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夏。

その年の8月の終わりに、あたしはその時の彼と別れた。

愛情はもうなかった。しがらみと情でしがみついていた。

ひとりになってもそれなりに忙しくなっていたし、車の免許も取りに行っていた。

9月になって、仕事と教習所の2足わらじの生活のおかげで体重も落ち、おしゃれもするようになった。


アッとゆうまに9月も終わろうとしていた頃、あたしはひとつの恋に落ちてしまった。

好き、とも言われずに、あたしも言わずにただ身体だけを繋げてしまった。
その時は言葉なんか要らないと思っていた。


その夜の星空に、嘘をつきながら。


次の日、シンに話をした。
シンも知っている人だったので、すごく驚かれた。

まだ暑さの残る日差しの中で話をしたのを覚えている。

その時に彼が一言口にした。


「俺は昨日別れちゃったよ」


あたしは自分の話ばかりしていたので、シンが寂しい状況なのを見抜けなかった。

それから間をおかずに、シンには好きな人が出来た。


「今度一緒にライブに行くんだ」


仕事先で知り合ったお客さんだということ。
彼女の方からメルアドを渡してきたということ。
音楽の趣味がとても合う人だということ。


シンは彼女と会うたびにいろんなことを嬉しそうに話してくれた。

あたしもその恋が楽しかったので、色々話した。


一緒のシフトの時に彼女が店に来た。

前の彼女とは打って変わって、小さな人で無口な人だった。
あたしはいつもののりで話し掛けられずに、シンが嬉しそうに見送りに行くのを黙って見ていた。


帰ってきた彼にあたしは彼女を見た感想をバイトの子と言っていた。

あたしが「さっきチュウでもしてきたんじゃない?」とふざけて言うと、シンは真っ赤になってしまった。

それが少し心に響いた。


シンは彼女のことを「今までにない、自分からものすごく好きになったヒト」と言っていた。

彼女にはその時遠距離になる彼氏が居たのだが、シンは初めて押す姿勢をとったらしい。
「結婚しようとか言っちゃったよ」と大真面目に話していた。

確かにあたしから見ても、シンは「君がよければいいよ」の姿勢が似合う男だ。
ヒトの立場を優先するヒトなので、今までの恋愛も告白されて、でやってきたようだ。


その彼が変わったくらい、彼女に惚れ込んでいる。

あたしは「変わるもんだなぁ」と思った。


しかし、程なくしてシンは彼女の遠距離の彼とのことで揉めたらしく、一時的に距離をおくことになった。

かなり揉めたようで、手に傷が残っていた。

感情的になるシンは見たことが無かった。
彼は其れまで穏やかなヒトだと誰もが思っていた。

箍が外れるほど、恋愛に打ち込んでいた彼を初めてあたしは見た。

同時に彼女はすごいんだなぁ、と思った。


ヒトを変えるヒトっていうのはすごいからだ。


あたしはというと、いつも都合がいい時にあって身体を重ねるだけで進歩が無かった。
なのに好きな気持ちは増してゆく一方で、踏み込めない自分に苛立った。


彼女と距離をおいたシンと、進化の無い恋愛をしているあたし。


あたしは秋が始まりだした10月に、シンとふたりで飲み明かすことにした。


これが初めて、ふたりきりで会う約束だった。

夜明け。

会社の仕事が忙しくなって、しょっちゅう朝帰りが続いた。

やってもやっても終わりの無い仕事の量にうんざりする暇さえも無かった。


シンもずっと彼女さんをひとり、お家に残して辛そうだった。


あたしは一緒に住んではいたものの、もうそこに綺麗な恋愛感情は無に近くて。

もやもやを仕事で晴らそうとしてる部分さえ見えた。


期限も迫ったある日、その日も3時くらいまで居残りしてた。


途中。彼が携帯を持って、外へ出るのが数回。


背中を見ながら、あたしは少し胸がもやもやしていた。


「帰りなよ」


仕事はヒトが減っても何とか大丈夫そうだった。

それよりもひとりで待ってる彼女が可哀想で、シンの体力も限界に見えた。


