女子高生の薫を中心に、義理の叔父である和樹への長年の恋心と、それを見守り後押しする継母・和美たちの家族模様を描いた7月10日から3月8日までの物語です。
28万文字で60話に及ぶ長編のお話です
7月10日
陸上部所属で黒髪ショートカットの健康的・古風な少女、嶋岡薫は、親友の川上圭子に呼び止められます。 圭子は「コギャル」風の外見で、薫とは見た目もタイプも正反対。二人は幼なじみでしたが、圭子の転校で一度離れ離れになり、高校で再会して再び親友となった間柄でした。
一緒に下校する道中、圭子は薫が部活を休んで誰かに会いに行こうとしていることを見抜きます。その相手は、薫が密かに想いを寄せる「和ちゃん」こと和樹。
圭子から
「早く告白しないとおじさんになっちゃうよ」
とからかわれた薫は、反発しながらも、彼に「お金の援助」を頼みに行くのだと明かします。
圭子に
「和ちゃんに会わせて」
とせがまれるものの、奔放な圭子に彼を奪われることを危惧した薫は、必死に拒絶するのでした。
夕食後、薫は着替えてから和樹の部屋を訪れます。和樹(24歳)は、薫の父と再婚した女性の弟であり、義理の叔父にあたります。
10年前、薫が小学2年生の時から続くこの関係の中で、薫はあえて和樹を
「おじちゃん」や「和ちゃん」と呼び、
和樹は「お兄ちゃんと呼んでくれ」と困惑しますが、
薫のペースに巻き込まれ、結局「和ちゃん」呼びを許してしまいます。
小学生の頃、「お兄ちゃんとは結婚できない」と思い込んだ彼女は、彼を恋愛対象として見るために呼び方を変えたのです。
薫は、和樹の母・久枝(薫にとっては義理の祖母)に
「和樹が早く帰宅したら連絡してほしい」
と根回しし、満を持して和樹の部屋を訪れます。和樹の家は薫の家から徒歩5分と近く、二人は本当の兄妹のように過ごし和樹の両親も薫を実の孫のように可愛がってます。
「援助交際」という言葉で和樹をからかいつつ、薫が切り出した相談は、両親(卓と和美)の結婚10周年記念のプレゼントについてでした。
薫は、自分がいたために両親が新婚旅行に行けなかったことをずっと負い目に感じており、その代わりに「旅行」をプレゼントしたいと考えていたのです。
薫の悩みを知った和樹は、
「旅行に行かなかったのは仕事が忙しかったからだ」
と嘘をついて彼女を励まします。実際には薫への配慮が理由でしたが、和樹の言葉に救われた薫は、長年の罪悪感から解放されます。
「海外旅行をサプライズで贈りたい」
という薫の計画でしたが、和樹から
「パスポートが必要なため、本人に秘密で海外旅行は手配できない」
という現実的な問題を指摘されます。
また、4歳になる双子の弟たちにも考慮し、行き先は国内旅行に変更しました。
旅行の行き先を国内に決めた二人は、具体的な計画を練り始めます。
和樹は旅行会社に勤める友人のツテを使って格安プランを探すことを約束し、薫は
「さすが和ちゃん!」
と大喜び。思わず和樹の首に抱きつきますが、その際、和樹は薫の豊かな胸の感触に驚き、彼女がもはや「子供」ではないことを強く意識して戸惑います。
「私、女っぽくなったでしょ?」
とモデルポーズでからかう薫に対し、
「俺には大学時代からの彼女がいる」
と告げ、さらに彼氏がいない薫を「自分の心配をしろ」と馬鹿にします。
和樹をずっと一途に想い続けてきた薫にとって、その言葉は「青天の霹靂」であり、深いショックを受けるのでした。
怒りと悲しみに震えながら帰宅した薫は、自分の部屋で日記帳に「バカ、バカ、バカ……」と書き殴ります。
小学6年生の頃から自覚していた和樹への初恋。
これまでの10年間、彼に女性の影を感じたことがなかっただけに、失恋に似た衝撃が薫を打ちのめします。
一方、薫の両親である卓と和美の寝室。
卓は翌日からの海外出張を前に、和美との夫婦の時間を持ちます。
結婚10年、13歳の年齢差がありながらも、互いを尊重し、息の合った睦まじい関係を築いている二人。その安定した幸福の裏で、娘である薫が一人、恋心と家族への想いの狭間で葛藤している対比が描かれます。
7月11日
放課後の部活動中、ランニングをしていた薫のもとに圭子が駆け寄ります。
昨日の「和樹との用事」の結果を気にする圭子は、開口一番
「告白したの?」
