翌日は朝からよく晴れていた。

どうしようもなくて、ぐるりと軽いドライブに突入しそうになりながら、

結局ぶらぶらとショッピングセンターを回ろうということになった。


駐車場に着いて、車を降りる。

ふと右側に立った彼が、ぎゅっと手を握ってきた。

そして私の顔を覗き込んだ。


びっくり。

あわてて、にっこり微笑んで答えてみたけど、、

昨日の今日で、手を繋いできた。

やっぱりこれってデートなのか。

彼は私を少なからずとも、そういう風に見てたってことか。

変に納得しながらも、満足そうにそのまま手を繋いで店を歩く彼を

不思議な気持ちで見ていた。


結局見たい映画もいい時間になく、

じゃお昼だけ食べようか、せっかくだし、ということに。

「何食べたい?」

「じゃ、、前回食べ損ねたパスタ食べたいかも」

「そうだったね。じゃ、そうしようか?」

そう言って入ったレストラン。

私の顔をじっと見るので、どぎまぎしながら「何?」

すっと手が伸びて、目の横についているゴミを取ってくれた。

「ありがと」

そのまま横髪をすっとすくって、ピアスを見る。

「・・・痛そ~」

どんなピアスしてるか気になるくせに、ピアスは貫通してるから痛そうらしい。


食事をすませ、レジにて。今回は先に自分の分ね、と渡しておく。

「じゃ、いただきます」そういって受け取り会計を済ませ、車に戻る。

「どうしようか?」

しばらく、沈黙が続く。

ふと駐車場の外を見て、今日はいい天気だな。暖かいな、とぼんやり思う。

「海、行こっか。なんか見たいかも」

「海か、それもいいね」

あっさり決定。

ぶーんと車を走らせて、車のまま砂浜までいける海水浴場に向かう。

特に行き先は先に言わなかったけど、きっとそこだろうと思いながら、

助手席で大人しくしてる。

ふと眠いなぁ、でもここで寝れないよな。

なんて思っていたら、「あぁ~なんか眠くなっちゃうね」

と言ってしまった。

「寝ていいよ」

いやいやそう言われて、はい。って寝れないでしょ。


そう思っていると、彼の左手が、私の座席の肘掛に乗ってる。

あらら?

しかも何かの振動でその手先が私の太もも横に落ちた。

私の足を触っている格好。

私はあえてよけずにいたのだけど、彼も動かさない。

あの、これ、分からないわけないよね。当たってるって。


1人でポーカーフェイスしながらドギマギしてるうちに、海岸に着く。

何台か車はすでに停まっていたけど、それを避けるように真ん中付近に車を停めた。


やれやれ、と私に振り向くと、ぎゅっと抱きついてきた。

運転手側の景色を見ようと身を乗り出した隙だったので、

自然に体にまとってきた彼の両腕に、躊躇するヒマはなかった。


無言で静かに私の胸に顔をうずめたまま、時が流れる。

10分ほどして、ふと私を見上げた彼は、そのまま私に唇を重ねた。


・・・そういうことか。

またもやようやく彼の気持ちを理解、納得できた私。

彼は、やっとここまでたどり着けたよ。

って顔をして、何度も唇を重ねる。


何度も唇を重ねてくるのはいいんだけど、抱きついてくるのもいいんだけど、

所詮車だから、運転席の車窓なんて外から丸見え!

他の車にいる人や、外を歩いている人からは完全に見えるので、

私1人普通に座って外を見れる状態としては、すごく恥ずかしい。

気づかないフリをしてたけど。


彼って大胆すぎない?びっくり。


・・・でも思えば、キスはされたけど、告白もされてない。。(気にしすぎかな?)

金曜日の終業後、迎えにきてもらうことになった。

が、相変わらず店を決めてない私たち。
またグルグル取りとめもない話をしながら遠回りドライブをする。
ふとこの通りで友達といった店はなかなかおしゃれなイタリアンだったと
思い出し、その店に行ってもらう。。
が、場所は曖昧だったから、反対車線に出ちゃうし、
せっかくついたら貸切だったで、散々。。

もう怒ったよね?
もうごめんなさい。。
ひたすらすまなそうに謝ってみた。

「全然気にしてないですよ」
とこちらを気遣うくらいに、にこやかに返してくれた。
ほっとした。あぁよかった。

結局ぐるりと帰ってきてしまった近所の居酒屋で食べることに。
もちろん彼は運転なので、私もお茶、、
「1杯くらい飲んだら?」
と彼。
そういわれてしまうと、「そぉ?」とカクテルを頼むことに。
カシスグレープフルーツ。ひたすら酸味が強そう。

