ヴァンホーテン ~森永に逆らった男~
苦汁を飲まされる。いや、自ら苦汁を飲んだのだから当然の結果だったのかもしれない。 「中秋の名月が8年ぶりに満月になります。」ニュースキャスターが嬉しそうにそう言っているのを見ながら、今時縁側でお餅を供えてお月見する人なんているのだろうかと考えていた。時計を見ると18時。答えも出ないうちに僕は晩御飯の材料を買いに出かけた。スーパーに行く前にドラッグストアに寄った。部屋用の消臭剤。これが目当てだった。その消臭剤をかごに入れた。買う予定のものはそれだけだったから、レジに行きかけたが、「せっかく来たのだから一通り店内を見よう、新商品があるかもしれない」と思いレジとは反対方向に歩いた。通路を歩きながら、棚の方をチラチラ見る。あ、ココアだ。森永の見慣れたパッケージがそこにあった。まだ9月でココアを飲むにはまだ早かったが、久しぶりに飲みたいなと思い、手に取りかけた。その瞬間、森永のとなりから気配を感じた。何かと思って見ると、そこには初めて見るココアがあった。VAN HOUTENパッケージにはそう書いてあった。読み方はヴァンホーテン。よく見てみると、「カカオポリフェノール720mg 食物繊維5.7g」とか「ハイカカオ72%」とか「大人のほろにがココア」とか書いてある。明らかに森永よりも高級そうではないか。そして何より、「大人」。そんな言葉に敏感な22歳男子はこれを手にとらざるを得なかった。ドラッグストアから出ると、名月が建物の間からこんばんはしてた。 次の日、ココアを買ったことを思い出したのは、晩御飯のためお米を研いで炊飯器にセットした後だった。夕方、鈴虫の鳴く中、ココアを飲むのもまた一興かなと思いながら、ヴァンホーテンを見た。濃い茶色に赤と金色。森永とは違い、高級そうだった。牛乳をレンジで温め、ヴァンホーテンを入れた。見た目は森永よりも少し濃い気がした。これもハイカカオ72%のおかげだろうか。やっぱり森永より高級なのかなと思いながら窓際に向かった。窓を開け、腰を掛け、淡い茶色い液体に目を向ける。「さて、ヴァンホーテンとやらはどんなもんかな。」心の中で呟いて、飲んだ。あー、ちょっと苦い。そしてあんまり甘くない。そう思った。もう一口飲んだ。また同じ感想が出てきた。まずいわけではなかった。しかし、何かしっくりこない。僕はすっかり鈴虫のことなんか忘れてヴァンホーテンを口に含みながら、しっくりこない原因を考えていた。その原因は意外とすぐに分かった。それは、僕がココアに求めるものは安心感であるということ。温かいココアを飲んだら、ふぅ~と息をつきたい。しかし、僕はハイカカオのチョコレートの苦みが苦手だった。ヴァンホーテンを飲んで思い出した。すなわちハイカカオの苦みがあるせいで、ヴァンホーテンで息をつくことが僕はできない。これがしっくりこない原因。ココアを飲んでいるのにふぅ~と息をつけないという、この苦しさ。耐え難かった。ヴァンホーテンを飲み干したコップには、溶けきらず残った粉はほとんど無かった。「森永より高級そうだ。」そんなことを思って慣れ親しんだココアを裏切り、喧嘩を売った結果がこれだ。苦汁を飲まされた気分だった。いや、自ら苦汁を飲んだのだから当然の結果だったのかもしれない。月はまだ出ていなかった。 ヴァンホーテン ~森永に逆らった男~はい、サークルに全く関係ないただの僕の実体験でした。ここまで読んでくれた方ありがとね。多少脚色は加えてます。肝心のサークルの方は驚くことに夏休みまだ一回もできてないっていうね。ていうか10月12日までサークルやるなと大学側から言われてるから夏休みのサークルは無し。なんで緊急事態宣言は9月28日までなのに、サークルは10月12日までやっちゃいけないのさ!って大学側に言いたいよね。誰か言ってくれないすか。逆らって苦汁を飲まされるのは僕はもう勘弁なんで。