これらの資料を踏まえて、具体的に(1)(2)(3)(4)の問題に答えることになる。以下、設問ごとにみていこう。

(1-1)
 50の「研究テーマ」を分類することが要求されているが、その際、設問の要求する類型の数および1つの類型に入るテーマの数は厳守しなければならない。この条件を満たさないとほとんど得点にならないだろう。
 次に、分類の視点だが、これは無限といえるほど存在する。ただ、「コンピュータ」「環境」など、複数の研究テーマに共通している概念に注目するとよいだろう。もちろん、その使われ方にもよるが、同じ概念を扱っているものは、同一の分類に含まれる可能性が高い。そこから、同一グループに属すると思われる概念群をいくつか作る。そこに関係のありそうな研究テーマを加える、あるいは1つの類型に属する研究テーマの数が多すぎるなら、分割する。このような作業をしていけば、設問の要求にそった分類ができるだろう。
 分類ができたら、それぞれに類型の名称を考えることになる。ここでの名称にそぐわない研究テーマは他の類型に移動することも検討しよう。

(1-2)
 (1-1)の作業をする際、どのように考えて分類を行ったか、それを文章化すればよい。
 また類型の関係に関しても、(1-1)の作業で何を考えたかが問われる。例えば、現状の分析→理論的考察、抽象的な原理の探求→具体的な応用技術の研究、といった関係に整理できるかもしれない。特に「これが正解」といった関係があるわけではないが、(1-1)で漫然と研究テーマのタイトルから受ける印象だけで分類を行うと、ここで苦労することになる。

(1-3)
 何を選ぶかは、全く解答者皆さんの自由である。ただ、(2)以降の解答と整合性がなければいけない。とりあえず暫定的に候補をあげておき、(2)以下の解答を通じて再検討してもよいだろう。

(2-1)
 ここは、資料に対する判断だけなので、特に難しいことはないであろう。ただ、資料2の「女の子」と何(どこ)が「にている」、あるいは「にてない」と判断したかを考えておく必要がある。これは、資料2に対しても同様で、何(どこ)に「共感した(あるいは、しない)」のか、押さえておこう。

(2-2)
 (2-1)で判断した理由を文章で説明することになる。ここで、資料1・2との整合性が問われる。例えば、資料2の「女の子」と「にている」と解答しながら、自分は他者とのコミュニケーションには慎重で、何かを問われてもすぐには答えない、とはいえないだろう。また、「世の中をよくしたい」と考えているなら、そのような発言をしている資料3に共感することになる。
 資料から何を読み取るかの自由度は高いので、読み取りに時間をかける必要はないが、この部分で資料との矛盾や不整合がないように注意してほしい。
 なお、自分以外の3人に関する記述も、資料との矛盾や不整合があると、減点の対象になる。

(3-1~3)
資料4~6の内容把握が前提になるが、あまり長文の記述はできない。ただ、「簡潔にまとめる」とあっても、資料の使っている重要概念とその相互関係を盛り込むことは、最低条件となる。
ここでどの概念が重要かを見極めること、それを各資料がどのように扱っているかを正確に読み取る能力が必要になる。
 例えば、資料6からは、「公共性」や「利他性」の問題、あるいは「権威」の問題が読み取れる。これは、設問の要求にある「知識のあり方」の関係する重要概念だと思われる。もちろん、賛成しない(=「批判」)あるいは限定(=「補完」)した「提案」をしてもよい。【課題文の読み取り】で重要概念の例を示したが、これらと「チーム」「思考方法」「知識のあり方」という設問文の重要概念との関係づけを考えると良いだろう。

(3-4)
 記号を答えるだけであるが、(2-2)のメンバーの評価と矛盾するか否かが採点基準になるだろう。

(3-5-1・2)
 ここも、記号ないし計算式(お>を選択した場合)を答え、またその計算結果を答えるだけである。ごく易しい問題であるが、それだけにケアレスミスのないようにしたい。特に、(3-4)との整合性が、採点のポイントになる。(3-4)でリーダーに強い権限を与える立場を選択して、(3-5-1)でリーダーの重要性が低い計算式を選んだのでは、矛盾してしまう。

(4)
 最も小論文らしい設問だといえる。ただ、ここまで各小問に対して書いた解答と矛盾や不整合があると、減点されるだろう。また、プロジェクトの内容そのものに対する配点は大きくないと思われるが、それでもすでに解決済みの問題や、極端に非現実的な提案を取り上げると、減点の対象になる。 

 【出題の意図】でも述べたが、与えられた資料から何を読みとらなければならないかは、資料の内容ではなく、設問の要求によって決まる。したがって、各資料のどこに注目するかは、【解答の方向性】で検討することにして、ここでは大まかな資料の解説をしておこう。

資料1
 07年には実際にSFCで行われているプロジェクトの一覧表とその簡単な解説、さらに古くは99年にもSFCで設置している講座の一覧表が示されている。いずれも大学生を対象にしたのものであり、高校段階では原則として取り上げない概念を含む研究会の名前がある。
 日常的にSFCのことを調べているといった熱心な人以外は、名前だけからはすべての研究会の内容を理解するのは難しいだろう。ただ、問題(1)は知識を問うているのではないので、突破口は見つかるはずである。