ひとりでよく待たされていたその頃のあたしには、その辛さがよく分っていた。


「ごめんね」


シンの顔が少し和らいだ様に見えた。

そんな顔を自分の彼氏にはもうきっとさせてあげられない、あたしは作り笑いしか出来なかったと思う。


その夜はとても長かった。


夜が明けてきて外へ出た時、シンはちゃんと彼女さんと一緒に寝られたかな、と思った。


一区切り終えて、帰路に着いたのは明け方8時。

途中に寄ったコンビニのパンコーナーで、シンがよく食べる菓子パンを見た。


全ては必然だから、と思うけど、やっぱりあたしはこのときから、彼を特別な目で見るようになっていたのかもしれない。


それが恋愛だと認めなかったのは、それだけシンが大切な存在だったんだと思う。


残業。

あたしの恋愛はその頃、いつも堂々巡りだった。

大人になりきれずに、寄りかかってばかりで。

相手に期待ばかりしては、追い詰めていることにさえも目を向けられない。


自分のしたいこと、やりたいことが何もなくなる気がして、恐いとさえ思っていた。


自分が動き出さなくては、事態は何も変わらないのに。

それすらもしようともせずに、相手に自分の人生丸ごと押し付けては、罪悪感と恋愛感情の間でもがいていた。


シンが彼女と暮らしだす、少し前。

とても寒かった夜に2人で残業をした。

発泡スチロールを切りながら、大きな販促用のPOPを作る。

まだその頃のシンはパソコンを覚えたばっかりで、一緒に手作りで作った。


そのときに交わした会話は覚えていない。

でもいつも一緒に仕事をしていたと思う。


あたしの話はいつも繰返しなのに、投げ出さずに答えを考えてくれるのが単純に嬉しくて。

どうしようもなくなってきてた自分の恋愛を、また仕切りなおす力をもらったようで頑張れた。


シンにも色んな悩みが在ったと思う。

それを聞いた記憶がその頃に無いのは、それを聞いて答えを出せるだけの力量が、自分には無かったんだろう。


彼女さんに会う。

あたしはそのときの彼氏と付き合いだしてすぐ、同棲を始めた。

転がり込んだに近いんだけど。


シンとは相変わらずいろんな話をしたり、時には仕事のまじめな話をしたり。

『同僚』としての付き合いだった。


春が来て出会って一年半が経った頃、シンはあたしに「彼女とこっちで一緒に住もうかと思う」と話をした。

まだ会った事が無かったので、あたしはどんなヒトだろうか、とわくわくしてる気持ちでいっぱいだった。


暮らし始める少し前に、シンは彼女さんとお店に遊びに来た。


初めて会った彼女さんはおっとりした感じのする、明らかにヒトが良さそうな天然ボケなヒトで。

すっかり上がってしまったあたしは、初対面で飛ばしまくって、変なことを言っていた。


「彼女さんだから、『夫人』って呼びますね!」

笑って返してくれたけど、今思うと正直苛苛したはず。


それから着々とシンたちは新居探しを進めて、彼女さんのこっちでのバイトも決まって。

スタッフの中では結婚するんだろうね、なんて言い合ってた。


あたしも、本気で思ってた。

新しい彼女。

彼とメルアド・携帯番号の交換をしたもののたまにメールを送るくらいでお互いの恋愛に夢中だった。


彼のことをあだ名で呼んでしまったり、自分がその頃通ってた美容室を紹介したり。


その頃、シンは彼女と別れた、と話をしてくれた。

お互いの都合で上手くいかなくなったらしい。


そのときあたしは美容室で仲の良かった美容師さんを紹介してあげた。

そのヒトと遊んだりした、とか話を聞くと上手くいくかな・・と期待してたんだけど、シンはあっさり別の新しい彼女さんを作った。


「この間、初めて二人で遊んだんだ」

「そうなんだ!?どこに行ったの?」

「ちゃんぽん屋さん・・・」

あたしはその時、本気でシンはその辺のファミレスとかじゃなくて、すごいお洒落なバーとかに行ってるんだろうな、と思ってた。

彼は以前ギターで食べていきたいほど、音楽に夢中だったと聞いたし。

