BLUES-ette / Curtis Fuller
私が初めて自分で買ったジャズのCDだ。
当時大学二年だった私は、ジャズの面白さは無論、
楽器を吹くことにすら特に情熱を持てずにいた。
もしかすると、そんな自分を変えたかったのかもしれない。
ジャケットは見たことがあった。Curtis Fullerの名も知っていた。
値段を見ると1500円。ちょうど廉価版で再発されていたのだ。
それまでJ-POPのアルバムが3000円位のイメージだったので、
「安いな~。これやったら買ってみるか」
しかし、聴いても耳が育っていないので、
何がいいのか分からない。
ずっと同じような音が流れ続ける。
マイナーのブルースだからそう思ったのかもしれないが、
名盤と書いてある割には、特に感激を覚えることはなかった。
それからしばらく、聴くことはなかったが、
自分のジャズへの向き合い方、ジャズの面白さが少しずつ分かってきた頃、
意を決してもう一度聴いてみた。
たしか秋口に入ったころだったろうか。肌寒い夜だった。
スピーカーから流れ出てくる音は、相変わらず冷たい旋律だ。
しかし、その冷たさを、温かい音色が包み込んでいる。
体の芯が少し熱くなった。ジャズがもつ空気感に包まれたのだろうか。
以来、秋口になると無性に聴きたくなるアルバムである。
ちなみに、村上春樹の小説「アフターダーク」のタイトルはこのアルバムからきている。

Curtis Fuller(tb) Benny Golson(ts)
Tommy Flanagan(p) Jimmy Garrison(b) Al Harewood(ds)
1.Five Spot After Dark
2.Undecided
3.Blues-ette
4.Minor Vamp
5.Love Your Spell Is Everywhere
6.Twelve-inch
1959年録音(SAVOY)
トロンボーンは不器用な楽器だ。
金属製のスライドを伸縮させ、管の全長を変化させることによって音程を変える。
さらに、トランペットのようにピストンが付いていないので、
すべての音にタンギングをつけることが必要となるのだ。
そのため、素早い動きが苦手である。
最近はすごいテクニシャンばかりがクローズアップされて、
トロンボーンがトロンボーンぽく吹いていない場合もある。
さすがにそれは真似したくても真似できない。
だが、私はトロンボーン本来の魅力はその音色にあると思うのだ。
今日紹介したのはCurtis Fullerのもっとも有名なアルバムである。
Fullerは高度なテクニックももちろん持っているのだが、それに加えて余りある音の魅力がある。
ハスキーで、温かい音色。人の声の高さと同じ音。
私が最も好きな音である。
タイトル曲「Five Spot After Dark」のソロは、決してメロディアスではない。
同じ音を多用して、さほど動きがない朴訥なアドリブ。
しかし、その音色、息遣いに耳をはせてほしい。
同じように吹こうと思っても、なかなかそうはいかない。
ジャズの空気感を纏うとはこういうことなんだろう。