と問い詰めます。そこで薫は、和樹に大学時代からの彼女がいるという衝撃の事実を打ち明けました。
「早く告白しないからよ」
と呆れつつも、圭子は落ち込む薫を放っておけません。
和樹を奪い取るのか、諦めて新しい恋を探すのか。はっきりしない薫に対し、圭子は
「薫ならすぐに彼氏ができる」
と自信を持たせ、いつでも紹介すると約束します。
これから彼氏とのデートがある圭子は、
「汗と一緒に和ちゃんのことなんて流しちゃいな」
と言い残し、嵐のように去っていきます。
一人残された薫でしたが、親友に秘密を共有したことで心に溜まっていた重荷が少しだけ軽くなるのを感じます。
ショックが消えたわけではありませんが、薫は再びグラウンドを走り出します。
和樹への断ち切れない想いや失恋の痛み、そして両親へのプレゼント計画……。
様々な感情を抱えながらも、彼女は陸上部員らしく、身体を動かすことで日常を取り戻そうとするのでした。
7月19日
和樹に「彼女がいる」と言われ、彼氏がいないことを馬鹿にされたショックで、薫は1週間以上も和樹の家を避けていました。
しかし、両親への旅行計画を相談していた手前、和樹からの電話を無視しきれず、渋々ながらも明日会いに行く約束をします。薫は「怒っているふり」をすることで、自分の動揺を必死に隠していました。
薫との電話の直後、和樹のもとに本物の恋人・亜希子から「今すぐ会いたい」と連絡が入ります。大学時代から6年越しの付き合いですが、就職後のすれ違いから、二人の間には見えない溝ができていました。胸騒ぎを感じながら、和樹は思い出の喫茶店へと向かいます。
喫茶店で待っていた亜希子の口から告げられたのは、「別れたい」という言葉でした。和樹と会えない寂しさを埋めてくれたのは、二人の共通の友人である岸本でした。
和樹は自分の慢心と配慮不足を悔やみますが、亜希子の決意が固いことを悟り、自ら「さよなら」を告げて彼女を送り出します。
初めて心から愛した女性との、本当の終焉でした。
しかし、明日対面する和樹が、どれほど深い喪失感を抱えているかを薫は知る由もありませんでした。
7月20日
10日ぶりに和樹の部屋を訪れた薫は、Tシャツにミニスカートといういつもの無防備な姿で、両親へのプレゼントである旅行パンフレットを吟味します。
和樹は彼女の貯金額に驚きつつも、「お兄さまーっ」と甘える薫の勢いに負け、費用の半分を援助することを約束します。
失恋のショックを隠しながら接する薫と、慣れた手つきで彼女をあしらう
薫が北海道への旅行プランを決め、和やかな雰囲気になったのも束の間、薫は禁断の質問を投げかけます。
「昨日、彼女とどこに行ったの?」
亜希子との壮絶な別れから24時間も経っていない和樹にとって、それは最も触れられたくない傷口でした。心の余裕を失っていた和樹は、
「さっさと帰れ!」
と薫を激しく怒鳴りつけてしまいます。
泣きながら飛び出していく薫の後ろ姿に、和樹はすぐに後悔の念に駆られ、母・久枝に諭され、和樹は薫の母(実の姉)である和美に謝罪の電話を入れます。
和美は鋭い勘で、和樹が
「彼女と何かあった」
ことを見抜きます。
そこで和樹は初めて、6年付き合った亜希子と昨日別れたこと、そして彼女に別の好きな人ができたことを打ち明けました。
「稼げるようになるまで」という男の意地が、結果的に亜希子を寂しがらせ、別れを招いたことを悔やむ和樹。
その痛みを抱えながらも、彼は
「両親に孫(優と充)の顔を見せてやってくれ」
と姉に頼みます。失恋という高い代償を払い、当たり前にある家族の尊さに気づき始めた和樹の姿に、和美は弟の静かな成長を感じ取るのでした。
泣いて帰宅し
「和樹とは絶交だ」
と息巻く薫に対し、和美は和樹が怒鳴った理由を明かします。
それは、彼が昨日、6年越しの恋人と別れたばかりだったということ。
和樹が最も触れられたくない傷口に、無意識とはいえ薫が触れてしまったのだと諭されたことで、薫の怒りは一瞬にして消え、深い同情へと変わります。
和樹の失恋を知り、落ち込む薫。
そんな娘の様子を見て、和美は初めて薫が和樹に「恋」をしていることに気づきます。
薫は、初潮を迎えた12歳のあの日、和美に「お嫁さんになりなさい」と言われた時から、心に決めた相手が和樹だったことを告白します。「お兄ちゃん」と呼ばなくなったのも、彼と結婚するためだったという健気な決心を、和美は温かく受け入れ、全力で応援することを約束します。
