55、消費税 三つの“俗論”を排す=倉重篤郎 | NPO法人生涯青春の会

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 ようやく日本の政治もここまで来たか。一種の感慨を禁じえない。与党と野党第1党が「消費税10%」を掲げて選挙に臨む。あの小泉純一郎元首相ですらそんなことはできなかった。「消費税はノー」という三つの議論に疑義を呈し、一つの提言をしたい。


 まずは、「増税反対」論である。この問題を考える上で大切なのは、簡単な算数と普通の道徳だと思う。

 92(歳出)-37(税収)=44(国債)+11(埋蔵金)


 これが10年度予算一般歳出の内訳(単位は兆円)だ。われわれの国家予算は、自らの稼ぎ(税収)が少ない割にはどうみても支出が多すぎる。稼ぎ以上の額の借金(国債)と、一過性の臨時収入(埋蔵金)に過度に依存している。


 こんなことばかり続けたおかげで国、地方の借金総額は860兆円に膨らんだ。国内総生産(GDP)約500兆円で割ると、1.8倍だ。先進各国の中では突出、ギリシャの1.15倍さえ上回る。

 

◇増税でなく適税

 どうみても税金が足りない。増税どころか減税が行き過ぎている。小学生でもわかる計算ではないか。小学生をばかにしているわけではない。小学生に選挙権を与えたらどうなるか。彼らなら、結果的に自分たちの世代に付け回しされる現行予算の過剰歳出・過小税収構造を改革しようとするかもしれない。


 政治の役割は格差是正にある。ただし、所得格差、地域間格差は利害当事者

が互いに1票を行使し合えるが、世代間格差だけは、これから生まれてくる世代にまで思い入れしなければ解消しない。


 消費税を10%にしても、プラス5%の増収分が12・5兆円しかないから、計算の上ではまだまだ足りない。10%は腰だめ数字とか根拠レスと言われるが、取りあえず超減税状態を適正化する一歩としては、わかりやすい通過地点と受け止める。その意味で筆者は「適税」と呼ぶ。その増収余力、国際標準、景気への影響など、あらゆる観点から消費税しかない、と考える。

 

◇行革先行は幻想、腰引く財務官僚

 次に、「消費税率引き上げの前にやるべきことがある」との議論だ。やるべきこととして「何よりも行革、歳出削減」「経済を成長させてから」。もっともな主張である。ただ、私にはあまりにも古色蒼然(そうぜん)、かつ、きれいごとに見える。消費税が導入されて20年余。何度繰り返しこの議論が行われてきたことか。


 自民党は橋本政権が消費税2%アップと引き換えに省庁再編を軸とした行革を実施、小泉政権では消費税論議封印の代償として徹底した歳出削減になたを振るった。民主党政権も売りは事業仕分けの無駄排除だ。成長戦略も役所やシンクタンクの作ったペーパーはゴマンとあるが、内外環境激変の中で昔ながらの成長物語は構造的に無理がある。


 時代が変わり、むしろ、消費税の方が政策の優先順位が高くなった、と言える。なぜならば、日本の財政悪化は日本国民の算術的、道徳的許容限度を超えただけでなく、G20合意で見られるようにグローバル市場の懸念材料にもなりつつあるからだ。財政破綻(はたん)回避はすでに危機管理の局面と見るべきだ。


 ここで出てくる三つ目の論が「とうとうお前も官僚の手玉に取られたか」との財務省シナリオ説であろう。これもおかしい。1980、90年代の旧大蔵官僚のイデオロギーともいえる過剰な財政再建キャンペーン時代ならいざ知らず、今の財務官僚は、腰が引けている。永田町と国民世論にたたかれるのが怖くて財政当局として必要な発信をし切れていないのが現状だ。


 それにしてもなぜ当たり前の政策議論がきちんとされてこなかったのか。一般消費税(大平政権)、売上税(中曽根政権)、消費税(竹下政権)と政権を痛めつけ、時につぶしてきた死屍(しし)累々の政治史に尾ひれがついてタブー化された。今回の参院選は政界のタブー解禁という意味で半分の役割を終えた。後は国民がしかるべく判断するだろう。


 問題は選挙後だ。まずは、消費税率上げは日本経済に残された、ある意味で最後の切り札であることを確認したい。少なくとも財政と社会保障を一体的に強化、工夫によっては成長にまで影響を与えうる。それだけに大事に議論を進めなくてはならない。引き上げ工程表と財源の割り振り、年金、医療、介護制度の見直し、軽減税率、納税者番号制度の導入など制度改革が目白押しだ。政治家諸氏は、例えば2年と期限を切り、少なくともこの分野では政治休戦し、民主も自民もなく自らの経験、識見、能力を振り絞って持続可能で経済合理性の高い制度作りに汗を流すべきではないのか。(専門編集委員)


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毎日新聞 201076日 001