いつも当ブログに足を運んでくださる方々,ご愛読ありがとうございます。

当ブログは2012年6月から,社会科学習会の情報を広く発信するために作成してきました。

2016年2月より,「社会科学習会ホームページ」を開設することができ,主な情報発信の場はそちらに移行してきました。

ホームページ開設からおよそ3年がたち,ホームページの内容を転載することが多くなったこともあり,このブログをいったん休止し,情報発信はホームページに一本化しようと思います。

(このブログ自体は,社会科学習会の活動のアーカイブとして,消さずにとっておこうと思います。)

これまでのご愛読,ありがとうございました。引き続き社会科学習会を宜しくお願い申し上げます。

 

HP・ブログ管理人

 第143回社会科学習会は、平成31年1月20日(日)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。今回は「新学習指導要領を読み解く」という連続テーマの6回目、講師に樋口雅夫先生(玉川大学教育学部教授)をお迎えしました。副題を「高等学校地理歴史科・公民科」としました。中学校社会科の延長線上にある高等学校の科目の改訂内容を学びました。

1 はじめに

 学習指導要領と解説の内容は変化していない。書き方が変わった。とくに解説は読み物としても耐える内容で、中学校編よりも具体的になっている。高校の課題としての18歳選挙権は、現在の大学2年生が経験し、授業でも模擬選挙や選択行動についての学習が取り入れられた。今の最大の課題は、2022年4月1日から施行される「改正民法の18歳成人」への対応である。現在の中学校2年生がはじめに該当する。金融リテラシーや資産運用(ライフプラン)といった現実への対応も必要となる。

 これまでの高校の課題は「大学入試に左右される教育」であった。授業についての意識調査を見ると、講義形式の授業が多いと答えた教員が多く、生徒もそれを好意的に受け止めていた。そこで、教員の意識改革と大学入試の改革が図られた。例えば、高大接続改革でアクティブラーニングが提言され、入試改革でセンター試験は来年限りで、その後新テストが導入される。プレテストが既に公開された。これに対するためには高校の授業改革が必要となる。また、教員養成課程を含む大学教育の変革も進んでいる。

 今回の高校の学習指導要領改訂は、1989(平成元)年改訂以来の大きな改訂でほぼ全教科の科目にわたっている。地理歴史科には「歴史総合」と「地理総合」(各2単位)が新設され、必修科目となった。また、地理歴史科と公民科の目標を次のように揃えた。

 社会的な見方・考え方を働かせ、 ※ する活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

 ※の部分は地歴科・公民科で異なる。 下線部は筆者(今回改訂の特徴)。


2 地理歴史科

 地理総合については、地理を履修する生徒が少なく、中学校の地理学習で終わっている。現代の社会の変化を考えるとこれでは対応できない。例えば、岡山県真備町ではハザードマップが作られ、全戸に配布されていたが災害が起きた。なぜ、活用されなかったのか? 配布だけでなく読み、活用させる工夫が必要であり、そのための力を身に付けさせなければならない。地理情報を得るためのシステムとしてGISも取り上げた。

 歴史総合については、近現代史を取り扱い、古代や中世は扱わない。歴史の大きな変化を通して歴史の学び方を修得させる。見方・考え方としては、時期、推移、現在との繋がりに着目させる。

 歴史探究は3単位、自分で問いを作る力を身に付けさせることもねらいとする。解説に例示をした。


3 公民科

 科目として「公共」が新設された。1年あるいは2年で履修させ、中学校公民的分野との接続を図った。ちなみに中学校のπ(パイ)型への批判は中教審では出なかった。従来の「現代社会」は小・中学校社会科の10年間のまとめとして選択必履修科目であったが、これから必要な力はこの科目だけでは指導できないので新科目を設置した。高等学校の道徳教育については、これまでは解説で「現代社会」と「倫理」「特別活動」を中核的な指導場面と示していた。今回改訂では、学習指導要領の総則第7款で次のように示した。

 (略)全体計画の作成に当たっては、生徒や学校の実態に応じ、指導の方針や重点を明らかにして、各教科・科目等との関係を明らかにすること。その際、公民科の「公共」及び「倫理」並びに特別活動が、人間としての在り方生き方に関する中核的な指導の場面であることに配慮すること。(p22~23)

 公共については、世の中(公共的な空間)には立場の異なる様々な人がいる。その原因や理由を知ること。また、選択・判断の基準を身に付けさせる。指導に当たっては、専門家や地域など外部の専門家を知り、活用させることを理解させる工夫が必要である。例えば、自由な意思の合致として契約が成立する。しかし、その契約により困ったことが生じたら、消費者センターやクーリングオフを活用させるなどである。

4 質疑応答

Q1 中高接続が言われるが?

 高等学校の教員は、専門家意識が強く、教科教育の意識が薄い。今後は、社会科教員としての意識づけが求められる。

Q2 18歳成人に向けて?

 今回の改訂に当たり、高等学校学習指導要領本文(p98)で「生徒の学習意欲を高める具体的な問いを立て,協働して主題を追究したり解決したりすることを通して」と示し、解説では具体的な授業展開をイメージした記述をした。家庭科では、消費者庁の支援を受けて徳島県で、「『社会への扉』を活用した授業」を先行実施しているので、連携が必要である。高校の授業は1時間がまとまりで、単元としてのまとめがないところが課題である。

Q3 大学入試は変わるのか?

