で、そこに演劇との共通点がある。
舞台上で繰り広げられる「物語」は時間を切り取るフィクションであるので、事実を描いたとしても「フィクション」の枠は抜け出すことは出来ないのだが、その舞台上で役者が過ごす2時間とお客様が過ごす2時間は、時間を切り取ることが出来ない「ノンフィクション」であるのは確かなのである。
それは映画には決して出来ないことであるため、演劇ではそこを重要視して作らなければならない。
観客と過ごす同じ時間には、その背番号10番のユニフォームのように役の説明を必要としない衣装や仕草、たまには環境音などを用いて言葉での説明を省きながら描き、同じ2時間をスタートさせる。
だからこそ、役者がここで2時間、一瞬たりとも気を抜くことがない芝居を続けているということに感動する。
ただ物語で感動させるわけでない。
正直、物語で感動させることは難しいことでなく、それよりもそれを必死で演じている「生身の人間」に感動して頂くことや、ぼくがW杯で日本が負けた時に無意識で拍手を贈りたくなった時のように人前に役者を送り出すことが、僕が演劇をする上で大切にしていることである。
今回の舞台『ぼくはずっと前からあたらしい』は17年前に実際に107名もの死者を出した「福知山線脱線事故」を描きます。
この作品は多くの資料や声を集め、時間を切り取り集約されたフィクションであるのだけれど、当事者ではない今回この舞台に携わる全ての関係者と、この作品に必死で向き合うその時間はまさにノンフィクションであって、その時間が辿り着く場所は皆様と共に過ごす劇場です。
W杯で感じたことはとても多かった。
M-1も然り。
「熱」を帯びた想いや、必死で物事に向き合う人間には、人はちゃんと心から拍手を贈る。
そんな演劇を目指して今日も稽古をする。
今週末。
間もなく始まる、皆様との2時間のためと、それからの時間のために
是非劇場にお越し頂けましたら嬉しいです。
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〔脚本・演出〕
日野祥太
〔出演〕
野島健矢/水原ゆき
朝田淳弥/イム・スヒョク/北澤大斗
関隼汰/福室莉音/雪見みと
吉田知央
〔物語〕
2022 年12月25日
───東京の夜。
三嶋たくとはその日も、仕事の休憩中、雑居ビルの陰でたばこを吸っていた。
その時間はちょうど、女優をやっている彼女、岸本かなの舞台本番が終わろうとしている時間だった。
その舞台の演目は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」。三嶋は昔からこの話がどこか好きになれなかった。
それは三嶋の身に降りかかった過去の出来事が原因だった。
2005 年4月25日
───尼崎の朝。
三嶋たくとはその日も、母親の看病をしていた。
その時間はちょうど、小学校に行く時間だったが、この日だけは、母親の薬を受け取りに電車に乗り、病院へと出掛けていた。
電車はラッシュを少し過ぎた時間。
まもなく尼崎に着く、その瞬間、車内は大きく揺れ、気付けば三嶋の体は、宙に浮いていた。
9時18分。後にこの事故を、「福知山線脱線事故」と名付けられることとなる。
〔劇場〕
R’s アートコート
(東京都新宿区大久保1丁目9-10労音大久保会館)
・JR山手線 『新大久保』駅より徒歩8分
・東京メトロ 『東新宿』駅より徒歩8分
〔日時〕
12月23日(金) 19:00
12月24日(土) 13:00 / 17:00
12月25日(日) 13:00 / 17:00
開場は開演の30分前
〔料金〕
全席指定/6,500円
〔チケット予約〕
〔公演詳細〕
https://www.pademicdesign.com/
チケットは僕に直接ご連絡頂いても構いません。ご連絡頂けましたら返信もさせて頂き、責任を持ってお取りさせて頂きます。