話し方も方言くさくないし、とにかく都会的だった。


だから最初のデートでちゃんぽん屋さんなの!?と思ってしまった。

口に出すと、「え?変かなぁ・・」とちょっとムッとしてた。


新しい彼女が出来てから、シンはよくその話をしてくれるようになった。


そのうちに、シンは実家から出て同じスタッフとアパートに暮らしだした。

いわゆる会社寮みたいなものなんだけど。


でも彼女さんは市外の人で、結局のところ二人でお部屋でまったり出来ないから、ラブホ代が馬鹿にならない、なんて話もよく笑い合ってしてた。


シンみたいなヒトもラブホに行くんだ、とあたしは思ってた。

あたしにとってその頃のシンはお兄ちゃんみたいなヒトで、自分の知らない世界もたくさん知ってて、尊敬してた。

そんな彼にも『男』の部分が当然あるわけだけど、その頃のあたしにはすごく不自然に思えた。

芸能人みたいに思ってたのかもしれない。


一緒に住んでたスタッフから、よく彼女さんが来た時の話も聞いてた。


実際に会った事がなかったあたしは、その噂の(って言ってもあたしたちが勝手に話題に出してたんだけど)彼女さんを見たくて堪らなかった。


あたしにも新しい彼氏が出来て、あたしはまたその彼氏に突っ走っていくことになる。

メルアド。

あまり一緒に入ることがそれから少なくて、1ヶ月くらい経った。

年末年始に入って、忙しくなり始めた矢先、彼と一緒に入ることが多くなった。


シンはあたしよりも学年が3つ上で、とても落ち着いた喋り方をするヒトだった。

聞き手に回ってくれることが多くて、世間知らずなあたしの話にも付き合ってくれた。


ものすごく色々無理矢理話していたんだと思う。


お互いの恋愛の話もした。

きっとシンの彼女はすごく可愛いんだろうな、と純粋に思った。

話してくれる彼の顔も、嬉しそうで、あたしも聞いていて嬉しかった。


月末も近くなって、来月のシフト希望を出すときに、彼が1枚のメモを持って必死に日にちを調べてた。


「なあに?それ?」

「彼女の休み」

「いいですね~」

確かそんな会話を交わしたと思う。

あたしはそのとき休憩中で、彼はもう上がりの時間だった。


「そうだ、携帯交換してくださいよ」

「うん、いいよ」

ものすごくあっさり言ってしまった、ちょっと失礼だったかな、と思った。


その日の夜、あたしは彼にメールでそのときの彼氏の相談をした。

あたしが付き合ってた彼は別の土地に就職することがもう決まっていて、遠距離確実だった。


彼の優しい性格に甘えてたのは確かだと思う。

でも彼と恋愛関係になろう、という思いは実はちっともなかったのです。


彼はあたしが送ったメールにすごく長く返してくれた。

その文章を読みながら、あたしはココロが軽くなっていく思いがした。


その夜は彼のメールアドレスと彼がくれたメールを繰返し眺めていた。


結局その恋愛も終わってしまうわけですが。

出会い。

彼が着ていた、青いジャージっぽいトップスと、すらりと伸びた長い細い足。


耳に光る3つのシルバーのリングのピアス。


最初に交わした言葉を、あまり覚えていない。


あたし、レイと彼、シンは勤め先で知り合うという、とてもありきたりな出会いでした。


あたしが掛け持ちで始めた本屋のバイトに、少し遅れて入ってきたのが彼だった。


初対面のヒトにはなかなか顔を合わせて話す事の出来ないあたしは、彼の顔を上手く見れなかった。



少しして、ひとりでレジ番をしてたあたしの元へ彼がちょこちょこやってきた。

持っていた作業用の道具の使い方が分らなかったみたいで、覚えたてだったあたしも一緒になって考えた。


そのとき、少し笑いあったのを覚えてる。


あたしにも、彼にも、そのときお互いに彼氏と彼女が居た。


今のあたしたち、想像もつかなかったんだ。

はじめまして。

このブログで綴ることは、管理人・レイの過去の産物です。


とにもかくにも、『ありのまんま』全開でやっていきたいと思ってます。


どうぞ気長に読んでってください。