今、研究が進められているのは「血管新生を阻害することで、ヒトのがん細胞の成長と転移を遅らせたり防いだりできるか」どうかです。
この疑問に答えるために、現在、がん患者を対象におよそ20種類の血管新生阻害剤の試験が行われています。
これらの阻害剤はそれぞれの作用機序によっていくつかに分類できます。
(上の図の、赤い矢印が攻撃対象部位)
① 血管内皮細胞を直接阻害するもの
② 血管新生のシグナル伝達経路を阻害する
③ 血管内皮細胞による細胞外基質の分解を妨げるもの
それぞれを少し詳しく見てみます。
①
現在がん患者を対象に試験が行なわれているものに、内皮細胞の成長を直接阻害する分子があります。
このうちの一つ、エンドスタチン (上)は、動物の体内でつくられるタンパク質で、腫瘍増殖を阻害することが知られています。
またコンブレタスタチンA4(中)という薬は、成長する内皮細胞を自滅(アポトーシス)させます。
他にもインテグリン(左下)と呼ばれる分子に作用して内皮細胞の増殖を阻害する薬もあります。
②
ヒト臨床試験が行われている第二グループの血管新生阻害剤は、血管新生におけるシグナル伝達経路に対して作用する分子です。
これには抗VEGF抗体 (下)があり、VEGFのVEGF受容体への結合を阻害します。
他に、インターフェロンα (上)製剤があります。
インターフェロンαは体内でつくられ、bFGFとVEGFの生成を阻害することにより、シグナル伝達の開始を妨げます。
また、内皮細胞受容体に作用する複数の合成薬物についても、がん患者を対象とした試験が実施されています。
③
第三グループの血管新生阻害剤は、血管内皮細胞が増殖初期につくる物質の一つであるMMPを阻害します。
MMPは細胞外基質の分解を助ける酵素です。
血管内皮細胞が周囲の組織に移動、増殖して新たな血管をつくるには、その前に細胞外基質を分解しなければなりません。
このため、MMPを標的とした薬剤は、血管新生も阻害することができるのです。
現在、MMPの活性を阻害するいくつかの合成化合物や天然分子について臨床試験が進められ、血管新生をこの段階で阻害することによって、がん患者の生存期間が延長するかどうかが調べられています。
また、興味深い薬にサリドマイドがあります。
1950年代に鎮静剤として使用されていましたが、妊婦に使用すると、先天性異常が見られたことから、販売が中止されました。
この薬を妊娠女性に投与するのは明らかに不適切ですが、
内皮細胞の新たな血管形成を阻害する働きがあるので、妊婦を除くがん患者の治療には有効であると考えられます。
…今頃になってこんな話が出るとは、ドラえもんも知らなかったでしょう。
私の幼い記憶の中にも「サリドマイド=悪の親玉中の親玉な薬」として残っています…
毒と薬は両刃の剣であることが良くわかる事例だと思います。
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血管新生を阻害するメカニズムががんのみを標的としていない薬剤や、
メカニズムがよくわかっていない薬剤についても、がん患者を対象とした試験が進められています。
たとえば、CAIという薬剤は、細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害することによって効果を発揮します。
細胞によるカルシウムの取り込みを阻害すると内皮細胞の増殖が抑制されますが、
このメカニズムは細胞全般に働くため、他の多くの細胞の細胞内プロセスにも影響を及ぼします。
このように私たちの知らない所で、次々と研究は進められておりいくつもの臨床試験が行われているのです。
臨床試験の話だけでも、頭が爆発するくらいの資料を読まなくてはなりませんので<スルー>させて頂きますが、大雑把な表と、その訳をのせて終わりにさせて頂きます。
第1相 少人数の患者グループで試験
‐安全性
‐適切な用量
‐投与法(経口または注射)
第2相 少人数の患者グループで試験
‐薬剤の有効性
‐安全性
第3相 大勢の患者グループで試験
‐患者を新薬投与群と標準治療群に無作為に割付け
臨床試験が成功すれば一般に使用できるようになる
以上のような過程を経て、はじめて私たちが治療に使えるお薬として世に出て来ているわけです。
しかし忘れてはいけないのが、薬の鉄則とのいえるこの文言!
人によって効果の表れ方には差がある。
思いがけない、死亡に至るような副作用が出ることがある。
長年卵巣がんとお付き合いしてきた私が、この目で確認しただけでも「同じ薬を使ても一人一人違うんだなぁ~」と感じています。
私の実直な主治医に先日質問しました。
「先生、私って運がいいことに無増悪期間が長い方ですよね。
これって、あまり例がない症例ですか?」
Dr,「ああ、ざきさんは確かにそうですね。
でもいろいろな症状の出る方がいらっしゃるので皆さん一人一人、違うんです。
‘これが普通‘とか、‘変わってる‘とか全く言えないのが、
少なくとも私が診ている‘婦人がん‘ですね。」
とあっさり流されました。
この先生は今まで100人単位で子宮体がん・頸がん・卵巣がん・その他のがんの患者さんの治療をしてこられたと思います。
たぶん、お一人お一人がん細胞の顔も・サイズもその後の経過もかなり違うことを実感しているのだと思いました。
だからこそ一見‘そっけない‘様に見えても、「それは私にはわかりません」と自信を持って(?)言い切れるのではないかな、と思いました。
まあ、変に知ったかぶりされても困りますからね。
と云うことで、長らくお付き合いいただいた「新生血管」のシリーズもやっと終わりました。
実は今、安堵感でいっぱいです。
「やーっと終われたよー。途中で挫折するかと思ったけど~。資料探して大変だったけどー。」
このシリーズを通して<やはり医師が使う言葉や薬の名前は難しい!!>と実感いたしました。
世界に「私」は一人しかいないように、私の「がんちゃん」も世界にひ・と・つ…
う~ん。
どんなにがんが克服できつつある病気だとしても、病気はがんだけではありません。
自己結論ですが、やはり自分の病気と向き合って限られた時間をいかに過ごすかが
ものすごく大切なことだと感じました。
さてさて、これからは何を書こうかな?
私のブログは「何もわからない卵巣がんになってしまった人が、医師と話し合えるだけの知識を持てたらいいな~」と思って書こうと思っています。
もし、ご意見・ご要望があれば「ドシドシ」お願いします。
わからないことは調べます。
よろしくお願いいたします