商人が馬をせかしたおかげか、どうか。
蔦のアーチの前に私とラルフが飛び降りた時には、まだ玄関のあたりで揉めていた。
一人はラルフより少し年上らしい青年。
一人は、私よりいくらか年下らしい少年。
二人とも上等なものを着ているけれど、掴みあいの喧嘩のせいでところどころ無残に破けてしまっている。
あぁ、なんてもったいない。
なんて言っている場合では無い。
口々にわめき合いながら拳を振るい爪を立てあう二人に駆け寄ろうとしたところで、青年の方が腰のポケットから折り畳みナイフを取り出すのが見えた。
「馬鹿っ」
身分とか、何とか。
一切合財、頭から吹き飛んでいた。
私は大声で罵倒するなり、青年のナイフを持った手に飛び蹴りをかましていた。
ナイフがあさっての方向に吹っ飛んでいく。
素早く、ラルフが青年の腕をひねりあげつつ地面に押し倒した。
地面に這いつくばった青年はラルフにのしかかられたまま、口と目をまん丸に空けている。
自分に起きたことが理解できないらしい。
私は背後に庇った少年を横目でみやった。
すると、少年は肩で息をしながら私を無視して青年をにらんでいた。
玄関の奥、扉の近くで、黒衣に身を包んだ上品な老婦人が立ちすくんでいる。
その顔は青ざめ、強張っている。
「奥さまぁ!お怪我はありませんかぁ?」
息を切らしながら駆け寄ってくる商人の、どこまでも気遣いにあふれた声に、老婦人の顔がほんの少し落ち着きを取り戻した。