「かんぱーい」
とグラスを合わせ、一口。「カシスが強い?」
と首をひねっていると、横から手がぬっと伸びてグラスを持っていった。
「そう?グレープフルーツの味もするけど?」
運転手のくせに、一口もらっていってしまったのだ。
こういうときはドギマギするもんだけど、
ここは平然としてた方がいいのか?
と変に強がって「そう?グレープルーツの味もする?」
ともう一度飲んでみた。

・・・こういうことするってコトは、、、いや、友達でもする場合あるしな。
妙な期待をしつつ運ばれた料理を口に運ぶ。

思えば同じ皿で取り皿なしでつついてる。
いや、これも友達と鍋行けばそうやって食べるしな。
イチイチ突っ込む自分も悲しかったけど、期待しすぎる心にブレーキをかけてた。

食べ終わって休んでいると、背中に感覚があった。
彼が背中に付いたゴミを取ってくれていたのだけど、
あの、そこ、、ブラのあたりなんだけど。
変にドギマギ、意識しすぎ。

男って嫌な女には触らないっていうし、、
しかも2回もこうして会ってくれてるし、しかも明日も。
これって、、これって、、、
妙な期待をしつつ、、、

「そろそろ出ようか?」
と切り出して、お会計。
こういう時ってレジで割り勘にするのっていい大人が格好悪いよね。
かといって「ご馳走様」って逃げちゃうのは悪すぎ。
私がご馳走しちゃうのも、男の人としてはプライドもあるだろうし。
ということで毎回パターンが決まるまでは、迷うんだけど、
とりあえずレジでは彼に任せて、
私の分は車に戻ってから払おう、ということに決めた。(勝手に)

「外に出ると一気に寒いね」
「そうだね」
車に乗って暖気をしている間に、さっきの合計金額をざっと割り、
「はい。」
とちょっと多めに差し出してみた。
「いいよ。2000円で」

と少なめにもらってくれた。

そっか彼は6:4くらいの割り勘かな?
ちなみに前の彼氏は全額おごりだった。思えば奇特すぎだったのかも。

「明日って何時?」
「何時でも。朝早くても遅くても」
「6時とかでも?」
「うん、来いっていうなら行くよ」
「・・・いや、それは早いな。。」
「9時でも10時でも、都合のいい時間に」
「それなら10時がいいな」
「じゃ10時に。行きたいところ考えといてね」

「はい・・」

ランチのお礼のメールを送ると、

「またよかったらどこか行きませんか?」と返事が来た。

よかった。私はすごく楽しかったけど、彼も楽しかったらしい。


もちろんまたどこか出かけましょう、と返事を出した。


2日後、「平日と休日どちらが都合いいですか?」と。

彼には電話番号も教えてあるのにいつだってメールだ。

時間気にしなくていいから私は楽でいいけど。。

「どちらでも大丈夫ですよ」

「ホント?」

「自宅だからあんまり夜は遅くなれないけどそれでもよければどちらでも」

「じゃ両方」 両方?