 英語・国語・数学に記述式が導入される。理科と地歴・公民は次のステップになる。地歴・公民は受験科目の選択のさせ方から検討が必要であろう。


 第143回社会科学習会は、平成31年1月20日(日)に新宿区立牛込第一中学校で開催されました。今回は「新学習指導要領を読み解く」という連続テーマの6回目、講師に樋口雅夫先生(玉川大学教育学部教授)をお迎えしました。副題を「高等学校地理歴史科・公民科」としました。中学校社会科の延長線上にある高等学校の科目の改訂内容を学びました。

1 はじめに

 学習指導要領と解説の内容は変化していない。書き方が変わった。とくに解説は読み物としても耐える内容で、中学校編よりも具体的になっている。高校の課題としての18歳選挙権は、現在の大学2年生が経験し、授業でも模擬選挙や選択行動についての学習が取り入れられた。今の最大の課題は、2022年4月1日から施行される「改正民法の18歳成人」への対応である。現在の中学校2年生がはじめに該当する。金融リテラシーや資産運用(ライフプラン)といった現実への対応も必要となる。

 これまでの高校の課題は「大学入試に左右される教育」であった。授業についての意識調査を見ると、講義形式の授業が多いと答えた教員が多く、生徒もそれを好意的に受け止めていた。そこで、教員の意識改革と大学入試の改革が図られた。例えば、高大接続改革でアクティブラーニングが提言され、入試改革でセンター試験は来年限りで、その後新テストが導入される。プレテストが既に公開された。これに対するためには高校の授業改革が必要となる。また、教員養成課程を含む大学教育の変革も進んでいる。

 今回の高校の学習指導要領改訂は、1989(平成元)年改訂以来の大きな改訂でほぼ全教科の科目にわたっている。地理歴史科には「歴史総合」と「地理総合」(各2単位)が新設され、必修科目となった。また、地理歴史科と公民科の目標を次のように揃えた。

 社会的な見方・考え方を働かせ、 ※ する活動を通して、広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

 ※の部分は地歴科・公民科で異なる。 下線部は筆者(今回改訂の特徴)。


2 地理歴史科

 地理総合については、地理を履修する生徒が少なく、中学校の地理学習で終わっている。現代の社会の変化を考えるとこれでは対応できない。例えば、岡山県真備町ではハザードマップが作られ、全戸に配布されていたが災害が起きた。なぜ、活用されなかったのか? 配布だけでなく読み、活用させる工夫が必要であり、そのための力を身に付けさせなければならない。地理情報を得るためのシステムとしてGISも取り上げた。

 歴史総合については、近現代史を取り扱い、古代や中世は扱わない。歴史の大きな変化を通して歴史の学び方を修得させる。見方・考え方としては、時期、推移、現在との繋がりに着目させる。

 歴史探究は3単位、自分で問いを作る力を身に付けさせることもねらいとする。解説に例示をした。


3 公民科

 科目として「公共」が新設された。1年あるいは2年で履修させ、中学校公民的分野との接続を図った。ちなみに中学校のπ(パイ)型への批判は中教審では出なかった。従来の「現代社会」は小・中学校社会科の10年間のまとめとして選択必履修科目であったが、これから必要な力はこの科目だけでは指導できないので新科目を設置した。高等学校の道徳教育については、これまでは解説で「現代社会」と「倫理」「特別活動」を中核的な指導場面と示していた。今回改訂では、学習指導要領の総則第7款で次のように示した。

 (略)全体計画の作成に当たっては、生徒や学校の実態に応じ、指導の方針や重点を明らかにして、各教科・科目等との関係を明らかにすること。その際、公民科の「公共」及び「倫理」並びに特別活動が、人間としての在り方生き方に関する中核的な指導の場面であることに配慮すること。(p22~23)

 公共については、世の中(公共的な空間)には立場の異なる様々な人がいる。その原因や理由を知ること。また、選択・判断の基準を身に付けさせる。指導に当たっては、専門家や地域など外部の専門家を知り、活用させることを理解させる工夫が必要である。例えば、自由な意思の合致として契約が成立する。しかし、その契約により困ったことが生じたら、消費者センターやクーリングオフを活用させるなどである。

4 質疑応答

Q1 中高接続が言われるが?

 高等学校の教員は、専門家意識が強く、教科教育の意識が薄い。今後は、社会科教員としての意識づけが求められる。

Q2 18歳成人に向けて?

 今回の改訂に当たり、高等学校学習指導要領本文(p98)で「生徒の学習意欲を高める具体的な問いを立て,協働して主題を追究したり解決したりすることを通して」と示し、解説では具体的な授業展開をイメージした記述をした。家庭科では、消費者庁の支援を受けて徳島県で、「『社会への扉』を活用した授業」を先行実施しているので、連携が必要である。高校の授業は1時間がまとまりで、単元としてのまとめがないところが課題である。

Q3 大学入試は変わるのか?

 英語・国語・数学に記述式が導入される。理科と地歴・公民は次のステップになる。地歴・公民は受験科目の選択のさせ方から検討が必要であろう。