1985 6月号 No.55 高藤聡一郎
中国に古来から伝わる恐るべき拳法の奥義
●超人気功家列伝
気を使い伝説的な強さを誇った達人たちのエピソードを紹介した特集。
気を使った拳法として、太極拳,形意拳,八卦掌,が有名で、三大内家拳と呼ばれている。
普通拳法は、相手の攻撃に対し、かわしたり、退いたり、回り込んだりといった戦いかたを
する、そういった中で、形意拳においては、前進あるのみで、三大内化拳中もっとも重厚で
力強く、体の中で練った気を大砲のようにほとばしらせ、相手が打ってきても、気の一撃で
はじき飛ばしてしまう。
形意拳のなかで、最も有名な人が、19世紀に活躍した郭 雲深(かく うんしん)だろう。
彼は崩拳(ほうけん)のみを磨き、あらゆる相手をひと突きで打ち破っている。彼の強さを評
して ‟半歩崩拳あまねく天下を打つ”といった。
重圧な技を磨いていった郭 雲深 (五行拳の崩拳)とは正反対で、軽妙、敏速な技を得意と
した人もいた。
有名なのが宋世栄(そうせいえい)だ。彼が得意にしたのは、形意拳でも十二形拳のほうで
どの動物の形でも彼が演ずると、その動物そのもののような動きになったという。動きだけ
ではなく、その能力も発揮したのである。
燕形を演じると、20センチぐらいしかない長椅子の下を、一気にすり抜けた、そして、そのま
ま空中を滑空し、河の幅が10メートルもある、離れた河の向こう岸まで飛んでいった。
軽妙とはいえ、その気のパワーはあなどりがたく、やはり郭のように相手を一撃でたおして
いる。
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形意拳と並び称される内家拳の八卦掌も、珍しい拳法で、掌(手のひら)を主に使い、すべて
円形ないしは回転的に動くのである。
その動きは、まさに竜がうねり舞っているように見えるところから、竜形八卦掌とも呼ばれる。
八卦掌は気を練るのに最高によくできているのだ。
気を強めたり流れるようにするために、‟ひねり” と ‟沈身(ちんしん)下半身を十分に落とす”
という2つの練習を徹底的にやる。八卦掌はこの2つを形の中に取り込んでいる。
八卦掌の創始者といわれるのは董海川(とうかいせん)という人で、山で道に迷ったところ、
道士が現れ、不思議な拳法を教えてくれた、それは、まさに竜の動きで、道の奥義をその
なかに具現していたのである。
董の動きは人間離れしていて、いかなる武術家が手合わせしても勝てなかったという。
この噂をきいた郭 雲深(かく うんしん)は董に試合を申し込んだ、何人もかわし得た者は
いなかった、郭の神技に近い崩拳を、董は幻妙な動きですべてをかわした、董のくりだす
八卦掌の技も、一つ残らず郭には通じなかった。
虎の猛攻のような郭の形意拳と、竜のような動きの董の八卦掌の激突は、その日は勝負が
つかず、翌日も、また翌日もその続きを行ったが勝負がつかなかった。
3日目になると、勝負をやめ、友人になり武術談議に花を咲かせるようになった。その結果、
2つの拳は、まったく違った技、動きからなっているにもかかわらず、その原理が共通してい
るのに気がつき、のちに内家の拳法家たちは、2つの拳法をあわせて学ぶようになった。