資料2
 漫画であるが、設問2の要求に従うのは簡単だろう。

資料3
 比較的長文であるが、設問の要求との関係付けは容易だと思われる。

 以下の資料4~6は、設問文に「その資料ごとに、簡潔にまとめて」とあるので、要約が解答の重要な要素になる。一応、重要概念だけを指摘しておくので、参考にしてほしい。

資料4
 「勝利の後こそ厳しく」「2人を注入するだけでも簡単な作業ではない」「周りの選手が思いきってリスクを冒せるようなサポート」「リスクをゼロに近づけ、ミスを排除する」「ナーバスになった」「監督への敬意は恐怖と裏腹」「リスクを測定する」「経験のある彼らがテンポを落としプレーしたことで周りの選手も、そちらになびいてしまった」「ノーマルに、シンプルにプレーすることがサッカーでどんなに難しいか」「無謀を奨励しているわけではない」「トータルなマネジメント能力」「コントロールされたリスクの冒し方」「見切りの能力」「リスクに対する感度」「司令塔」「責任とリスクも分散」「穴を作るとそこを徹底的に突かれる」「チーム全員にリスクを冒しつつバランスも取れる判断力」「トレーニングだけで身につくとは言い切れない」「フィーリングとしかいえない」
 
資料5
 「MP3の携帯端末プレイヤーは存在」「高い値段」「リッピング」「ユーザーがこれらの手続きを手作業」「音楽を聴くための端末ではなかった」「iPodは自分のコレクションのCDをリッピング」「約1000曲」「数十曲」「iPodはすぐにヒットした」「ウォークマン」「HiFiの音質」「音を聴きながら街を歩く」「HiFiのステレオで音楽を提供するという経験を提供するための道具ではなかった」「デザイン主導イノベーション」「大量にコレクションしたCD」「希少価値はない」「コレクションを持ち歩く」「ホイール型のインターフェイス」「リッピングのカルチャーが普及しつつある良い時期」「組み合わせた」「使いよさと性能が向上」「インターフェイスの使いやすさ」

資料6
 「ウィキペディア」「権威ある人と匿名で無名の人が書くものに区別がない」「いい加減」「パブリックな機能」「ただ働きがある、無償の奉仕」「公共性と利他性こそが、インターネットの特質」「情報はシェアされるべき」「情報の囲い込み」「オープンアクセス」「クリエイティブ・コモンズ」「オープンソース」「脳のもつ能動的な性質にかなった魅力」「自分の好きなものを検索して見るのであれば、全然苦痛ではない」「データをそういうふうにユーザーが入力できるのを知らない」「不特定多数の人が自由に制約なく思ったことを書く、あるいはタグをつける。そうすると間違いが入る可能性もあるけど、直ることもある」「権威だと思われている人にも間違いが入り込む」

 07年と制限時間の変更はないが、解答箇所が07年が4つであったのに対して、本年は数え方にもよるが10箇所以上と大幅に増加している。ただし、記号を書くだけでよい部分も多いので、実質的に答案で書かなければならない分量に大きな変化はない。また、07年に比べて資料の分量が減っている。しかし、昨年は資料のどの部分に注目するかを決めて、それ以外はざっと眺めるだけで済んだが、今回は一応すべての資料を読む必要がある。したがって、この部分でも負担も大きな変化はないといえる。通常の小論文で言えば、07年同様、長大な課題文を読ませ、1500字程度書かせるのに匹敵する。これは、総合政策学部とほぼ同じ作業量といえる。

 出題形式の分析はこのぐらいにして、ここからは、この出題が受験生のどのような能力を要求し、評価しようとしているのかを考えてみよう。
 この答案で最終的に求められるのは、「自主的な研究プロジェクト」を立ち上げることである。これは、環境情報学部が重視しているシステムであり、入学後の皆さんに要求されることと本質的には同じ作業である。入学後に取り組むべき課題を出題することは、07年、さらにはそれ以前の出題にもしばしばみられる。
 本年の出題では、「自主的な研究プロジェクト」を立ち上げる過程を細分化して、それぞれの段階で適切な判断や作業ができるかを聞いている。これは従来にはなかった傾向である。特に、07年との相違は、問題(2)・(3)である。ここでは、解答者が簡単な自己分析を行わなければならない。そして、その分析結果と異なるタイプの「仲間」を想定し、彼らとどのような共同作業をすべきか、さらにはその中で解答者がどのようなルールに従うべきか、が問われている。単に研究内容やその社会的な影響だけではなく、実際に研究を進めていく際の組織や対人関係のあり方まで考えさせるものである。確かに、07年も(3)の設問で、「メンバー(の人数)」も触れるべき点としていた。しかし、今回は、それ以上に詳しい考察が必要になっている。
 環境情報学部だけではなく、総合政策学部を含めた慶応SFCでは、現代社会の抱える問題を具体的に解決する取り組みを重視している。多くの要因が複雑に絡みあった現代社会の問題を解決するには、複数の分野からアプローチすることが必要になる。そのためには、一個人の努力ではなく、専門を異にする複数の人間が協力しなければならない。この問題を考える能力を出題側は判定しようとしているのである。
 これは、環境情報学部は、総合政策学部以上に、大学の研究・教育方針に対する適性を重視しているためだといえよう。これに応えるためには、いわゆる受験勉強とは異なる対策が必要になる。しかし、これは参考書を読んだり、予備校の講義を聴いたりする方法で養成することは難しい。逆説的に聞こえるかもしれないが、過去問演習が最も有効な対策だといえる。大学が要求する能力を養成するためには、その能力が必要な作業を実際にしてみることが一番だからである。
 その際、特に注意してほしいことは、設問の要求を正確に読み取ることである。高校以前ではまず要求されない作業や考察が求められている。したがって、過去問演習などを通じて、環境情報学部の出題が何を求めているのか読み取る練習をしていないと、何をすればよいのか困惑することになる。しかし、ここで要求されていることが理解できなければ、どのように資料を扱えばよいのか、見当もつかない。実際、WIEの受講生も、初めて過去問をみたときには、大いに困惑したという感想を持つ人が多い。
 過去問演習を通じて、環境情報学部の出題に慣れてほしい。さらには、出題者が何を意図しているのか、どのような学生を入学させたいのか、理解していただきたい。