続きです。
やっとギュの出番が参ります。兄さんの事が気になり過ぎて仕事なんて手に付かなそうですが、そんな彼のご帰宅!!
なーのでサクサクっと行ってしまいましょうか。
兄さんこれからどうなっちゃうの!?なんて少しでもハラハラして下さった方はどぞっ!!
【キュヒョン君の憂鬱22】
長男二人が帰り夜の9時を過ぎた頃、キュヒョンがやっと帰宅した。
その表情は何だか疲れ切っている様に見えて、痛い体を動かしてキュヒョンの足元へと歩み寄る。そんな姿を目にしたキュヒョンはスッとしゃがみ込みイェソンの小さな頭を優しく撫でた。
「…ただいまヒョン、お風呂にでも入りますか?」
何か言う前に言葉を止められたような気がして、イェソンは口を開かないまま小さく頷くとキュヒョンの首筋へと腕を回した。
「痛みは強くなって無いですか?」
湯船へと浸かりながら、イェソンの肩へユックリとお湯を掛ける。痛みに刺激を与えないように気を使ってくれる姿は今のイェソンの目には何だか痛々しく映った。
きっとコイツは未だに自分が何かの弾みでこの世から消えてしまうんじゃ無いかと恐れている。大丈夫だとヒチョルから電話を通して聞いている筈だが、それでも信じられないのだろう。
相向かいで抱き締めてくる相手の瞳をキョトリと見つめて、イェソンは濡れた小さな手をキュヒョンの頬へとソッと当てがった。
「…お前こそ…だいじょうぶか?」
コトリと首を傾げる姿を少し色素の薄い瞳が捉える。その瞳は何処か虚ろで、イェソンの姿を映しているのにもっと遥か遠くを見ているような気がした。
「なに人の事なんか気にしてるんですか…」
貴方の方が全然大丈夫じゃない癖に……
浴室へと響く声はやはり何時もの彼とは明らかに違う響き。それに何か言おうとして、イェソンの言葉はまたキュヒョンの声に止められてしまう。
「ほら、そろそろ上がりますよ?」
湯中りを起こしちゃいますから。フッと微笑んでくる顔が、イェソンには偽物の笑顔に見えた。
フカフカのタオルに包まれたままキュヒョンの部屋へと連れて行かれて部屋の中心辺りに下ろされる。イェソンの着替えはキュヒョンのクローゼットへと詰め込まれていて、そこから寝間着を出そうとコチラに向けたままの恋人の背中をイェソンはジッと見つめる。
今のコイツは自分の言葉を聞こうとしない。いや、聞きたく無いのかもしれない。もし自分がこの恋人にとって嫌な言葉を口にしたら…
そう考えているのだろうか?だから自分に喋らせる暇を与えないのかもしれない。
イェソンは未だ自分へと背を向けたままの恋人へと近付き、その背中を小さな体で覆い隠した。
「キュヒョン……」
ビクリと揺れた背が今の彼の精神を表しているようで、心が痛くなる。
包み込んだ背中は小さなイェソンには大きくて、腕なんて全然回せないデカさだけれど。それでもイェソンはタオルから腕を出してキュヒョンの大きな背中を目一杯抱き締めた。
「お前…なんかおれに言うことナイの?」
抱き締めた体がまたビクリと揺れる。それでも答えない背中へと頬を寄せて、イェソンは瞳を閉じた。
「おれが…いなくなるって」
「ヒョン、今日はコレを着ましょうか。」
また言葉を遮られる。抱き締めていた背中は簡単に離れて、此方へと向いた体はイェソンを拒絶するように少し離れてしまった。
「キュヒョ…」
「ほら、背中に天使の羽根が付いてますよ?コレってトゥギヒョンが」
「キュヒョナ。」
静かな声で呼んだキュヒョンの愛称。
イェソンの真摯な眼差しを避けるように、キュヒョンは顔を背けて口を閉ざす。何も聞きたく無いんだと全身で訴えてくる体を、今度は真正面から抱き締めた。体が小さいから、抱き締めてやれるのは彼の頭が精一杯だけど。
自分の胸元へとキュヒョンの頭を抱え込んで、柔らかい茶色い髪を優しく梳いてやる。
「…キュヒョナ…すこしはおれのはなし、きけよ…」
キュッと抱き締めた頭から力が抜けたのが判った。拒絶していた体は諦めたように力を無くして、床に胡座をかいたまま座り込んでしまう。
「お前…なにがそんなにこわい?」
優しく撫でる髪へと唇を落として、キュヒョンの言葉を引き出す。自分へと心の闇を告げる事など滅多に無いキュヒョン。どんなに仕事で悩んでたって、一人で悩んでその事を口に出したりはしない。それが何時も気になっていた。だけどそうやってこの恋人は自分へと負担を掛けたく無いのだろうから、敢えて聞いたりはして来なかった。だけど、今回は違う。
これは自分に関わる事だ。それを取り払えるのは多分、自分しかいない。
「おれは、いまココにいる。」
なのに何が怖い?
