弘済会報   sya_rokkukan    
  
9年  ・青春の 熱き血潮の 迸る わが胸の内を 君は知らずや
10年  ・この子等の 永久の幸せ あれかしと 無邪気な笑みに 対べば思う 
11年  ・なぜかしら 気になる人の うたた寝は 可憐に見えて 一人笑みおり
    ・一昔 前に教えし 子の年賀 我と同じき 道を歩むと
12年 ・落日に 染まりし 野辺に 影二つ 草笛響くは 我が妻と子か
・父逝きて 花壇の世話を する母の 後ろ姿が 縮りており
13年 ・諸々の 宝はあれど 我が身には 個性豊かな 四人の子らが
14年 ・こらえても こらえてもなお あふれ来る 涙の中を 教え子巣立つ
15年 ・停年を 迎ふる年の 元旦に 思ひしことは 子らの行く末

18年 ・四十年 前に訪ねし あの紺碧(あお)き 摩周湖みたし 妻子と訪ねん
・我が恋し ピリカメノコの 面影は 今なほ淡く 瞼に浮かぶ
・この十年 喧嘩も忘れし 我が家庭 一重に妻の あの高笑い
19年 ・銀婚を 迎えられしは 只ただに 妻の明るさ 有りて今日あり
・さりげなく 頬寄せ巡る 水族館 密かに思いし 人と二人して
20年 ・目の前で 友の女将(かみ)さん 化粧する あわてふためく 心も知らずに
・美酒(うまざけ)は 欲しき時こそ 飲むべけれと 言いしあの友 今朝早く逝く
・熱帯夜 よさこい踊りで 吹き飛ばす 踊りの渦は 城下を包む
21年 ・霊前で 瞼閉じれば 蘇る 君との出会いの 懐かしき日々
・千年の 時を経てなお 咲き誇る 醍醐の桜に 人は魅せられ
・最北の 宿の女将の 贈り物 帆立の稚貝が 酒を勧め
22年 ・キャンプの炎(ひ) 囲みて旨酒 友と飲む 無上の贅沢 これに如かめやも
・天竜の 女船頭 投網うつ 櫓の音きしませ 舳先を廻して
・吹き上ぐる 風が運べる 室生の瀬の 水音涼やか 奥の院まで
23年 ・蝉時雨 打たれるうちに 雑念が 消えて涼やか 今日の座禅は
・ポケットに 病後の妻の 細き指 絡ませ巡る 雪祭りの夜
・備中の 五重塔は 春風に 揺れるレンゲの 海に浮かべる
24年 ・夜更けまで 小樽の寿司で この旅を 妻と二人で 味わう幸せ
・真夜中も いつしか過ぎゆく キャンプの夜 友との語らい 尽きることなし
・我が下宿(やど)に 転がり込みし 友は今 会社を興し 古希を迎える
25年 ・やっと今 妻と一つに 成りたりと 古希を迎えて しみじみと思う 
    ・流産の 危機を乗り越え 早産の 孫を抱くに 畏れを感ず
    ・登り来て 御堂で座すれば そよ風が どっと噴き出す 汗を吸い取る
26年  ・出口なき 病で日々を 送る妻 時には駄々を 辛くはあるが
・夜も更けて 酒も肴も 尽きて尚 薪の暖で 話は尽きぬ
    ・死期悟る 妻を連れ出し 陽光の 庭の散策 我が腕つえに
27年  ・あれもこれも して上げれたと 悔い残る 遺影の妻は 微笑みており
    ・満開の 醍醐桜を 観ずに逝く 妻との約束 花びらが舞う
    ・再会の 歓びいつか 驚愕に 痴呆の症状 友に見られて
28年  ・傍に居て 只それだけで好いと言う 妻の寝顔は 安らかなりし
    ・アルバムを めくればセピアの 亡き妻子 往時を偲べば 四十も昔
    ・木の梢 メジロにヤマガラ 雀まで 霜降る早朝 熟柿の集う
29年  ・子と孫が 帰りし後の 静寂に 思わず亡き妻 我があり
    ・パパとなり 子供とうたた寝 する息子 傍では新妻 微笑みており