「両方って?平日と休日と・・・?」

「だめだった?」

「もちろん、大丈夫だよ」

「じゃ、金曜と土曜に」

「続くね~(笑)いいよ。じゃとりあえずは金曜日に」


またご飯のお店考えなきゃ。。

当日は雨が降っていた。

持ち歩くとうっかり忘れてしまうので、いっそのこと傘は持たない私だけど、

さすがにこれだけパラパラ降っていて、

しかもデート初っ端から雨で濡れた女ってのもどうかと思い傘を差すことにした。


もう、、いる。

近づいて傘を上げると、運転席からひょこっと顔が見えたのでにこっと笑って、

「待ちました?」

ふるふると彼が細かく首を振る。


助手席のドアを開けて、、ふと思った。

余計な心配なんだけど、こういうとき助手席に座っていいものなんだろうか。

彼女とかもしいるんだったら、ここに私が座っちゃまずいんだろうか。

・・・って私の誘いに乗ってくる時点でそういうこと考えてる場合じゃないけど。

「後ろの方がいい?」 

「いや、こっちに」

助手席によいしょ、と座って彼を見たら、ちょっと緊張が和らぐ。


「どこ行きます?」

そーなんだよね、そこなんだよね、、

日ごろ友達が話してくれるカフェやレストランを必死に思い出す。


「行った事ないんだけど、近くにカフェが出来たらしくて、、そこでもいい?」

「じゃ、どの辺ですか?」

ほとんど話したことがない、というのがウソみたいに話が出てくる。

ふと沈黙になっても困らなかった。

店に着いて、初めての店で多少戸惑いつつも、

とりあえずお互いオーダーしてもくもく食べ始める。

食べながらふと見上げると、、彼がなんだかすごくニコニコしてる。


こんな顔、始めて見た。

すごく嬉しそうで、楽しそうで、私のやることに時々噴出したりもしてる。

普段の真面目そうなほとんど無表情の顔を忘れるほどだった。

・・・おかしなことしてるのかしら?私。

無駄にあたりを見渡したり、彼の後ろの景色に注目して反応してしまってたから、きっとそれが面白かったのかもしれない。

我ながら落ち着きない28歳だ。


でもこんな調子で、ランチの後も彼のニコニコは続く。

その後、もてあまして話題の映画を見て、

行きたい場所もないのでどうしようか?なんて言いながらもグルグルと遠回りドライブ。

私はずっと話をしていたかったので、彼の運転疲労とガソリン代が気になったけど、気にしないフリをすることにした。


ふと休憩がてらに寄ったドライブエリア。

すっかり観光地になっていて、悪天候ながら長距離バスが何台も停まってた。

風が出てて寒かったけど、車を降りて歩いてみることにした。

手が触れそうに近い距離。

むしろ肩と頬がぶつかる。手の甲もぶつかる。


ねぇ、今更だけどこれって、本当にデート?

彼はどういうつもりで今ここに私と歩いてるんだろう。


友達からのメール返信を打ってる私を和んだ顔で見てる彼を横目で見ながら、

・・・いろんな思いを交差させて家路に付くことにした。

次の朝、引き出しに名刺が入ってた。

「ここにメールください」

ケータイのアドレス付だった。

そーだよね、社内メールでやりとりはしにくいよね。


その名刺をひとまずカバンにしまって、

夜に改めてメールをすることにして、店を考えた。

というか時間すら正確に決めてなかった。

そのくらい何も考えてなく、とにかく「メールを出した」ことが重要すぎて、

具体的にどうするとかこの先のことなんて一つも考えてなかった。


・・・お任せします、ってことはきっと私が全部セッティングした方がいいんだろうな。


とりあえずランチだから昼前にどこかで待ち合わせ、、

料理や店の好みもあるからやっぱりあとで聞いてみよう。

夜にそれも合わせてメールしてみた。


「お家どの辺ですか?迎えに行きますよ」

一応年下なのでいつまでも敬語だ。

なんだか2歳とはいえ年下に敬語を使われるときほど年を感じることはない。

もともと学生の頃からだけど敬語を使われるのは苦手。

敬語で優位に立ちたいという学生特有のあの考え方が好きじゃなかった。


「家は団地の中なので、近くのコンビニの前で待ってて。そこまで行きます」

店は2人で考えようと思った。何か提案してくれるかもしれないし。

遠距離の彼氏と別れて1ヶ月。
前から気になる人に社内メールでご飯に誘ってみた。


1年以上一緒のフロアにいるけど、ほとんど話したことがない人。
だけど、今月イッパイで私はこの職場を離れることになる。。


今しかない、そう思った。

もし気味悪がられてスルーされても、避けられても、

時期的になかったことに出来るかもしれない。

・・・そんなずるい逃げ道を用意しながらだったけど。


実は半年前に逆に誘ってもらったことがあったのだけど、

びっくりして思わず無言で断っちゃったことが躊躇われて1週間以上悩んだ。

あれからずっと気になってました、なんてむしが良過ぎる。

でも、今更だけど彼と繋がりを持つには私から動くしかない。

そして今を逃したら、きっともう二度と会えない。。


『おはようございます。この間はごめんなさい。

 もしよかったらご飯でもいかがですか?』

あまりにもベタすぎるメールに、我ながら文才のなさを嘆いたけど、

思い切って「送信ボタン」を押して、午前の仕事を始めた。

「メール、見ました」

お昼休みに不意に後ろから話しかけられた。

気づくの早っ!
いやもちろん気づいて欲しかったけど、メールが返ってくる方を期待した上に、

むしろメールに気づかないで、スルーすると思ってた。。
「あぁ!ごめんなさいっ」

思わず謝る。メール出したのこっちなのに。

とにかく恥ずかしくて逃げてしまいたかった。


「いつでもいいです」

私が何も言う前に、そう言い切った。

「・・・都合の悪い日とかない?」

「おまかせします」 そう言われてもな。。

「・・・わかったまた連絡するね」


いきなり夜ってのもな、、とりあえず日曜のランチということにした。