キュヒョンの闇に触れる言葉を敢えて告げて。そうすればダラリと投げ出されていた腕がイェソンの体へと回されて、力無く抱き締めてきた。
「………かもって…」
「……もういっかい…」
イェソンの体に巻かれたタオルへと顔を押し付けたままの言葉はくぐもっていて、何を言われたのかが判らない。本当は言うだろう言葉は判っているけれど、もう一度促してやる。それに今度は先程よりも少し大きな声がイェソンの耳へと届いた。
「…貴方が……いつか僕の前から消えるかもっ…て……」
告げられた言葉と共に目の前の体が震えたのが判った。埋めた顔は見えないけれど、多分…
「ありもしないコトでなくなよ……バカ」
ポンポンと頭を優しく叩けば、抱き締めてくる腕に少し力が篭る。
「そんなの、判らないじゃないですか……」
不安は常にキュヒョンの心に付き纏っていた。朝目が覚めたらこの小さい体が動かなくなっているんじゃ無いか。自分が仕事に行っている間に消えてしまうんじゃ無いか…だから朝は彼よりも早く目を覚まして息をしているかを確かめた。仕事に行っている時は常に携帯を持ち歩いて、終われば直ぐに宿舎へと帰宅した。
「不安で仕方ないんです…貴方が居なくなるなんて、考えただけで目の前が真っ暗になる……」
何時から自分の恋人はこんなに臆病になってしまったんだろう。
いや、それは多分……自分のせい…
イェソンは自分の体に縋るように身を寄せる恋人を見つめる。
何でこんなにも、この恋人を自分は悩ませているんだろう?この体になって最初に不安を抱えていたのは自分だった。それを和らげてくれたのは今目の前に居る相手。何時も自分の不安を察知してそれを受け止めてくれて。
優しい腕で抱き締めてくれていた。
なのに何で今の自分はコイツの体を力一杯抱き締めてやれない?
「………ゴメンな…」
こんなに不安を抱えていた心をずっと放置していた。
元に戻れなくても、どうにかなるなんて…軽く考えていた自分に腹が立つ。
「…貴方は悪く無いんです……」
悪いのは、弱い自分自身ですから……
ここまで不安を抱えているのに、それでも自分を労ろうと震える声を絞り出す恋人にイェソンの心は余計に締め付けられる。
この体を抱き締めてやりたい。不安に押し潰されているこの心を救えるのは自分な筈なのに。
大きな体だったら…
元の姿だったら、大切なこの恋人を抱き締めて
不安を拭い去ってやれるのに………
「キュヒョナ…おれをみて…」
呟かれた言葉に、しかしキュヒョンの顔は上がらない。
自分の胸元へと埋められたままの顔を上げさせる為に、イェソンはキュヒョンの両頬へと手を添えて強引に顔を上げさせた。
其処には想像通りの弱気な顔をした自分の恋人の姿。
「ふあんにさせて…ゴメン」
涙に濡れた瞼へと唇を寄せる。触れた途端に体の痛みが増した気がした。それでもイェソンは笑顔のままキュヒョンを見つめる。
「おれは、ぜったいにきえないし…」
濡れた頬にも唇を寄せて。
「ぜったいに、いなくならない。」
額に唇を寄せた時には、痛みは体中を突き刺す程になっていた。それでも痛みなんてもうどうでもイイ。
自分はこの恋人へとどうしても伝えたい事があるから。
「お前をあいしてるから…だから…」
絶対に、死なない。
子供の姿になってから一度も触れていなかった恋人の唇。
そこへソッと誓いのような言葉と共に唇を寄せて。
押し当てた途端、体の痛みが絶頂を迎える。
痛みで体中が裂けるんじゃないか…そんな痛みに意識が飛びかけるけれど。それでももう一度だけ……
「あいしてる……キュヒョナ…」
告げた言葉と共にイェソンは暗闇へと意識を手放した。
※兄さんの大告白っ!!!!(ンギャッ
こんなに心を込めての言葉はきっとギュは聞いた事が無かっただろうと。
果たして兄さんの運命や如何に。
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