続きです。
前後編に分けました。なので今回も後編は短めです;でも今回は最終的に兄さんの勝ちでございます。
偶には上手な兄さんも良かろうかと思いまして(笑)

策士な兄さんバチカモーン!!って方はどぞっ!!









【喧嘩(後編)】



コンコン。叩いた扉への返事は無い。それも当然の事だとイェソンは扉の前で小さく息を吐いた。
キュヒョンを酷く怒らせてしまって、イェソンは後悔をしていた。あんなに怒るとは思っていなかったし優しいキュヒョンは自分には甘いという事も知っていた。だからそれに寄り掛かって自分は胡座を掻いていたのだ。
だけどソレは間違っていたのだと今なら判る。こんなに泣いたのは人生で初めてかもしれない、それ位に弟達の前で恥ずかしささえ忘れて泣いてしまった。

やっと落ち着いたイェソンにリョウクは優しく微笑んで、「行ってらっしゃい」そう背中を押した。それに勇気を貰ってキュヒョンの部屋の前へと来たけれど、いざ目の前へと来ると心が揺らぐ。あんな冷たい目を向けられたのが初めてだったから。自分を突き放すキュヒョンなんて想像すらしていなかった。だから、怖い。

(………でも謝るって…決めたし……)

震えそうになる手をギュッと握る。自分達が居たら謝りに難いでしょ?そう言ってこの階から出て行った二人に若干の心細さはあるけれど、そうやって気を使ってくれた二人の気持ちにも報いたい。イェソンは決心を固めて扉のノブへと手を伸ばした。


「………キュヒョン…」


真っ暗な部屋の中。パソコンの電源だけが入れられていて、此方に背を向ける形で座っている背中が目に入る。開かれているのが何かは判らないが、きっと気晴らしにとネットでも見ているのだろう。
イェソンは扉をソッと閉めてその背へと近付いた。

「キュヒョン…」

また声を掛ける。だけど返事は無いまま…
それがどれだけ自分の心を締め付けているかなんて、この冷たい背中は判っている筈だ。だって自分の気持ちを何時も先読みしてしまえる心を持っているのだから。イェソンは勇気を振り絞って未だ自分を見ない体を背中から抱き締めた。首筋に腕を回してそのまま顔を伏せる。
それでも微動だにしない相手に腕が震えそうになった。

「……ゴメン…」

小さな呟き。イェソンからキュヒョンへと謝るのは滅多に無い事。
喧嘩をしたって折れるのは何時もキュヒョンの方。自分が悪くても、其れすら許してくれていた優しい相手。でも今回は自分から謝らないと駄目だ。
だってきっと彼の心を傷付けてしまった。優しくて温かいこの人物を、深く傷付けてしまったのは自分だから。

「許せなんて…言えない、けど……」

言葉が詰まる。未だ振り向かないキュヒョンにイェソンは縋りつくように腕に力を込めた。

「おれ、を……嫌いに…ならないで……」

切実な、精一杯の想い。
自分を一番に理解してくれて、我が儘を受け入れてくれるこの相手を手放すなんてもう出来ない。それだけ自分にとって大事な人物だって気付いたから。だから………



「俺を……好きでいて……」



瞬間、イェソンの体が大きく傾いた。椅子に座っていたキュヒョンの体がコチラへと向きイェソンの体を強引に自分へと引き寄せる。そのまま塞がれた唇に、イェソンは心臓がギュッと締め付けられるのを感じた。
今一番自分が欲しいと思っていたその感触。それを与えてくれたのは、やっぱり優しい相手の心……


「………貴方を嫌いになれたら…僕はこんなに苦しまなくて済むのに…」


言葉が酷く切なさを含んでいる。それだけ苦しんだ目の前の相手に、イェソンは止まった筈の瞳から一気に雫を溢れ出させた。

「…嫌いになるなんて…許さない………」

駄目だ。自分から離れるなんて許さない。だってコイツは自分を好きだと言った。一生好きでいて、自分の心を掴むと約束したじゃないか。


「俺をずっと好きだって…好きで居るって約束……守れよ…」


自分勝手で傲慢なお願い。まだキュヒョンを好きだと言ってやれない自分の我儘な言葉でさえ、目の前の相手にとっては最高の言葉となり得る。


「………我が儘過ぎです…」


怒っていた筈のその瞳に柔らかな光りが戻る。そのまま甘く塞がれた唇に、イェソンは応えるように舌を絡めた。だってこうやって繋ぎ止めておかないと逃げてしまいそうだったから。
自分から逃げるなんて、許さない。


「お前は……俺のモンだもん……」


至近距離で見詰め合う。その表情は何時もの大好きなキュヒョンの優しいモノに戻っていて、自分はやっぱりこの人物を手放せないのだと改めて実感した。






「………で、何で判っててやるかなぁ…」

未だに自分の膝で泣いている兄に若干の頭痛を覚えつつ、背中をポンポンと叩いてやった。前にあれだけ反省して、もうしないと約束したと言っていたのに。またソンミンの膝枕を堪能している姿を見られたなんてもう確信犯としか言い様が無いじゃないか。思っていたら、イェソンがふいに顔を上げてキョトリとリョウクを見上げた。


「だって……焼きもち、欲しい……」


ポソリと呟かれた言葉にリョウクは驚きに目を見開く。
この兄が、人に余り関心を持たない兄が焼きもちを焼いて欲しい等と言うとは。しかもその材料に自分の恋人を態と使う計算高さ。
それだけで今まで慰めていた自分が馬鹿らしいと一気に体の力が抜けてしまう。


「……で……欲しかったモノ…貰えたの?」


自分で仕掛けておいて泣いてしまった瞳をジトリと見つめれば、イェソンはコトリと首を傾げてから誰もが見惚れる妖艶な笑みを浮かべて見せた。



「アイツは…くれないモノなんか無い……」



この兄に捕まって本当に不運なのはキュヒョンの方かもしれない。
泣き腫らした目を携えて、謝りに行こうと体を起こしたイェソンを見上げつつ、リョウクは聞かなくてもイイ事を聞いてしまった。


「キュヒョナの事…好き?」


それにキョトンとしたイェソンは何とも艶のある顔で笑ってみせて。



「アイツより、俺はアイツを愛してる……」



そのまま部屋を出て行く背中を呆然と見つめる。
キュヒョンはきっと知らない。イェソンの深すぎるその心を。自分の方がイェソンを愛していると思いつつ、実はもっと深く想われている事に気付く事なんてきっと無いだろう。それだけ自分の心を隠す事に長けている兄の背中を見送りながら、今日も又外泊するかとリョウクは携帯を開いた。






※実は一枚上手なのは兄さんだったというお話。
何時も絆されっぱなしな兄さんもギュを取り込む為にアレコレと手を打っている訳ですね。そんな策略家兄さんが居たとは書き上がるまで知りませんでした(えー



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