映画 スノー・ロワイヤル
みんな大好きリーアム・ニーソン主演映画
ここのところリーアム・ニーソンと言えばアクション映画になってしまっているが、この映画も一応アクション、サスペンス映画であり、コメディ映画でもある
原題は「Cold Pursuit」
「冷たい追跡」あるいは「冷たい追撃」
邦題に関しては明らかに「バトル・ロワイヤル」から来ていると思われるが
誰かが亡くなるとニックネーム、本名がテロップで表示されるところは深作欣二監督の2000年公開の映画と同じ
実はこの映画は2014年のノルウェー映画「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」の完全なリメイク
監督も同じハンス・ペテル・モランド
この映画は今回のスノー・ロワイヤルと、ストーリーも話の進め方も、シーンの構成も、カメラ割や、カメラ位置、かなりの割合でセリフ自体も同じなのだ
なので、感覚としては同じ映画を役者を総入れ替えして作り直したものと言っても過言では無い
またしても、この邦題、意味がわからない
馬鹿馬鹿しい響は映画の内容と合っているとも言えるが、こういう馬鹿馬鹿しさとはちょっと違うんだけどね
原題はノルウェー語「Kraftidioten」英題は「In Order Of Disappearance」
オンライン辞書でKraftidiotenで調べると英題そのままのIn Order Of Disappearanceと出てくるので
意味としては「消失の順番に」あるいは意訳すると「いなくなった順に」「退場順」ということになる
前述のように亡くなった順にテロップが出る方式とか、エンドクレジットの役者名も亡くなった順に消えて行くという演出にぴったり
さらに、この言葉を分解して見ると
Kraftが「力(パワー)」でidiotenは英語のIdiotと同じ「馬鹿」なので「パワー馬鹿」あるいは「馬鹿力」とも読める
というように、おそらくこの題名には
「いなくなった順に」と「パワー馬鹿」の二つの意味が掛けられていると思われる
Kraftとい言えば、北欧の言葉と同じ系統の言葉を持つドイツのバンド「Kraftwerk」を思い出した
この場合はKraftが「力」でWerkが「工場」で、Kraftwerkで発電所という意味だ
ついでに題名の件を片付けておこう
実はスノー・ロワイヤルの原題は「Cold Pursuit」になる前は「Hard Powder」だったらしい
これは「激しい雪」と「ハードな薬」の2つが掛かっていることは明白で、おそらくKraftidiotenの二重の意味を模したものだったのだろう
オリジナルで主役のディックマンを演じたのはスウェーデン俳優のステラン・スカルスガルド
マーベルのキャプテン・アメリカシリーズやアヴェンジャーズで割と重要な役であるセルヴィグ博士を演じた俳優だ
さて、スノー・ロワイヤルのお話に戻ろう
お話としては
コロラド州の田舎町で除雪作業員として日夜市民のために働き、栄誉市民賞までもらったリーアム・ニーソン演じるネルス・コックスマンの息子が知り合いの麻薬密輸に巻き込まれてギャングの元締めのヴァイキング(オリジナルの舞台である北欧のオマージュ)の手下に殺される
頭にきたネルスは関係していたギャングの関係者を一人一人殺して行き、ボスのヴァイキングを狙う
というものだが、ここまで聞くと今まで何度も見てきた「舐めてた相手が殺人マシーンでした」タイプのリーアム・ニーソン主演の映画たちをいやが応にも思い出し、このお父さんは元CIAか?元軍人か?元殺し屋か?あるいはダークマンのような超常的な能力の持ち主か?と思って見て行くのだが、そんなことはなく彼は単なる除雪作業員で、ギャングを追い詰めるのも、ただ一人でいるときに不意に殴りつけて、あとはただただ殴り続けるというもの
さらに、途中から別のマフィアとの抗争が勃発して、まさにバトル・ロワイヤル状態になった挙句、あれよあれよという間にエンディングを迎えてしまう
なので、今までのリーアム。ニーソンものの映画とは途中から全く違うものになってしまう
当然、ラスボスを倒してのカタルシスも全く無い
前述のように、この映画はオリジナルのKraftidiotenの焼き直しであり、全く同じ話であり、さらに言えば、いちいちテロップが出るところも、主人公の名前(ディックマンとコックスマン)の下ネタ的な意味も、結末も、そのあとで落ちてくるものも、全く同じなわけで、単体の映画としては評価しにくい
淡々と人が死んでゆく様や、笑えないジョークや、人種問題なんかのエッセンスも最初からあったのだ
変わったのは、役者と
舞台がノルウェーの町からアメリカのコロラド州のキーホーという町になったこと
ちなみに、キーホーという町は筆者が調べた限り実際には存在しておらず、コロラドのロッキー山脈にあるいくつかのスキー場(語感から言っておそらくキーストーンスキー場)をモデルにしたと思われる(撮影はカナダらしい)
人種問題関連でオリジナルではセルビア人やデンマーク人だったのが本作ではネイティブ・アメリカンになっていること
くらいだ
一つだけ、オリジナルには無い会話のシーンがあり、ここが非常に印象的だった
主人公がヴァイキングと対立するネイティブ・アメリカンの組織のメンバーがスキー場にヴァイキングを撃つためにやってきて、ホテルのフロントで
「今日泊まりたい」というとフロントの女性が「ご予約(Reservation)をなさっていますか?ご予約(Reservation)が無いとお泊りになれません」と返すのだが、それに対してネイティブ・アメリカンの方が
「今、なんて言った?"お前らは泊められない Resrvationに帰れ"と言ったな、そのような差別的な言葉は許せない」
と怒るわけだが
Reservationというのは「ネイティブ・アメリカン居留地」の意味で、アメリカの国務省が先住民族の権利を保証するために一部の土地をReservationとして隔離して彼らを事実上閉じ込めたという政策があった
このことを言っているのだが、この部分は字幕でもただReservationとしか表現されておらず、居留地の意味であることは知らない人にはわからないようになっていたことは残念ではあるが
以上のように、この映画は監督が自分の一度作った映画をハリウッドでリーアム・ニーソン主演で大々的に再演したもの以上では無い
だが、筆者としては
以前、仕事で北欧のデンマークとコロラド州に居たことがあり、オリジナルおよび新作の舞台となる景色的なものもかなり身近で懐かしく、すんなり入り込むことはできたし、この映画、好きか嫌いかと聞かれれば、やっぱり好きなのだが