和美は和樹に電話をかけ、八つ当たりの「つぐない」として、夏休み中に薫を10回デートに連れて行くことを約束させます。
親からチクられることを恐れる和樹は、渋々ながらもこれに承諾。
和美はあえて薫に
「和樹から連絡が来るまで自分からは行かないように」
と助言し、和樹の反省と薫への優しさを引き出そうとする「大人の作戦」を授けます。
嵐のような一日が終わり、卓と和美は今夜も睦まじく夜を共にします。
卓の冗談をいなしながらも、深い愛で結ばれている二人。
その傍らで、薫は「和ちゃんのお嫁さん」という幼い頃からの夢に向かって、一歩踏み出す希望に胸を膨らませるのでした。
7月25日
金曜日の夜、和樹から約束通り電話が入ります。
先日の非を詫びる和樹に対し、薫は平静を装って応対。
最初の目的地は、薫が大好きな「ディズニーランド」に決まりました。
明朝8時、車での迎え。和樹への恋心を秘めた薫にとって、特別な夏休みがついに幕を開けます。
デートを明日に控え、和美は薫に自分の恋の武勇伝を明かします。
それは、卓に毎日手作り弁当を押し付け、胃袋から彼を射止めたという話でした。
和美の行動力と料理の腕が、コンビニ飯ばかりだった卓の心を溶かしたのです。
さらに、当時学生だった和樹もしっかりその恩恵(弁当の便乗)に預かっていたという意外な繋がりも判明します。
話題は、薫の生みの母・里美さんのことへ。
最愛の妻を亡くし、心を閉ざして仕事に打ち込んでいた卓。
そんな彼の「本当の笑顔」を、和美は偶然公園で薫と遊ぶ姿の中に見つけました。
和美はその笑顔に一目惚れし、卓と、そして寂しがっていた幼い薫の心に寄り添うことで、新しい家族の形を築いていったのです。
自分には得意なものがないと弱気になる薫に対し、和美は
「薫の良さはパパ譲りの笑顔」
だと励まします。
まずはこの10回のデートで、自分の気持ちに正直になること。和美に背中を押された薫は、不安を抱えながらも、明日のデートに希望を見出すのでした。
7月26日
ディズニーランドから帰宅した薫は、行列の間ずっと和樹と手をつなげたことを和美に報告し、喜びを爆発させます。
しかし、和樹を「反省」させるためにあえて不機嫌な振りをし続けたことが裏目に出ていました。和樹は
「薫はまだ怒っていて、デートを楽しんでいない」
と思い込み、残りの9回の約束にすっかり嫌気がさしてしまったのです。
窮地に陥った薫を救うため、和美は再び和樹に電話を入れます。
和樹の「もう嫌だ」という弱音を「混雑のせい」にして受け流し、さらには弁当代の恩義を盾に和樹を黙らせるという、見事な話術を披露。
和美の機転により、和樹の不満は有耶無耶になり、なんと翌日の日曜日に「2回目のデート」としてドライブに行くことが決定します。
デート先を相談する中で、和樹は「亜希子(元カノ)と行った場所には行きたくない」と漏らします。受話器越しにその名を聞いた薫は、和樹の心の中にまだ色濃く残る前恋人の存在を強く意識し、胸に力を込めるのでした。
和樹にとっての「償い」が、薫にとっては「恋の戦い」へと変貌していきます。
7月27日
和樹との山中湖ドライブから帰った薫は、珍しく夕飯作りに立候補します。
メニューは和美直伝の「秘伝のカレー」。幼い頃からこれしか作れない薫ですが、その味は家族全員の大好物。久々の手料理に、父・卓は娘が「いつの間にか大人になった」ことを実感し、目を細めます。
夕食後、和美は薫からデートの詳細を聞き出します。
今回のドライブでは、薫は「彼女(亜希子)」の話題を避け、学校のことや幼い頃の思い出を語り合いました。
その結果、和樹の方から「来週の日曜もドライブに行こう」と誘ってくれたのです。
二人の距離が着実に縮まりつつあることに、和美も期待を寄せます。
寝室で卓は、
「薫に家族サービスしろと言われた」
と苦笑いしながら和美に話します。
卓は、薫がいつか誰かを結婚相手として連れてくる日を想像し、
「楽しみでもあり、寂しくもある」
という父親特有の複雑な心境を吐露します。その相手がまさか義弟の和樹であるとは露知らず……。和美は心の中で、いつか来るその日を楽しみに待つのでした。